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短編小説

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小説まとめました ほとんど超短編小説 思いついたときに書くので不定期です
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記事一覧

散文 そんな朝

雨でも降っているかのように街は灰色に覆われた 少しだけ寒く湿った空気を吸いながら足を進める 風に木々が煽られ踊っている 髪が顔に張り付くのを手で払う 今日の仕事をあれこれ考え 無事に終わるように思いを巡らす やるしかないか 少しだけため息をつくと どこからか空き缶が転がりどこかへ行った

小説 縁 封印

母に栞ちゃんが事件に巻き込まれるかもしれないと慌てて相談した。泣きそうになってると母は「無の時間を」と言い私の頭をなでた。 しばらく無になった。母は「私は未来は見えないけど、止めることはできる」と言い、どこかに出かけて行った。 その後、事件の話は聞かなかった。栞ちゃんに何も起きなかったのだろう。母は「まだ力を使うのは大変かもね。大学出るまで封印しましょう」と私の頭をなでた。 朝、無の時間を過ごすこととなった。それで封印されるという。高校のあの朝礼はそういうことだったのか

小説 縁 開眼

大学は無返済の奨学金が貰えることになった。高校の成績がよく入試の成績がかなりよかったからだ。寄宿舎生活の個室で勉強に集中できたからだろう。 母も喜んでいた。SNSで知り合ってオリエンテーションで友達も出来た。ただ一つ問題なのは、近くの人の未来がなんとなく見えてしまうことだ。 母にそのことを言うと、気軽に人に話してはダメよと注意された。 寄宿舎生活していた時に、なんとなくこの子、ケガするよねって思ったら体育の授業で転んで骨折して驚いたことがある。黙っていたがそれ一回の事な

小説 縁 高校生活

高校は寄宿舎生活だった。山の中にあって個室が与えられ自由に過ごせる。 私は最高点で入った特待生。授業料も生活費も無料だ。必死に勉強してよかった。母の負担もほとんどない。 朝、精神統一の時間があって、みんな校庭に並んで無の時間を過ごすように言われる。 いろんなことを考えてしまう私を見抜き、指導の先生が「無の時間を」と注意する。どうもうまくいかない。 新入生はみんなそんな感じで指導の先生の「無の時間を」という声が何度も聞こえる。 そんな朝を過ごしてから、普通に高校生活が

小説 縁 フリースクール

フリースクールに来てみた。みんな黙々と好きなことをしている感じだ。勉強にはあまり力を入れてない感じもする。 勉強がしたいのだがそんな感じではなさそうだ。勉強がしたいというと、別の部屋に通され個人指導の塾があった。 ここも母の知り合いが経営しているとか。誰かに聞かれたらフリースクールと言いなさいと言われた。昼間、塾をしているのは秘密らしい。 好きなように勉強していたら一年で中学で学ぶことは終わっていた。 先生が中学に戻ったらと勧めてきた。なんとなく戻れる気がした。 中

小説 縁 中学で

中学生になった。中学受験はしなかった。先生に勧められたが、そんなお金はうちにはない。 中学に上がるといろんな人がいるのを感じた。笑い声があちらこちらで聞こえる。みんな楽しそうだ。友達も出来た。栞ちゃんだ。透き通るような肌と長い黒髪。アニメからでてきたような感じだ。 入学式に栞ちゃんが話しかけてきて、すぐ友達になった。 気がつくとどうでもいいことを話しかけてくる裕という男子がいた。スポーツが好きなよくいる男子だ。私と話すより栞ちゃんとよく話していた。どうやら栞ちゃん目当て

小説 縁 序章

私は縁。縁と書いてゆかりと読む。でも周りはみどりちゃんと呼ぶ。 初めて会う人は名前を見て「みどりちゃんだね」と声をかけて来ることが本当に多い。「みどりじゃないからゆかりだから」と何度も言ってきたが、訂正するのもは面倒になってきて今は「みどり」ということにしている。 たまに「これ「えん」だよね。ひょっとして「ゆかり」じゃないの」と気づく人もいるが周りが混乱するので「みどり」って呼んでって言っている。 自分で言うのもなんだが結構かわいい。小さなころから大人の男が話しかけるこ

超短編小説 犯罪がなくなれば

世界中で犯罪が増え世界は混乱した。 犯罪者は脳の機能に異常がある。それは知られていた。脳の機能を正常にするにはどうしたらいいのか。「脳の正常化プロジェクト」が始まり世界中の研究者たちが参加した。 様々な研究の結果、特定の遺伝子に問題があることがわかった。プロジェクトは次の研究へと動いた。世界は固唾のんで見守った。 研究班Aが特定の乳酸菌を飲めばその遺伝子に作用し脳の機能が正常化すると発表した。その特定の乳酸菌を犯罪者に継続して飲ませればいいと。 乳酸菌なら問題ないだろ

超短編小説 海の幻想

朝起きてなんとなく船に乗ろうと思った。ちょっとだけのクルージングだ。 船に乗り海原に出た。晴れ渡る青い空と青い海の地平線に吸い込まれそうだ。 船からそっと下を見ると水面が光を放ちだした。目を開けてられないほど息ができないくらいの光が自分を包み海へと誘う。誰かが呼んでいるような気がした。 抵抗も出来ずすーっと海の中に入っていく。そして沈むのを感じた。水色から青へ、青から群青へ、群青から漆黒へ。ゆっくりゆっくり。 海底に落ちると光は消え、漆黒と静寂の世界が自分を包んだ。す

超短編小説 だれかの日常

4月に入った。新入社員が自分の課に配属された。新人と顔を合わせ仕事の説明をする毎日だ。下手なことを言うと辞めてしまうからと上司に釘を刺されている。面倒くさい。毎日ピリピリしている。こっちが辞めたいくらいだ。新人が失敗しても笑ってはいけないとか。笑って許すとかもだめらしい。年々、新人に対する態度は厳しくなっている。もうここまでいくと新人は文句言う置き物と思うしかないようだ。 神経すり減らし残業を終え家路につく。よくある住宅街。時間は夜10時。ちょっと強い風で小雨が降っていた。

超短編小説 ババ抜き

国際法は多数決で作るのがおかしいということで誰もがわかりやすいババ抜きで作ることになった。決勝で一番先に抜けた国が国際法を一つ決めていいこととなったのだ。最後にババを持った国は次の試合に出られない。 四つの国が一つのグループとなってリーグ戦をし上位二国が上のリーグ戦に上がる。16か国になるまでリーグ戦をし、そこから4グループに分かれ戦い一抜けした四か国が決勝に上がる。 グループ分け抽選会から始まり、各国の熾烈な駆け引き作戦は凄かった。今日は決勝だ。 どの国が一抜け出来る

超短編小説 とある国

「紛争で大変な人を助けます」そう宣言した福祉の充実した国に難民は避難した。 避難した難民が祖国と違う天国のような生活を与えられたのを知って次々と難民は集まり大きな集団となった。 常識の違う難民に福祉の充実した国に住む人たちは困惑した。今までの常識が通用しない。善と悪の考えが違うようだ。難民を拒絶する人も出てきた。 難民は自分たちの常識で集団で暴れるようになった。自分たちの住みやすい世界へ変えようと。争いは各地で起こり収まらなかった。 そんな時、一つの国が声を上げた。

超短編小説 老夫婦

年末、家族連れが買い物に出かけ大量の食料を買う中、老夫婦は道の途中で立ち止まった。 「お金が足りない。」夫はため息をついた。 「食費をどうにかすればなんとかなりますよ。」妻は笑って夫を励ました。 子供たちは社会人となり家を出て連絡さえしてこない。夫婦からも連絡はしなかった。 大晦日、わずかばかりの食事をし、寒い中、暖房もつけず毛布にくるまり老夫婦は向かいあう。 「お餅買いたかったけどごめんね。」妻はちょっと泣きそうになった。 「なくても大丈夫、正月が無いと思えば大丈夫。

超短編小説 そこの偉い人

「俺の言うこと聞かない奴はあれな」 「それダメですよ」 「もう仕事はさせないぞ」 立場の弱い人間が恐れ奴隷のように従う。 そんな世界がいろんなところで繰り広げられていたようだ。しかし、声を上げなかった人が声を上げそんな世界の一角が崩れ騒動が起きた。 少し落ち着いたころ、声を上げる人がまた出てきた。同情の声が集まり、また騒動に。 一人の男が自分たちの世界を守るために立ち向かった。 「偉い人間が何しても問題ないだろうが。それが普通だ。偉そうに。俺がこの世界を作ってきた。