見出し画像

ウェザーニュースと「セカイ系」

 この夏の異常気象っぷりを横目に見ながら、運良くほとんど影響のなかった地域に住んでいたぼくは、自分の置かれたこの状況に既視感を抱いていた。


 その既視感の元を辿っていくと、どうやら高橋しんの漫画『最終兵器彼女』と押井守のアニメ映画『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』というなんとも「セカイ系」な作品群の影響であるようだ。


 この2作品に共通する特徴の1つとして「世界がとんでもない事になっているのに、主人公の周りだけがなぜか平和」という伏線の存在がある。『最終兵器彼女』においては彼女である「ちせ」が彼氏であるシュウジの地元を守るために。 『ビューティフル・ドリーマー』においては「あたると楽しく過ごしたい」という“ラム”の願いによって、主人公たちが依然として日常生活を送れてしまうというシーンが描かれる。


 異常気象で世界中に深刻な被害がもたらされているのをニュースで見聞きしながらも、なぜかぼくの生活範囲にはあまり影響でなかったのはたまたま運がよかったとしか言いようがなかったが、心象的には「まるでセカイ系の中にでも突入してしまったみたいだな」と呑気なことを考えていたのだ。


ーーーーーーーーーー


 ウェザーニュースをご存知だろうか。ぼくは結構よく観ていたのだが、5年ほど前からYouTube内での切り抜き等で徐々に人気が出てきていて、気付けば今では地上波にも登場するぐらい浸透してきている天気予報ネット番組である。


 現代のオタク・カルチャーを鋭く分析した東浩紀の『動物化するポストモダン』を読んだぼくにとっては、このウェザーニュースはまさにアイドル文化や「萌え」文化、「セカイ系」的世界観の集大成のようなコンテンツだと思える。



 政治や経済などの中間領域の情報(ラカンでいう象徴界)を捨象し、あくまで明るく可愛らしいキャスター達が日常の些細なエピソードを交えたトーク(想像界)と天気や自然災害(現実界)を伝えるこのコンテンツには、かつてセカイ系に親しみ、そのまま大人になってしまった人々にとっては不思議な安心感を覚える。


 ウェザーニュースの配信チャンネルは原則的に24時間生放送で流れ続けている。あくまでお天気情報番組なので、われわれは台風、大雨、地震については迅速で詳細な情報を得ることができる(あるいはキャスター同士の給湯室的雑談でまったりすることもできる)一方、戦争が起ころうと政治が揺れ動こうとそれに関する発言やワードには直接的にも間接的にも遭遇することはない。


 フリートークなのだからそういう話題も出てくるだろうと想定すること自体がまったく見当違いなわけだが、おそらくマニュアルと打ち合わせによるコンプライアンスによって「日常系」的空間が守られているのだろう。


 キャスター達がズラリと並んだページや、番組中の画面構成などは、かつて“美少女ゲーム”と呼ばれたジャンルのゲームに触れたものがある人であれば瞬時にその類似性に気がつくだろう。キャスターたちの話す話題やCMのナレーションにも、アニメやコスプレなどいわゆるオタク向けコンテンツが散りばめられている。


 10代20代が中心のアイドル文化の隆盛も極まっている現在。20代から30代が中心で既婚者もいる、いわゆる“社会人”であるお天気キャスターたちの半分アイドル的な活躍に対し、大人になってしまった視聴者は親しみを覚える部分もあるだろう。その部分に対し、アイドル論やフェミニズムの方面から様々な批判が出てくることは予想できるし現にいくつかは既に出てきている。


ただ、その批判のされ方もかつての「ゼロ年代」を彷彿とさせるのだ。


ーーーーーーーーーー


 ウェザーニュースについての文章は以前から書こうと練っていたのだが、東浩紀の主催するゲンロンが今度開催するトークイベントは「ゼロ年代を振り返る」というテーマらしいことを昨日偶然知ったことと、ウェザーニュースの急激な認知拡大にビビり、これ以上一般に浸透する前に、雑ではあるが取り急ぎ大枠だけ記事にしておこうと思った次第であります。


 ご意見ご感想、批判や共感など何でもカモンです。


ーーーーーーーーーー

 

 天気を占うことはおそらく古代から祭事としてシャーマニックに存在し続けているのだろう。


 日本初の天気予報が発表されたのは1884年明治の頃で、お雇い外国人によって原文英語で制作されたらしいがそれ自体も興味深い。


 それが天気予報として現代でも日常に溶け込んでいるのはなかなかすごい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?