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天風の剣

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右目が金色、左目が黒色という不思議な瞳を持つ青年キアランは、自身の出生の秘密と進むべき道を知るために旅に出た。幼かった自分と一緒に預けられたという「天風の剣」のみを携えて――。 …
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2023年11月の記事一覧

【創作長編小説】天風の剣 第85話

【創作長編小説】天風の剣 第85話

第七章 襲撃
― 第85話 首 ―

「こんなにたくさん……!」

 キアランは花紺青が操る板の上に乗りながら、眼下に広がる光景、そしてそこから発せられる強烈なエネルギーに圧倒されていた。
 打ち付ける雨の中、押し寄せる黒い巨大な群れ。
 前を飛ぶシトリンたちが群れの中心部に近付いたと思われるとき、漂う空気が、そして獣たちの動きが変わった。

「なんだ……! あれは……!」

 黒雲が湧き上がるか

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【創作長編小説】天風の剣 第86話

【創作長編小説】天風の剣 第86話

第七章 襲撃
― 第86話 もう、自由なんだよ ―

「許せない……! こんな力の使いかた……!」

 体も魂も乗っ取られて走り続ける獣の群れを睨みつけ、花紺青は声を震わせた。
 キアランと花紺青は、花紺青の操る板に乗り、上空から群れを眺め続けていた。
 赤目によって操られている獣たちは、もはや生きた野生動物ではなくなっているようだった。それは、赤目を保護する入れ物でしかなかった。
 キアランは、

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【創作長編小説】天風の剣 第87話

【創作長編小説】天風の剣 第87話

第八章 魔導師たちの国
― 第87話 立ち上る、白い影 ―

 町を見下ろす小高い丘。緑に包まれたその丘に、そびえ立つ純白の塔。明るい日の光を受けたその塔は、かすかに虹色に輝く。守りの力の強い、守護の石と呼ばれる岩石で創られた、特別な建造物だった。
 美しい装飾の大きな窓の前に立つ。窓には、上部にステンドグラスがはめ込まれている。

「キアラン……、大丈夫かなあ」

 窓枠に手をつき、大きな瞳いっ

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【創作長編小説】天風の剣 第88話

【創作長編小説】天風の剣 第88話

第八章 魔導師たちの国
― 第88話 みんな、しばらくばいばーい ―

 青空に、白い鳥。
 白い鳥はまっすぐ空から飛んできて、魔導師オリヴィアの細い肩にとまった。
 鳥の足には、小さな手紙らしきものが結ばれていた。

「塔からの返事です」

 オリヴィアは、手紙を紐解く。

「塔?」

 キアランは、思わずきょとんとした。
 手紙に視線を走らせるオリヴィアの美しい横顔は、輝いていた。とてもよい知

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【創作長編小説】天風の剣 第89話

【創作長編小説】天風の剣 第89話

第八章 魔導師たちの国
― 第89話 日の光のぬくもりと夜の冷たさ ―

「なんだかこの辺、居心地悪ーい」

 上空を飛んでいたシトリンだったが、白の塔を目前にしてその動きを止める。

「シトリン様……。なにか、妙な感じがします」

 シトリンの右脇を飛んでいた翠もその場に止まり、かすかに顔をしかめていた。

「まあ、どうということもないのですが、なにか――、方向感覚を狂わせられるような奇妙な――

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【創作長編小説】天風の剣 第90話

【創作長編小説】天風の剣 第90話

第八章 魔導師たちの国
― 第90話 まだ若き王 ―

 白の塔からそう遠く離れていない東の地に、王の居城があった。

「国王陛下。具申いたします」

 重臣ケネトの声が広間に響く。
 王の御前にひれ伏す三人。ケネトと僧衣の男、そしてヴィーリヤミだった。
 ケネトが言葉を続ける。

「魔導師オリヴィア様について、それから四聖の今後の処遇についてご報告とご提案を申し上げたく存じます」

 王は、ケネ

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【創作長編小説】天風の剣 第91話

【創作長編小説】天風の剣 第91話

第八章 魔導師たちの国
― 第91話 和やかな、貴重なひととき ―

 城からほど近い、広い屋敷のような店だった。

「いらっしゃいませ」

 笑顔を張り付けたような黒服の男が出迎える。
 長い廊下を進むごとに深まる香草の香り。料理の邪魔をしない、品のある香りだった。
 黒服の男に案内され、部屋に上がる。
 ヴィーリヤミは、改めて五感を研ぎ澄ますまでもなく、一般人が気付かないこの店の秘密を、いとも

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【創作長編小説】天風の剣 第92話

【創作長編小説】天風の剣 第92話

第八章 魔導師たちの国
― 第92話 闇からの招待状 ―

 月が、星が、塔を照らす。
 今までいたあたたかな広間から、廊下に出る。少し、肌にひんやりとする空気。

「おやすみなさーい」

 頬を上気させたルーイが、アマリア、ソフィア、フレヤ、ユリアナに明るく手を振る。

「ルーイ君。みなさん、おやすみなさい」

 女性陣の柔らかな笑顔、穏やかな声――。とりわけ、アマリアの微笑みを瞳に映し、キアラ

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【創作長編小説】天風の剣 第93話

【創作長編小説】天風の剣 第93話

第八章 魔導師たちの国
― 第93話 新たな冒険へ ―

 王の御前で、首を垂れたまま、オリヴィアは凍り付く。

「愛する国民のためだ。オリヴィア」

 王は、方針の変更をオリヴィアに告げていた。

「ですが……、国王陛下……! 四聖の安全は……!」

「そなたと、守護軍に託す。あの巨大な四天王に襲われた国のような被害を、我々の国で出したくはないのだ」

「世界を守るためには、四聖の安全が――」

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【創作長編小説】天風の剣 第94話

【創作長編小説】天風の剣 第94話

第八章 魔導師たちの国
― 第94話 甘い魔法 ―

 まるで、白昼夢のように思えた。
 窓から差し込む金色の光に包まれ、目の前に立つ黒衣の男、ヴィーリヤミ。穏やかな朝の空気に似合わない、招かれざる不吉な影――。

「おや。おふたかた。まるで幽霊にでも出会ったような顔をなさっていますが、どうかなさいましたか?」

 ヴィーリヤミの口元が、不気味に吊り上がる。
 テオドルとオリヴィアは、ハッとし、急

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【創作長編小説】天風の剣 第95話

【創作長編小説】天風の剣 第95話

第八章 魔導師たちの国
― 第95話 ふたりだけの秘密のお茶会 ―

 町は、活気にあふれていた。
 テオドルやオリヴィアは忙しいので、長年塔に勤めているという男性に、町の案内役をお願いして、キアランたちは買い出しに出ていた。

「うん?」

 ダンが、振り返る。

「んん? なにか、あった?」

 ダンの様子に、ライネが尋ねる。

「いや、あの魔導師が――」

 とび色の、長い髪。一瞬、すれ違っ

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【創作長編小説】天風の剣 第96話

【創作長編小説】天風の剣 第96話

第八章 魔導師たちの国
― 第96話 夜光花 ―

 こうこうと、月の光が下界を照らす。塔は、巨大な白いキャンドルのように闇の中そびえ立つ。
 キアランは、皆を起こさぬよう、そっとベッドを抜け出す。
 あさって出発かと思うとなんだか落ち着かず、眠れなかった。

「どこに行くの? キアラン」

 振り返ると、花紺青が立っていた。

「花紺青――。なんでもない。大丈夫だから、お前は休め」

 キアラン

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