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反体制ハードボイルド小説『黒ヘル戦記』

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『情況』(変革のための総合誌)に掲載された連作小説。 一九八〇年代から九〇年代にかけて、首都のど真ん中にキャンパスを持つ外堀大学はたびたび学園紛争に揺れた。正門にバリケードを築き… もっと読む
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黒ヘル戦記 第六話 狼体験

黒ヘル戦記 第六話 狼体験

『情況』2021年夏号に掲載された反体制ハードボイルド小説

第六話 狼体験
外堀大学には東アジア反日武装戦線にシンパシーを寄せる学生が多かった。70年代の爆弾グループに、80年代の学生たちは何を見たのか。

 狼の吠ゆれば燃ゆる没日かな
         大道寺将司

 1 外堀大学時代の同志にJという男がいる。Jと俺は同じ歳で、同じGK(学術行動委員会)の釜の飯を食った仲間である。
 Jは群馬

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黒ヘル戦記 第五話 秘密党員

黒ヘル戦記 第五話 秘密党員

『情況』2021年春号に掲載された反体制ハードボイルド小説

第五話 秘密党員
1988年3月、外堀大学の学生会館が何者かに襲撃された。外部犯行説、内部犯行説が入り乱れる中、ある人物のスパイ疑惑が浮上する。

どこかに「誰も信じてはいけない」という感覚があった。
リンジー・モラン(元CIA諜報員)

 一 日曜日の朝、ジョーから電話があった。
「よ、武川、久しぶり」
「おお、ジョー、どうした?」

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黒ヘル戦記 第四話 ボクサー(後編)

黒ヘル戦記 第四話 ボクサー(後編)

『情況』2021年冬号に掲載された反体制ハードボイルド小説

外堀大学学生運動の歴史は、白ヘルと黒ヘルの抗争の歴史と言っても過言ではない。
権力との戦いで倒れた者よりも、白と黒の抗争の中で倒れた者の方がはるかに多い。
寺岡修一

 5 ヒュンと風が吹いたかと思ったら、パチーンという音がして、黒のサングラスの男が吹っ飛んだ。
 高野が引っ叩いたのだ。男は尻餅をついて、あわわと口を開けて狼狽えている。

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黒ヘル戦記 第四話 ボクサー(前編)

黒ヘル戦記 第四話 ボクサー(前編)

『情況』2020年秋号に掲載された反体制ハードボイルド小説

第四話 ボクサー
1987年9月、白ヘル・マルゲリ派と一触即発の緊張状態にあった黒ヘル団体GKに、高校時代、ボクシングで名を馳せた男が加わった。GKは男の加入を歓迎したが、男は新宿のヤクザとのトラブルを抱えていた。

ボクシングはとても簡単だ。人生の方が遥かに難しい。
フロイド・メイウェザー・ジュニア
(元世界チャンピオン)

 1 学

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黒ヘル戦記 第三話 フラッシュフォワード

黒ヘル戦記 第三話 フラッシュフォワード

『情況』2020年夏号に掲載された反体制ハードボイルド小説

第三話 フラッシュフォワード
神楽坂で小料理屋を営む女は元黒ヘル。修羅の世界から離れて20年、彼女はPTSDに苦しんでいた。

ドナルド・トランプは、いずれ自分の遺体をおさめるために、ネヴァダ砂漠にピラミッドを建設していた。完成のあかつきには、ギザの大ピラミッドより十メートル高くなる。
小説『フラッシュフォワード』より

 1  午後七

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黒ヘル戦記 第二話 ランボーみたいな人

黒ヘル戦記 第二話 ランボーみたいな人

『情況』2020年春号に掲載された反体制ハードボイルド小説

第二話 ランボーみたいな人
1983年3月、町田移転阻止闘争は内部崩壊によって敗北した。この戦いを牽引した男は、その後も大きな葛藤を抱え続けることになる。その葛藤は2017年に没した元赤軍派議長、塩見孝也氏が抱えていたものと同じだった。

「ランボー、任務終了だ。もう終わったんだ」
「何も終わっちゃいない。何も。勝手に終わりにしないでく

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黒ヘル戦記 第一話 詐病

黒ヘル戦記 第一話 詐病

『情況』2020年冬号に掲載された反体制ハードボイルド小説

第一話 詐病
1992年12月、板橋区の居酒屋から警察に通報があった。「客同士が喧嘩を始めて収拾がつかない」という。この酔っ払いの喧嘩に、なぜか、警視庁は公安刑事を派遣した。事件の背後に何があったのか。

「君は正気なのか。正気で言っているのか?」
「正気ですとも。私は卑怯者です。だけど、正気なんです」
『カラマーゾフの兄弟』より

 

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