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Episode5 【訴え先】がない!〜映画界の実態を把握する・現場の声 Mash UP〜

JFPではこの度、映画の制作現場で働く女性スタッフの皆さん、9つの部署から11名の方にご参加いただき複数回インタビューを行いました。この「現場の声 Mash UP」では、インタビュー参加者が不利益を被ることがないよう全員匿名とし、発言者やエピソード詳細を入れ替え再構築し編集しています。

問題や課題を感じていても、発信しにくい立場の方々からの具体的な声を可視化し、問題点を共有しようという試みです。日本映画界の労働環境の改善に向けて、今後どのような取り組みが必要なのか?実際の現場からの声、第5回【訴え先】がない!をお伝えします。
取材:近藤香南子・歌川達人 / 編集:近藤香南子

<インタビュー参加者>
年齢:20代〜40代(キャリア5〜15年)
部署:アシスタントプロデューサー、演出部、撮影部、録音部、メイク部


厳しい上下関係

録音部:これはハラスメントか分からないんですが、以前先輩が、集中力が落ちるからお昼ご飯を食べませんという方だったんです。食べていいよって言われてたんですけど、まあ・・・食べれなかったですよね。上の人が、食べずにお昼休みに次のシーンの準備をしていると。自分も率先してやらないと、と感じて、それでちょっと体調を崩しかけました。

JFP:辛いですね、それは。

メイク部:わかります。お手すきの方から食べてと言われても、お師匠さんが食べてなかったらアシスタントは食べられないですよね。自分の上の人が食べてないのに、自分が食べるなんて許されない。直接言われてなくても、ムードとして。

演出部:露骨な暴力とか暴言とかのハラスメントだけでなくて、そういう圧みたいなことは結構ありますよね。

制作部:じわじわしんどい。

撮影部:どうしても縦の上下関係があるから、先輩のやり方によって仕事内容だけでなく、現場での働きやすさも大きく左右されますね。

メイク部:先輩に物申すとか、できる雰囲気ではない。かといってアシスタントは私一人ということが多いので、誰に相談できるわけでもなくて。

泣き寝入りするしかない

演出部:コロナで減りましたけど、監督、プロデューサーと演出部で親睦を深めるために食事に行ったりすると、悪気なく、まあ内輪だからと、下ネタを言われる。自分しか女性がいなくて、えっと思っても、笑ってごまかすしかないっていう場面が非常に多いです。

JFP:今映像制作の現場にセクハラという点ではすごくグラデーションがあると聞きました。ハラスメントに自覚的になってきている監督やプロデューサー、ボスたちがいる反面、全く念頭に置いたことないという人もまだまだいる。

撮影部:ハラスメント講習の後に、「〇〇ちゃん可愛いね、おっと、これもセクハラになっちゃうのかな?はっはっは」みたいな一連のコントに付き合うのも、もううんざりです。それをやめろと言ってるのに。

演出部:今のカット良かったですねとか、ここのライティング凝ってましたねとか、そういう雑談がしたいのに。なんでそのセクハラコントに付き合わないといけないのかと。

AP深刻なセクハラ、というか性加害もやっぱりあって。地方で長期ロケなどで、見習いの子に何かあった時に、現場判断で被害にあった子を東京に帰すとか。どういうことって思いますけど、そういうケースがあったと聞きます。

演出部:現場は進行していってしまうから、なかなか渦中に問題を解決できないですよね。

AP:対処法になりますよね。根本的な解決ではない。上の人や先輩からの恩恵を受けて仕事いただいてるってのもあるから、紹介された仕事で、セクハラ、パワハラを受けた時に一体誰に相談したらいいのかなというのは、多分みんな思ってるんじゃないのかな。

演出部やる人って、人を選んで、立場の弱い人にやるし。見習いの子とか。やっぱり、上司やプロデューサーに言っても腑に落ちる解決になりませんよね。

AP:現場プロデューサーはだいたい受注契約のフリーのプロデューサーだし、そこで当事者を守ることと作品を守ることの間に立たされるのは無理があると感じる。

メイク部:この業界って一回仕事したら会わない人もいるから、この作品終わるまでと我慢しちゃうことがある。ある意味そこがすごい楽な業界だなとも思うけど、「後1ヶ月我慢すればいいや」って。だからわざわざ声を上げない、っていうこともある。言うよりも我慢してしまう。

撮影部:大きい会社だと今は対策室があったり、カウンセラーさんがいたりするのかな。どこに言えば解決できるのかわからない。

JFP:窓口があったら相談しますか?

演出部:例えばセクハラを相談して大きな問題になったときに、撮影現場に女性が少なかったら、誰が言ったかバレますよね。なんてことしてくれたんだって、そういうことになると、自分が我慢しちゃおうって思うかもしれない

制作部:でも相談窓口があることで、抑止力にはなるのかな。気をつけようという。今が全くない状況だから。今はセクハラもパワハラも、ギャラ未払いも、直前キャンセルも、全部泣き寝入り。誰も解決してくれない。

リスペクト講習のその先

JFP:Netflix作品も増えて、リスペクト講習を受けたスタッフも増えてきたのではないかなと思いますが、変化を感じますか?

撮影部:さっきの、セクハラコントが増えたくらいで、実感としてはないんですよね。もちろん、先輩たちは昔は殴る蹴るは当たり前だったって言うんで、その頃に比べたらマシになっているんでしょうけど。

制作部:でもこうやって「インタビューで思っていたことを話してみようかな」というくらい、「おかしいよね」って雰囲気は出てきたかも。

メイク部:抱え込まずに匿名でもシェアできる場所があるといいかもしれない。何がハラスメントかを知る、気付くためにも、全ての現場でハラスメント教育をやって欲しい。

撮影部:誰でも出入りできるけど閉鎖的な業界だから、常にリマインドし続けないとすぐに麻痺していってしまいますよね。自覚がない人はとにかくずっと気づかないし、偉くなっていくと誰も止めないからエスカレートする。

制作部:実際Netflixにはハラスメントとメンタルのホットラインがあって、連絡できるそうなんですが、実際連絡したり、機能したケースがあったら知りたい。結局制作のプロダクションの上の母体、クライアントになるんでしょうか、そこに報告するわけですよね。

撮影部:完全に第三者機関というわけでもないし。例えば海外のスタジオみたいに、プロダクションやプロデューサーに対してペナルティがあるのかなとか。知りたいです。窓口のその先。

私たちを守ってくれるのは誰?

AP各パートの資格、ライセンス、認定みたいなのがないんですかね。あれば堂々とできる。そういうのがない人が集まって、結局1ヶ月とか経つと去って。楽かもしれないけど、中には責任感がない人もいたり、新人の子たちをいじめたりする人もまだまだいます。アメリカでは、日本で下のポジションとされる人も、みんな自分の仕事を堂々とやっている。

撮影部:海外は縦のチームじゃなくて横のチームでやっている感じですよね。すごく羨ましい。人数も多いし、その中で技術を磨きあってる感じがします。

メイク部:横の繋がりがないというのは本当に恐ろしくて、今のこの状況が、おかしいと思うけど、一般的におかしいのかということが分からなくなる。よくあることなのかとか、誰かと話すことができるといい。自分一人じゃわからないことをシェアしあう。そういう精神的な面が一番大きい。誰にも話せなくて、私だけなんじゃないか、仕事が来なくなってしまうかもと思っちゃう。

撮影部:技術パートは割と横の繋がりがある。学校系の繋がりや機材屋さんでのコミュニケーション、助手は技術面でのワークシェアができるから、割と横の繋がりをつくりやすい。一応協会もあるし。

JFP:その他のパートは孤立しやすい環境が生まれやすいっていうことがありますね。

AP:今コロナで、ずっとマスクをしたまま、食事も向き合わずに黙って食べて、撮影中も出来るだけ人は少なくとなっていて、スタッフ間で業務以外のコミュニケーションを取る時間が減っている。気の合った人と飲みに行くこともないし。まあ無駄な付き合いもないのは気が楽だけど......。

メイク部:根本的な解決になるかっていうのは置いておいて、横の繋がりがあれば、現場を知っている仲間同士で、こんなことがあったんだよねって、言えるのはすごく大事ですね。

録音部:キャリアの最初って「断れない、選択肢がない」ですよね。そういう時こそ横の繋がりが必要なのに。キャリアの時期によって必要な情報が違うと思いますけど、特に始めた頃は右も左も分からないし、聞ける相手もいないから。

演出部:キャリアの入り口で仕事やお金のことを、聞けるところがどこにもない。サポートされてない。全部自分で頑張れよみたいになっちゃって。それが人が辞めていく要因でもあるし、サポートされていないこと自体悲しく感じますね。

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Vol.6【未来】がない!に続く

※本プロジェクトは、トヨタ財団 2021年度研究助成プログラム「日本映画業界におけるジェンダーギャップ・労働環境の実態調査」(代表:歌川達人)の助成を受けて実施されています。


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