マガジンのカバー画像

短編小説

32
小説まとめました ほとんど超短編小説 思いついたときに書くので不定期です
運営しているクリエイター

2023年12月の記事一覧

超短編小説 怪物

欲望というのは誰にでもある。その欲望が叶えられないまま終える人も多い。まあそれが普通だろう。 勉強はそんなに好きではないが上昇志向だけは人一倍な人間がいた。 教師に内申を上げてもらってそれなりにいい高校に入り、お金があればなんとかなると噂されている有名な大学の学部を卒業。 就職はコネが無く上手くいかなかったが、高名な人に会って気に入られたことで怪物が憑依したと言われている。 怪物は高名な人に関わる人たちに無理やり会ってコネを作るのに必死になった。拒まれても会いに行き、

超短編小説 そこの夫婦

どこにでもある住宅地にその家はあった。木造建築でツタが絡まり朽ちてしまうかと思うくらい古い家だ。 そこに夫婦が住んでいた。二人とも体は大きいがにこやかで社交的。奥さんの物腰も柔らかい。 宅配便が届くのをよく見かけるので、お金には困っていないのだろう。 独居老人の世話をしていて近所の評判もいい。 奥さんが誰かに罵声を浴びせているのを目撃されることもあるが、たまにはそんなこともあるだろう。 最近は、子供のいない家の旦那さんが突然亡くなって、夫婦が相談に乗っているそうだ。

超短編小説 そこの神社

ビルの中に埋もれるようにその神社はあった。参拝する人は少ない。 私は通るたびに祈りに行く。手水で手を清め、二礼二拍し賽銭箱に小銭を入れ願いをして一礼をするが、ここでの正しい参拝の仕方なのかは知らない。 物凄く長く祈っている人が結構いる。いつ終わるのかわからないほどだ。 極彩色の着物で白い鉢巻をし金の細い棒を持って祈りに来ている人もいる。 お賽銭を入れないで祈る若い女性、大量の1円玉を賽銭箱に入れてるサラリーマンもいる。 私の願いは世界が平和になりますように。 誰の

超短編小説 そこの銀行

寂れた商店街の中にその銀行の支店はあった。銀行なのに店内の掃除は行き届いていない。専門の掃除業者など費用がもったいないのだ。 よれよれのワイシャツでボサボサ頭の行員はため口。面倒なことになったら専門用語を並べ立て顧客を黙らせる。本人もよくわからないまま話しているのは秘密だ。行員たちの使命は焦げ付きそうな債権を頭の弱そうな自営に買わせること。訴訟なんてできない人たちだ。 特別室という個室に誘い出せば周囲の目も安全。特別というのは名ばかりでただの小さな会議室。小金持ちどもには

小説 となりのひきこもり1

ひきこもりはいろんな事情でひきこもっているのは知っている。広い意味では私もひきこもりだ。人のことは言えない。周りから見れば私は昼間家にいて適当に暮らしている人間なのだろう。規則正しく健康に気をつけて暮らしているなど周囲には言えない。お前なんかが長生きしてどうするんだということを言われそうである。かかりつけ医は血液検査で異常がないことを怪訝に思っているらしく健康診断の結果を言うときに物凄く不機嫌な顔になる。 私はマンション暮らしだ。隣に30代の息子がいるのは知っている。平日昼

小説 となりのひきこもり2

早朝、救急車のサイレンで目が覚める。ガラガラを何かを引きずる音とガヤガヤと声が聞こえる。4人くらいの声だろうか。一人ヒステリックに叫んでいる。「コウちゃんが!コウちゃんが!」女性の声だ。隣の奥さんだろう。戸を開けて見ることはできなかった。ちょっとだけ時間が開いて、ガラガラと何かを引きずる音がして消えていった。救急車のタンカの音だろう。 コウちゃんは隣の30代の息子の名前だと気が付いた。確か紘一。彼が小学生の頃は可愛かった。両親ともに働いているので学童クラブに入っていて昔で言

小説 となりのひきこもり3

何台ものサイレンの音がしてしばらくしてガヤガヤと声が聞こえてきた。窓の曇りガラスからのシルエットを見るとどうやら警察官らしい。 えっと事件?朝なので頭がよく回らないのか認識するまで時間がかかる。コウちゃんが刺されたのか。ちょっとだけ戸を開けて様子を見ようとした。その瞬間、スーツの人が走って寄ってきた。 「すいません。警察です」 うわ、ドラマみたいな展開だ。何か聞かれるのだろうか。 「隣の家で何か気になることはありませんでしたか」 ちょっと怯んだ。正直、ほとんど交流はないの

小説 となりのひきこもり4

昼になった。トーストを食べながらぼーっとしていた。早朝からの騒動でちょっと疲れている。 ん?窓に何かを担いだ人のシルエットが見えた。アポなしピンポンが鳴る。アポなしは出ない。それが一人暮らしの防犯だ。何かあれば書面が新聞受けに入るだろう。 窓に人のシルエットが忙しく動いている。無視することアポなしピンポン5回目。さすがにしつこい。だが無視。今日は外に出ないほうがいい気がする。隣の事件の話を聞きにマスコミでも来ているのだろう。 なんとなくだが反対側の隣の奥さんの声と男の声

小説 となりのひきこもり5

アポなしピンポンは何度鳴ったかもうわからない。マスコミなんだろうけどトラウマ級の凄さだ。戸を開けたが最後、テレビに映ってしまうのかもしれない。それだけは避けたい。 悪いことはしていないが出たくない。インタビューなんてとんでもない。若い頃ならどんどんインタビューを受けテレビに出て友達に自慢しまくっただろう。ちょっとしたヒーローだ。そんな時代だった。 まてよ、私はインタビュー受けても何も答えられないじゃないか。 しかし、うるさすぎて何もできない。ドラマの録画みたかったのに。

小説 となりのひきこもり6

夕食の時間だ。買い物に行けなかったので冷蔵庫の冷凍しておいた総菜を探す。今日は料理などする気分ではない。焼き餃子があった。これにしよう。 冷凍ご飯と焼きギョーザを電子レンジで温め、電気ケトルで湯を沸かしインスタント味噌汁をつくり、カットサラダと作り置き煮物を出す。 一日の騒動でメンタルが疲れてるかもしれない。味噌汁をちょっとだけこぼしそうになった。 焼き餃子を酢醤油につけ一口食べる。味がしない。今日は食欲がないようだ。でも食べないと体に悪い。とりあえず詰め込む感じで食べ

小説 となりのひきこもり7

うちのマンションがテレビに映っている。テロップに「父親が息子を刺す」。アナウンサーが「今日未明、板川区で父親が息子を刺しました。詳しいことはまだ入っていません」というと次のニュースに入っていった。 ちょっとむせてお味噌汁を飲むと世界が元に戻るのを感じた。 え、これだけなの。あれだけマスコミが来てこれだけなの。凄い来てたよね。スピーカー奥さんの映像とコメントはないの。期待してたのに。 どういう事件だったんだろう。働けって言われて逆上して暴れたところを父親が刺したのだろうか

小説 となりのひきこもり8

何事もなかったようにいつもの生活に戻った。その後の報道はない。スピーカー奥さんの大声がたまに聞こえることがあるが大したことは言ってないのだろう。テレビのニュースになったというのに周りは平穏である。 何か月かして事件があった隣から凄い物音が聞こえてきたと思ったら引っ越しだった。何があったのか知ることもなく事件が消えていくらしい。その後を知ることもなく事件が終わっていくことが増えている気がする。 コウちゃんは生きているのだろうか。父親はどうなったのだろう。噂ではコウちゃんは亡

超短編小説 そんな医者

待合室は重苦しい空気に包まれている。誰が何するかわからない。呼び出されるまでの我慢だ。 ポーンという音と共に電光掲示板に29番が出た。私の番号だ。診察室に入るとカマキリのような医者が何かでキメたような目で私を見る。 「試験どうなった?」医者が子供のように聞く。 「合格しました」私が答える。 「それウソだね。なら今度新築する家に地下室を届け出ださないで作ることについて相談させて」医者はちょっとだけ目を光らせる。 なんでそんなもの作るんだよ。犯罪でもやらかすのかよ。私は心

超短編小説 とある病院

寂れた地域の精神病院。近所の人間が訪れることはない。鬱蒼と生い茂る樹木と砂埃を纏い建っている。西洋建築によくある細い鉄で細かな文様がある門で閉ざされその中を知ることができない。だが精神病院として医師会には登録されている。確かにあるのだろう。 院長が高級スポーツカーに乗るのをよく目撃されるそうだ。横断歩道は止まったことがないという。噂だが。 入院患者はどこの病院も受け付けない患者だという。死亡退院率90%。患者の家族は早く死んでくれることを望んでいると言われている。入院費も