今林 丈二 Joji Imabayashi

オーストラリア在住の農業ビジネスの専門家が、同国の先進的な農業の最新情報をお届けします…

今林 丈二 Joji Imabayashi

オーストラリア在住の農業ビジネスの専門家が、同国の先進的な農業の最新情報をお届けします。 共同通信グループNNAオーストラリア「ウェルス」にて関連記事連載中:https://wealth.nna-au.com/author/imabayashi/ YouTube:AGRI TV

最近の記事

オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第53回 グローバル展開するための植物工場 ~その2~

植物工場の建設には、慎重な計画が不可欠です。ここでは、「完全閉鎖型」植物工場事業を成功させるための栽培条件について詳しく説明します。 先ず、植物の生育に必要な要素を考察します。作物が健全に生育するためには、①光、②温度、③CO2(二酸化炭素)、④水、⑤養分の十分な供給が必要です。そのため、これらの代替えとなる環境を人工的に創り出す必要があります。 植物工場での栽培作物 一般的に植物工場で栽培し易い作物は、栽培期間が短い葉物野菜です。「第26回新規で農業事業を成功させるには

    • オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第52回 グローバル展開するための植物工場

      植物工場の世界的な展開が、異常気象への対策として注目を集めています。 オーストラリアでは、露地での大規模な農業が一般的で、従来は「完全閉鎖型植物工場」の必要性があまり認識されていませんでした。 しかし、近年、異常気象に伴う自然災害、特に山火事や豪雨、洪水などの影響が増加しており、これにより同国でも 「閉鎖型植物工場」の導入が急務となっています。そのため、植物工場を主要な事業とするスタートアップへの大規模な投資が行われています。 多国籍国家であるオーストラリアの植物工場事業が成

      • オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第51回 オーストラリアで農産物のブランド盗用を防ぐには? 〜その3:品種を守る〜

        前回まではオーストラリアで農作物のブランドの名前を守る「商標:Trademark」について解説してきましたが、今回は農作物の品種自体(部位や細胞等含む)を守る「特許:PBR:Plant Breeder's Rights (植物品種権)」について詳しく説明します。これは新しい植物などの品種を保護するための知的財産です。オーストラリアで栽培するために日本品種の農作物を導入する場合など、品種の盗用を防ぐためにPBRを取得することが有効となります。 海外の事例では、同様の登録の怠り

        • オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第50回 オーストラリアで農産物のブランド盗用を防ぐには? 〜その2〜

          オーストラリアは、多国籍国家であり、多様な文化背景を持つ消費者が集まっています。ここで日本産農産物が成功を収めることは、日本全体の海外輸出を促進するために非常に重要です。日本産農産物の高品質と独自性は、オーストラリア市場で大きな競争力を持ちます。この市場での成功は、他の国々への輸出のハードルを低くし、ビジネスチャンスを広げる鍵となります。オーストラリアでは日本語表記が人気で、日本文化への親和性が高いことが大きな強みとなります。 しかし、ブランド名を守るためには適切な商標登録が

        オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第53回 グローバル展開するための植物工場 ~その2~

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第49回 オーストラリアで農産物のブランド盗用を防ぐには?

          オーストラリアは多文化社会として知られ、その市場には多国籍の消費者が存在しています。日本産の農産物がこのような多国籍国家で成功することで、日本からの輸出が容易になり、海外市場でのビジネスチャンスが広がります。今回は、オーストラリア市場で日本産農産物を成功させるための具体的な戦略と、ブランド盗用を防ぐための方法について詳しく説明します。 オーストラリア市場の魅力と日本産農産物の強み オーストラリア市場は、その多様な消費者ニーズに応えるために、日本産の高品質な農産物に対する需

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第49回 オーストラリアで農産物のブランド盗用を防ぐには?

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第48回 デリケートなイチゴの品質管理 すべての農産物で対応可能?

          前回に引き続き、日本からイチゴをオーストラリア市場に展開する際のケーススタディとして、「SWOT分析」で明らかになった「弱み:品質管理」の対応策を解説します。海外展開における「品質管理」では、「シェルフライフ(貯蔵寿命)」を一日でも長くすることが必須条件です。イチゴは、農作物の中でも最もデリケートで収穫後の扱いが困難とされているため、イチゴのシェルフライフのノウハウを習得することにより、ほぼ全ての農作物の品質管理が可能になると言っても過言ではありません。 シェルフライフを伸

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第48回 デリケートなイチゴの品質管理 すべての農産物で対応可能?

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第47回 ケーススタディで豪州市場の可能性を探る④ 〜マーケティング編その7 SWOT分析で〜

          これまで「SWOT分析」を用いて、日本の「いちご生産者」が初めて海外(豪州)市場に展開する際の、以下のケーススタディを解説してきました: 冬いちごの「高値、高付加価値」の豪州市場展開 夏いちごの「高値、希少価値」の日本市場展開 その結果、豪州市場においては以下の点がネックであることが明らかになりました: 弱み:①夏場のコールドチェーン、②品質管理 脅威:①品種、ブランド名盗用のリスク、②市場参入の際のトラブル まずは、豪州市場における「弱み:①夏場のコールドチェー

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第47回 ケーススタディで豪州市場の可能性を探る④ 〜マーケティング編その7 SWOT分析で〜

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第46回 ケーススタディで豪州市場の可能性を探る③ 〜マーケティング編その6 SWOT分析で〜

          いちごの持つ魅力と可能性に、新たな光が当てられています。日本のいちご生産者が豪州市場に進出する際のケーススタディを通じて、従来のビジネスモデルを大きく変革する可能性が見えてきました。前回に続き、日本のいちご生産者が初めて豪州市場展開する際の、①冬いちごの「高値、高付加価値」の豪州市場展開、②夏いちごの「高値、希少価値」の日本市場を展開するケーススタディです。従来の「冬いちご」のビジネスモデル(冬季のみ収益発生)を大幅に変更し、年間を通じて収益が発生する仕組みです。総合的に判断

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第46回 ケーススタディで豪州市場の可能性を探る③ 〜マーケティング編その6 SWOT分析で〜

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第45回 ケーススタディで豪州市場の可能性を探る② 〜マーケティング編その5 SWOT分析で〜

          日本のいちご生産者にとって、海外市場の開拓は新たな収益源となる可能性を秘めています。しかし、その道のりは険しく、成功には戦略的なアプローチが必要です。今回は、テストマーケティングの地として相応しいオーストラリア市場への展開を目指す冬いちご生産者のケースを例に、前回に引き続きマーケティング戦略立案における環境分析のステップの一つ「SWOT分析」を深掘りしていきます。おさらいとして今回は、冬いちごのみを日本市場に卸していた生産者が、夏いちご栽培も試み、「冬いちご=主に豪州市場」と

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第45回 ケーススタディで豪州市場の可能性を探る② 〜マーケティング編その5 SWOT分析で〜

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第44回 ケーススタディで豪州市場の可能性を探る① 〜マーケティング編その4 SWOT分析で〜

          今回は、マーケティングフレームワーク内「SWOT分析」を活用し、日本の「いちご生産者」が海外(オーストラリア)市場開する際の「ケーススタディ」を参考にします。※同ケーススタディは他の農産物にも応用できます。 日本のいちご生産者にとって、海外市場の開拓は新たな収益源となる可能性を秘めています。特に、南半球に位置し、季節が日本と逆であるオーストラリア市場は非常に魅力的な選択肢となります。今回は、冬いちごと夏いちごを活用した新規ビジネスモデルについて、具体的な事例を交えながら詳しく

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第44回 ケーススタディで豪州市場の可能性を探る① 〜マーケティング編その4 SWOT分析で〜

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第43回 日本の目標「2030年までに食糧自給率45%、輸出額5兆円」の達成ノウハウ(マーケティング編:その3)

          農産物輸出促進の目標達成には、効果的なマーケティング戦略が不可欠です。その戦略の一環として、「PEST分析」は非常に有用なツールとなります。今回は、このPEST分析を用いて、テストマーケティングに最適な市場であるオーストラリア市場を例に挙げ、市場参入のノウハウを詳しく解説していきます。 「PEST」分析は、オーストラリアを始めとする海外に農産物を輸出するなどの「新規事業」を始める際に、事業を取り巻くマクロ(外部)環境が、現在〜将来どのように変化するのか把握するためのマーケテ

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第43回 日本の目標「2030年までに食糧自給率45%、輸出額5兆円」の達成ノウハウ(マーケティング編:その3)

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第42回 日本の目標「2030年までに食糧自給率45%、輸出額5兆円」の達成ノウハウ(マーケティング編:その2)

          今回は、前回紹介した、「テストマーケティングの地」としても知られているオーストラリア市場をベースに、コスト削減を実現する農産物輸出を促進するための「マーケティング戦略」について解説します。 インターネットを活用しマーケティングコスト削減に繋げる インフレの影響が顕著に現れている危機的な状況下においては、新規事業に投入するマーケティングコストの削減が求められるかもしれません。例えば、従来は新規事業で農産物の海外輸出を検討する際、先ず市場のニーズを調べるために、「①輸出先の市

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第42回 日本の目標「2030年までに食糧自給率45%、輸出額5兆円」の達成ノウハウ(マーケティング編:その2)

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第41回 日本の目標「2030年までに食糧自給率45%、輸出額5兆円」の達成ノウハウ(マーケティング編:その1)

          日本の農産物は高品質な「プレミアム農産物」として、オーストラリアを始め、多くの国で周知されています。言い換えると、すでに海外展開する上でのブランディングは成功していると言っても過言ではありません。ただ、近年の未曾有の危機の状況下では、従来通りのマーケティング手法では、対応できない現実があるのは確かです。今回はそんな状況下でも対応できるマーケティングノウハウについて解説します。 リスクヘッジのために、先ずはオーストラリアで「テストマーケティング」を オーストラリアは、アジア

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第41回 日本の目標「2030年までに食糧自給率45%、輸出額5兆円」の達成ノウハウ(マーケティング編:その1)

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第40回 日本の目標「2030年までに食糧自給率45%、輸出額5兆円」の達成ノウハウ(その2)〜豪州農業を参考に、目標達成のための「アグリテック」導入促進方法〜

          前回に引き続き、今回はオーストラリアの「アグリテック」を活用した農業を参考に、日本での「アグリテック」導入促進に繋げるノウハウ「運営方法〜普及教育」について考察します。 ■運営方法:データ管理・分析は「PDCA」をベースに アグリテックを導入後、先ず課題となるのが、数値でのデータ管理・分析です。正確にデータ管理・分析をしなければ、自動化した場合に、どのような違い、成果があるのか把握できず、結果が出る前にテクノロジー利用を諦めてしまうケースが多くあります。アグリテック導入後

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第40回 日本の目標「2030年までに食糧自給率45%、輸出額5兆円」の達成ノウハウ(その2)〜豪州農業を参考に、目標達成のための「アグリテック」導入促進方法〜

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第39回 日本の目標「2030年までに食糧自給率45%、輸出額5兆円」の達成ノウハウ(その1)〜豪州農業を参考に、目標達成のための「アグリテック」導入促進方法〜

          はじめに 日本政府は、2030年までに食糧自給率(カロリーベース)45%(2024年時点で約38%)、農林水産物・食品の輸出額5兆円(2024年時点で約1兆5千億円)を目標としています。一方、オーストラリアは2022年の時点で輸出額が約7兆円、食糧自給率は200%を超えています。オーストラリアでは「アグリテック」市場が急成長し、近年では10~100億円の大規模投資が頻繁に行われ、農業の発展に大きく寄与しています。本記事では、オーストラリアの「アグリテック」を活用した農業を参

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第39回 日本の目標「2030年までに食糧自給率45%、輸出額5兆円」の達成ノウハウ(その1)〜豪州農業を参考に、目標達成のための「アグリテック」導入促進方法〜

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第38回 未曾有の「生産(肥料)コスト」上昇の対策(その2) 〜生産者側の視点から考える〜

          前回比較した「生産コスト」の中でも、際立ってコストが上昇していた「肥料コスト」を削減することは、生産者にとって、最優先事項と言えます。また、肥料減を実現しても今までの収量をどう維持できるかが、焦点です。 輸入に頼るオーストラリアの「肥料」 植物の生育には、品種、栽培条件により、約13−17種類もの肥料要素が必要とされますが、三大要素と呼ばれる窒素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)以外は、微〜中量要素と呼ばれ、施肥量が少なく済み、生産コスト上昇に然程影響が出ません。一方で

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第38回 未曾有の「生産(肥料)コスト」上昇の対策(その2) 〜生産者側の視点から考える〜