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批評を書く練習のために記事を挙げていきます。大学生。小説。アニメ。その他。

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短篇小説『かえる』

「おまえ、ひとりなんだろう? へへ、わかるぜ。もうやめちまえよ、にんげん」 夕方の公園。 ブランコに乗っていた。 背後から声がした。振り返ると小さな蛙がいた。 口をぱくぱくさせている。 「おまえ、ひとりなんだろう」 蛙がまたしゃべった。 僕は立ち上がって顔を覗き込んだ。まん丸い眼をギョロっとさせるが、それ以外の反応はない。 「人間って、辞められるの?」 「おれをみてみろ。おれはにんげんよりえらいんだぞ」 「分かった。僕を好きにして」 そう言った瞬間、視界がぐに

    • ソネット17番 パブロ・ネルーダ

      影と魂の間で ひそかに君を愛す その隠された暗さに 慕しみを込めて I love you as certain dark things are to be loved, in secret, between the shadow and the soul. -Pablo Neruda /Sonnet ⅩⅤⅡ 映画『パッチ・アダムス』に引用されていた詩の一節。字幕を忘れてしまったので一部自分の意訳で。 こんな風に、他人も自分も愛してみたい。 その感性を、滋味とロマン溢れる

      • 短篇小説『若年』

        コンビニの夜勤がいつものように堪えて嫌な気分でシフトを上がった。いつ辞めようかいつ辞めようかと毎度のように考える。もうかれこれ十年近く惰性で勤め続けているが思い入れは全くない。 何よりも体がついてこないのがそう考える理由の一つだった。大学生の頃は、夜勤明けに朝から一杯ひっかけたり、友人との遊びに直行したりといくらでも無茶ができた。 しかし、30歳を控える今の自分の肉体はもうすでに全盛期を過ぎ、ろくな運動習慣も食事制限もしてこなかったツケが回り始めて疲れやすく力が出ない日々が

        • 大江健三郎『飼育』/ただただその巨大さに圧倒されて

          ノーベル文学賞作家、以前の大江健三郎私は今まで、大江健三郎と聞くと、ああノーベル文学賞作家ね。と答えるくらいしかその存在について何も知らなかった。だから今回初めて、新潮文庫の『死者の奢り・飼育』中・短編集で大江健三郎の作品に触れることになった。 圧倒的の一言に尽きる感想だった。 芥川賞受賞作でもある今作『飼育』を書いたのは大江が23歳の時。私と同じ大学生の身分でありながら、なぜここまで、鋭く、おぞましく、巨大な実存に満ちた作品を書けるのだろうか。 その精神は、思考は、一

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        短篇小説『かえる』

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          短篇小説『雨』

          『雨』 雨の音が耳にまとわりついて離れない。 授業を終えて家に帰ってきてもそれはしつこく部屋の中まで追ってきていた。本を読むにもテレビを見るにも雨はしとしとと降り続いた。 それはまるで胸の中に雲がかかり、霧が立ち込めているような感じだった。「僕の心に雨が降っている」。その感情が、あたかも鼓膜を実際に震わせて耳腔に反響してくるように感じられる。耳に響く雨音はつーんとした刺激となって脳を犯し、僕の思考に靄をかけた。 「雨は蕭々と降っている」 三好達治を口にして、僕はたば

          短篇小説『雨』

          おやすみプンプン試論/凡人の悪を描いた名作か?

          はじめに:今の個人的心境も踏まえて 筆者は今、個人的に板挟みになっていることがあり、言ってしまえばプンプン的クズ人間状態なので、この作品を通してプンプンや雄一に共感しっぱなしだった。彼らが口にする懺悔は僕のものだったし、彼らが投げかけられる非難は、僕が今までに他者から投げかけられたものと同じだった。だから、彼らの行動の先に自分の人生の行く末をゆだねていたし、物語を読み終わった今でも、彼らの行動に倣おうという気でいる。それでは本編に移りたい。 プンプン善人説はて、そもそもプ

          おやすみプンプン試論/凡人の悪を描いた名作か?

          ショートショート/『夕暮れ、逃げ出した後』

          『夕暮れ、逃げ出した後』 「自分が小学生だった頃のことって、思い出すことない?」 琴乃は私にそう問いかけて、視線を空に向けた。 夕暮れの堤防は通りかかる人も少なくとても静かで、たまに道路を走る車の音や、耳元を切る風だけが、私と琴乃の世界に入り込んでいた。 琴乃が、急に不安なことを言いだすものだから、怖くなった私は、もう取り合ってやんないとまで思ったけれど、いつもの癖で正直に答えてしまった。 「たまにあるよ。どんな友達がいたとか、何をして遊んだとか、自分が何をすきだった

          ショートショート/『夕暮れ、逃げ出した後』

          『傷物語ーこよみヴァンプー』批評/「あなた」と「作品」。ただそれだけの世界。

          キスショット、お前は俺だ。先日、『傷物語-こよみヴァンプ-』を劇場で鑑賞した。三部作は見ていなかったので、『傷物語』には今回初めて触れたわけだが、鑑賞後、キスショットは自分なのではないか、そんな思いに囚われてしまった。「半殺し」に遭いながら「生かされて」いる。そんな境遇に共感した。人はだれしも牢獄に囚われている。この、「生」という牢獄に。阿良々木暦は彼女を生かしたが、助けることはしなかった。このことの是非が本編で語られることは無い。 考えてみると、『物語シリーズ』本編にお

          『傷物語ーこよみヴァンプー』批評/「あなた」と「作品」。ただそれだけの世界。

          短篇小説/『鏡』

          『鏡』 異変に気付いたのは朝起きてすぐ、顔を洗う時だった。 「無い」 洗面所に立ったら、いつものように顔に石鹸を塗りたくり、蛇口をひねって、顔をすすぐ。石鹸の泡の残りを確かめるために鏡を見上げた。その時だった。 無い、自分の顔が無いのだ。 〈頭部の前面。目・口・鼻などのある部分。つら。おもて。〉 まさに辞書にある通りの自分の頭部の前面が、洗面所の鏡に写っていなかった。 正確に言うなら、頭頂部、側頭、耳、顎という一連の顔の輪郭はしっかりと映っている。しかし、その中心

          短篇小説/『鏡』

          『ゴジラ-1.0』考察/何を見るべきだったのか

          今、『ゴジラ』をどう観るべきか本日、渋谷で『ゴジラ-1.0』を観てきた(以降『-1.0』と表記)。 放映開始からすっかり遅くなってしまったが、観てよかった!と思った。話の筋は分かりやすいし、ミリタリー好きとしては兵器の名と戦闘シーンで盛り上がってしまう(震電最高!高雄良いよ!!)。 何より浜辺美波演じる典子が可愛い。この可愛さのおかげで、映画の美的価値が支えられていると言って良いと思う。マジで、真面目に。そんなことを言っていると、まるで中身への感想がないのかと言われそうだが

          『ゴジラ-1.0』考察/何を見るべきだったのか

          『千と千尋の神隠し』考察/「私」はどこにいるのか

          あらためて観るとやっぱり良い先日、金曜ロードショーで『千と千尋の神隠し』(以下『千と千尋』と略記)が放送された。金曜ロードショーは数年前までほぼ毎回観ていたのだが、最近はめっきりだった。だから今回、流しではあれ『千と千尋』を面白く観れたことにびっくりしたし、ツイッターで(私はこの呼称が好きだが)様々な反応を読んで、この記事を書くインスピレーションを受けられたこともとてもよかった。それでは、久しぶりになるが本編考察を始めたい。 生きて帰りし物語。ビルディングスロマンの否定。

          『千と千尋の神隠し』考察/「私」はどこにいるのか

          武田綾乃『愛されなくても別に』/しっとりと感想             

          しょうもない人生 「しょうもない人生!」。霜降り明星の粗品が度々、漫才でツッコむこのセリフ。相方のせいやが、あまりに下らない「思い出」や「走馬灯」を思い描く場面で発せられるものだが、自分の人生にも同じような感想を抱くことが皆あるだろう。人生に関して悲観的な姿勢で生きる人物が描かれた作品を今回は取り上げたい。武田綾乃『愛されなくても別に』である。 「このままじゃアタシの人生がめちゃくちゃになる」 本作の主人公は、共に過酷な家庭環境を持つ二人の女子大生。掲題のセリフは、主

          武田綾乃『愛されなくても別に』/しっとりと感想             

          アニメ『君は放課後インソムニア』/「今」だけは、眠れない夜を一緒に居たい

          ・導入眠れぬ夜のための、青春漫画。 人が眠れない理由はきっと、たくさんある。このブログも、3時半という深夜を通り越した時間に書かれている。眠れない人は、それと同じくらいか、もっとたくさんいるかもしれない。本作は高校生の物語だが、執筆者は大学生だし、サラリーマンやそのほか多くの人が眠れないでいるのだと、なんとなく感じている。「眠れぬ夜のための~」と題された書籍や、X(旧ツイッター)の深夜スペースからも分かる通り。 理由は様々だから、その処方箋や気晴らし、解消の方法も人それ

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          アニメ『進撃の巨人』完結ありがとう。/「私たち」と「物語」の「循環する生」

          『進撃の巨人』をめがけて生きていきたい 11/5,24時、NHKで『進撃の巨人』ファイナルシーズン完結編(後編)が放送された。つい、一日前のこと。とてもよかった、ほんとに良かった。そうとしか言えない、すごくよかった。エレンとミカサが結ばれないことが心残りだけど、もう何も言うことはできない。心の底から憧れるし、揺すぶられた。進撃の巨人は大好きな作品で、人生の悩みとか、自分の生きる意味とか、そういう投げやりな気持ちの道しるべだと、個人的に思っている。いろんなものをこの作品から

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          『インストール』綿矢りさ/押し入れとコンピューターから、いつかは「オトナ」へ

          最近の個人的な趣味:『現代小説クロニクル』 私事だが、先日、金原ひとみ『蛇にピアス』の感想をこのブログに挙げた。その流れで今回は、綿矢りさの『インストール』について書きたい。同じ著者の『蹴りたい背中』はどうしたのか、という方もいるかもしれない。金原、綿矢の二人が芥川賞をダブル受賞したときの作品がそれぞれ、『蛇にピアス』『蹴りたい背中』だった。残念ながら今手元には『インストール』しか用意できなかったのだ。だが、読んでみれば、著者が高校生の時の文藝賞受賞作だそうで、まあ、面

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          金原ひとみ『蛇にピアス』/ルイの挫折、アマの失踪。現代に向けて

          はじめのはしがき 芥川賞受賞から20年、金原ひとみはパリへの移住を経てどのように時代を捉え作風を変化させてきたのか。『ユリイカ』11月号は金原ひとみ特集だそうだ。この機会にと、私は初めて彼女の作品を読んだ。『蛇とピアス』を。読んだばかりだが、一大センセーションを作った(私の母親がしっかり記憶しているような時代感らしい)この作品の味を感じようと少しだけ書いてみることにしたい。 流動性と固有性を往還して 例えばゼロ年代批評のような場では、「終わりなき日常」といものが一つ

          金原ひとみ『蛇にピアス』/ルイの挫折、アマの失踪。現代に向けて