第36話 月のルーナ吹っ飛ばされる
「奈落、神木の霊って言ってたけど、どんな木なのかわかる?」
「あの森にある大きなモミの木だ。天辺に、星がひとつ光ってるな」
「星が付いたモミの木・・・って、それってサンタ・ツリーじゃん」
「よくわからん。私が知っているのは、その木を植えたのは赤い服を着た若い女神だってことだけだ」
「もしかしてサンタ・アルテミスじゃないの?」
「いや、違う。今まで見たことがない別人だ」
「見たこともない謎のサンタか。面白いね」
ユイナと奈落が会話をしていると、いきなりルーナが見えない力で空中に吹っ飛ばされました。
着地した時に頭から砂浜に突っ込んでしまい、全身が砂まみれに。
あまりにも唐突な出来事に、ユイナは呆気にとられます。
「ビビった~。すんごい衝撃波みたいなのが、いきなり来た」
「お前、さては強引に遠視で女神を視ようとしただろ」
「だってさ、どんな女神が植えたのか興味あるじゃない」
「しかしルーナの遠視を弾くとは、驚きだな」
「そうなのよ!すごいんだよ。見た瞬間にね、ドーンと来てガーーンってなって、気付いた時にはグルングルンって」
「いや、何を言ってるのかさっぱりわからん」
ルーナはついさっき吹っ飛ばされたことなどもう忘れているようで、すごいワクワクした顔をしています。
「強引に覗こうとするから拒否される。もう少し慎重にやってみろ」
「うん、わかった!・・・えっと、どうしたらいいの?」
そこにユイナが、止めに入ります。
ルーナは何でもかんでも考え無しに正面突破しようとするクセが強いので、おそらくまた同じ失敗をするに違いありません。
「ルーナちょっと待って。先に私が、その女神の過去を見てみるから」
ユイナはそう言うと、目を閉じました。
彼女の遠視は、奈落やルーナとは全く異なります。
時間操作を重ね合わせた特殊な方法を使います。
過去を映像として再生するだけなら、その女神に気付かれる心配は無いはずです。
どうやら無事に成功したようで、過去の光景を実況し始めました。
「えっと、女神の名前は、サンタ・ネネ。サンタ・クロースの孫娘」
「え!サンタさんなの!?すっご~い」
「彼女のプレゼントは、しろくまのヌイグルミ」
「うわ~、めっちゃ欲しい」
「一緒にいる赤いバイクと会話してる」
「いいなぁ、私もバイクと喋ってみたい」
「サンタ・ツリーの苗木の扱いが雑だな、この娘」
「う~ん、ヌイグルミは、私にもくれるのかな?どう思う?」
「あの~ ルーナさん」
「なに?」
「興奮するのはわかるけど、ちょっとでいいから黙っててくんない?」
ルーナに釘を刺した後、ユイナは目を閉じたままキョロキョロし始めます。
そして意味不明なことを、次々に喋り始めました。
「何でサンタが時間停止なんて出来ちゃうわけ?」
「うそでしょ!何であなたが、そこにいるの?」
「あらま、勝っちゃった」
「何で雪だるまにされてんの?どういうことそれ」
「もうムチャクチャすぎて、何が何だかわからなくなってきた~」
過去の映像は、ユイナにしか見えません。
この時、過去の映像が荒波のように一気に押し寄せてきていました。
目まぐるしく目の前の光景が変わっていきます。
そして、ついに処理限界を超えてしまい、遠視がバグり始めます。
「うわっ!」
ユイナは、ガクンと膝から崩れ落ちました。
その顔は、半泣き状態になっています。
「大丈夫?ユイ姉。鼻水たれてるよ」
「うぅ、あんまり大丈夫ではない」
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1時間ほど横になっていたユイナは、ゆっくり立ち上がりました。
やっと精神的ダメージが、回復したようです。
「ひどい目にあった。それよりも瓦礫の処分急がないとね」
「ちょっと待ってろ」
奈落が目を閉じると、体から白い靄のようなものが立ち昇り始めました。
「葬送儀礼」が始まります。
するとあちこちに散らばっている巨大なビルの瓦礫が接している地面に、黒くて大きな穴が開きます。
それは真っ暗で、底が見えない深い深い穴でした。
穴の中から断末魔のような不気味な声が聞こえてきます。
初めて葬送儀礼を見たルーナは、穴の底から聞こえてくる声にビビリまくり、姉のユイナにしがみついたままです。
今度は、穴の中から何本もの黒い腕が現れました。
それはビルの瓦礫を掴んで、奈落の底へとひきずり込んでいきます。
およそ20分後、全ての廃棄物が沈んでいきました。
これで掃除屋としての初仕事は、無事に終わりです。
ユイナは、奈落とルーナへ労いの言葉をかけました。
でも掃除屋としての活動は、これで終わりというわけではありません。
明日から人間界の全国各地にある廃墟を回って、危険物や廃棄物を同じように処理する予定です。
さて、その頃、森の中にいるネネですが、自分が無意識で原初神のルーナを吹っ飛ばしたなどと知る由もなく・・・
お腹いっぱい晩御飯を食べてから、しあわせそうな顔で寝ていました。
つづく
【あとがき】
この小説の題名は「赤と黒のサンタ」です
サンタ・ツリーの応援歌を聞いて、原初神である終焉の奈落に大きな変化が現れました
自らに課した「喋らずの誓い」を解き、普通に会話するようになったのです
サンタ・ツリーは、植えた者の性格と神力を受け継ぐ性質を持った木です
ツリーは、なぜ歌うのか?
それはネネの心の中にある想いを、サンタツリーが歌にして皆に伝えようとしているからでした
つまり世界最高位の原初神たちに、ネネがサンタツリーを通じて大きな影響を与え始めているということになります
ちなみにサンタ・アルテミスとは、ネネの従妹に当たるサンタです
全てAI生成画像です。「leonardo.Ai」さんを利用させて頂いてます
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