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超短編小説 そんな医者

待合室は重苦しい空気に包まれている。誰が何するかわからない。呼び出されるまでの我慢だ。

ポーンという音と共に電光掲示板に29番が出た。私の番号だ。診察室に入るとカマキリのような医者が何かでキメたような目で私を見る。

「試験どうなった?」医者が子供のように聞く。
「合格しました」私が答える。

「それウソだね。なら今度新築する家に地下室を届け出ださないで作ることについて相談させて」医者はちょっとだけ目を光らせる。

なんでそんなもの作るんだよ。犯罪でもやらかすのかよ。私は心の中で思い「いやいや届け出だしてくださいよ」と答えて逃げた。
「なら合格したのウソだろ」医者は拗ねたように電子カルテにカチャカチャと書きこむ。黙って処方箋を渡され診察室を出た。まあいつもこんな感じだ。

家に帰りお茶を飲みながらパソコンで薬物、脱税など考え匿名で通報してみる。

担当医は変わりどうなったのかわからないまま時がすぎ、桜の咲く季節になった。散歩途中の公園のベンチでスマホでニュースを見ると「精神科医の自宅地下室に死体発見」。そうきたか。


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