今林 丈二 Joji Imabayashi

オーストラリア在住の農業ビジネスの専門家が、オーストラリアの先進的な農業技術•ビジネス…

今林 丈二 Joji Imabayashi

オーストラリア在住の農業ビジネスの専門家が、オーストラリアの先進的な農業技術•ビジネスの最新情報をお届けします。 共同通信グループ NNAオーストラリア「ウェルス」にて関連記事を連載中 https://wealth.nna-au.com/author/imabayashi/

最近の記事

オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第16回 持続可能な農薬管理(その2)

今回は「農薬」についての第2弾をお届けします。オーストラリアの農薬使用と管理方法について詳しく解説し、日本の農業者の皆さんに役立つ情報をお届けします。 農薬の特徴農作物に使われる薬剤のタイプ(剤型) 農薬には多様な剤型があり、散布場所の広さや作物の種類に応じて適切なものを選ぶことが重要です。以下に主要な剤型とその特徴を紹介します。 乳剤、水和剤、水溶剤:水で薄めて噴霧器で散布します。これらの薬剤は水に溶けやすく、広範囲に効果的に散布できます。 スプレー剤:特定の場所に

    • オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第15回 持続可能な農薬管理

      今回は、オーストラリアで使用されている「農薬」についてご紹介します。農薬にはネガティブなイメージがつきものですが、オーストラリアのような大規模農地では、農薬がなければ人手不足や土地管理の問題が生じ、農業事業の維持が困難になることがあります。このような状況では、農薬は必要不可欠な存在と言えるでしょう。 しかし、近年では環境保全型農業の推進が進んでおり、これに対応するための様々な試みや取り組みが実施されています。 日本の農業者の皆さんにとっても役立つ情報が盛りだくさんですので、ぜ

      • オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第14回 潅水資材、潅水方法(その2)

        今回は、オーストラリアの多くの施設栽培で設置されているスプリンクラーの仕組みについて詳しく説明いたします。スプリンクラーは短時間で広範囲に水を撒くことができ、特に水不足が深刻な地域で大きなメリットがあります。 スプリンクラーの基本情報 スプリンクラーは、雨粒ほどの大きさの水を、作物の頭上や地表から散水する方法です。設置する前には、作物に適した潅水量や散水に必要な適正水圧を明確にする必要があります。 スプリンクラーの設置個所と散水範囲 スプリンクラーの設置間隔は通常1~

        • オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第13回 潅水資材、潅水方法

          水不足が深刻なオーストラリアでは、その課題に対応するために節水技術が飛躍的に発展しました。特にマイクロ灌漑技術は、その中でも顕著な進歩を遂げています。今回は、この技術がどのように日本の農業にも応用できるか、詳しく解説いたします。オーストラリアの厳しい環境で培われたこれらの技術は、日本の農業にも多大なメリットをもたらします。 オーストラリアの潅水技術 施設栽培では、露地栽培と異なり、作物の品種や栽培方法に合った適切な潅水資材や潅水方法を選ぶことが重要です。年間を通じて水不足

        オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第16回 持続可能な農薬管理(その2)

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第12回 栽培に必要な「水源・水質」(その2)

          今回は、前回に引き続き、栽培に必要な「水源・水質」について考察していきます。特に、オーストラリアでの実践から学べる点を中心にお伝えします。 オーストラリアの農業現場では、ディスクフィルターやスクリーンフィルターが多く使われています。また、大腸菌等の菌を死滅させるために食品・工業用として使われる特殊フィルターが設置されている栽培施設もあります。 圃場の潅水システム ディスクフィルター内部の構造 水質に応じて、適したメッシュサイズ(孔の小ささ)のフィルターを使うことが重要

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第12回 栽培に必要な「水源・水質」(その2)

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第11回 栽培に必要な「水源・水質」

          今回は、オーストラリアでの露地および施設作物の栽培において重要な「水源・水質」について解説します。この情報は、日本の農業者の皆様にも有益で、収益アップに繋がる情報も含んでいます。 水源の選択 作物を栽培する際、水源と水質の検証は欠かせません。オーストラリアでは以下のような水源が主に使用されています。 雨水:雨水用貯水タンクを利用。 貯水池の水:潅水用として広く使用。 水道水:水不足の地域や水耕栽培(土を使わず水と液体肥料で作物を育てる方法)で使用。 ※井戸水の使用

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第11回 栽培に必要な「水源・水質」

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第10回 大手スーパーマーケットの農産物品質(出荷)基準 

          今回は、オーストラリア国内の大手スーパーマーケットが採用する農産物の品質基準についてお話しします。日本の農業者にとっても、これらの基準を理解し応用することで、収益アップに繋がるヒントを提供したいと思います。 公的認定機関の品質基準 オーストラリアのウールワース(Woolworths)やコールズ(Coles)などの大手スーパーマーケットでは、Freshcare、SQF、HACCP、Global G.A.P. などの公的認定機関の品質基準をクリアした農産物のみを取り扱っていま

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第10回 大手スーパーマーケットの農産物品質(出荷)基準 

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第9回 農産物の品質管理

          今回は、オーストラリアの野菜や果物の品質管理について考察していきます。近年、オーストラリアでは無登録農薬の使用、偽装表示、異物混入などの問題が多発し、消費者の食の安全安心に対する関心が高まっています。さらに、オーストラリアは日本を含むアジア諸国への輸出を強化しており、国際品質基準に基づいた安全で安心な農産物の生産が求められています。 オーストラリアの農作物栽培工程には最先端の品質管理システムが取り入れられており、栽培から流通までのトレーサビリティが管理されています。主な品質

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第9回 農産物の品質管理

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第8回 野菜の「鮮度その2」

          「鮮度」を長期間保つための温度管理 今回は、前回に引き続き、野菜の「鮮度」についてお話しします。特に、温度管理の重要性について詳しく見ていきましょう。 温度管理の重要性 出荷先、市内、空港までのアクセスが悪かったり、出荷先までのコールドチェーンが整っていないと、輸送中に鮮度が損なわれる可能性があります。鮮度に大きく影響するのは、不安定な温度管理です。鮮度を長期間保つためには、常に一定の温度(冷蔵室)を保つことが重要です。 以下の表は、各野菜保存場所の温度目安を示してい

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第8回 野菜の「鮮度その2」

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第7回 野菜の「鮮度」

          今回は、収穫~納品のプロセスで最もリスクが高い「鮮度」について、野菜品種を基に考察していきます。鮮度は、収穫後数日しか維持できない品種や、半年以上維持できる品種等、品種により期間は大きく異なります。野菜の鮮度を長期間維持できれば、輸送に多くの時間を要する国内外の長距離輸送が可能になり、出荷先の選択肢が広がります。 鮮度維持のための品種選定 野菜の鮮度は、収穫後の期間によって大きく変わります。例えば、収穫後数日しか持たないものや、半年以上鮮度を保つものなどさまざまです。鮮度

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第7回 野菜の「鮮度」

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第6回 第6回 品種の選定(その3、農薬などのコスト)

          今回は、オーストラリアで野菜栽培(品種選定)をする上で人件費の次にコスト高である、農薬、肥料、潅水の生産コストについて考察していきます。これらは日本の農業者の皆さんにとっても、収益アップにつながる重要な情報ですので、ぜひ参考にしてください。 オーストラリアの農薬と肥料の現状 オーストラリアでは、農薬や肥料の製造コストが高いため、現地での製造は少なく、ほとんどが輸入品に頼っています。農薬は新薬の研究開発が盛んなアメリカやヨーロッパから、肥料は製造コストが安価な中国やヨーロッ

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第6回 第6回 品種の選定(その3、農薬などのコスト)

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第5回 栽培作物の選定のノウハウ【その2:生産コスト(人件費)の見極め】

          前回は、販売単価の高い品種を選ぶ重要性を解説しました。今回は、その品種の生産コストにフォーカスし、利益率を最大化する品種選定について、さらに深掘りします。 オーストラリア農業における最大の課題、それは人件費の高騰です。 生産コスト全体の約40%以上を占める人件費は、年々上昇しており、収益を圧迫する大きな要因となっています。そこで、人件費をいかに抑えるかが、農業ビジネス成功の鍵となります。 1. 人件費削減に繋がる品種選定 人件費を抑えるためには、品種選定の段階から意識す

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第5回 栽培作物の選定のノウハウ【その2:生産コスト(人件費)の見極め】

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第4回 栽培作物の選定のノウハウ

          今回は、オーストラリアの栽培環境に適し、日本を始めとする海外市場への輸出が可能な野菜の栽培品目の選定について考察します。 栽培場所の条件に合った品種選び オーストラリアで野菜を栽培する際の第一歩は、栽培場所の条件(土壌、気候、病害虫の有無)に合った品種を選ぶことです。オーストラリアは広大な国土を持ち、地域ごとに異なる気候条件があります。これらの条件を考慮し、温度や湿度の変化に強く、病気や害虫に対して耐性がある品種を選定することが重要です。 苗からの栽培の推奨 「苗半作

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第4回 栽培作物の選定のノウハウ

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第3回 オーストラリア型農法が示唆する未来

          今回は、農業事業のベースとなる栽培農法について考察します。栽培条件を画一化し、設備に投資するためには、栽培農法について十分に理解することが必要です。栽培農法は大きく分けて「土耕栽培」と「養液栽培」の2つがあります。 土耕栽培 土耕栽培は主に屋外で行われる露地農法であり、ハウス栽培のような施設を必要としないため、初期コストを低く抑えることができます。このため、土地をそのまま利用できるメリットがあります。しかし、季節や天候に左右されやすく、虫や病気などの外的要因による被害を受

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第3回 オーストラリア型農法が示唆する未来

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第2回 栽培作物の環境条件について (その2) 

          日本の農業は、気候条件や病害虫などの要因により、安定した収穫を困難とする課題に直面しています。オーストラリアの状況から得られるヒントを考えることで、これらの課題に対処する道筋が見えてきます。 1. 気候条件への対応 オーストラリアと比較して、日本の降水量は少なく、特に乾燥しやすい地域が多く存在します。このような環境下で安定した栽培を実現するためには、水資源の効率的な利用が必要です。気象庁の提供するデータを活用し、土壌の水分蒸発率を計算することで、灌漑量を最適化することが重

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第2回 栽培作物の環境条件について (その2) 

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ!第1回 栽培作物の環境条件

          こんにちは、日本の農業事業に携わる皆さま。今回から始まる新連載では、オーストラリアの先進的な農業技術とその実践についてお伝えし、日本の農業に新たな視点やヒントを提供していきます。第1回目は、栽培作物の環境条件について掘り下げていきます。 オーストラリア農業の先進性から学ぶ 私は2011年に日本の農業業界で3K「キツい・汚い・危険」を何度も目の当たりにし、その現状に不安を感じました。その解決策を探るためにオーストラリアに渡り、15年以上にわたって農業ビジネスを学びました。こ

          オーストラリア農業の先進性から学ぶ!第1回 栽培作物の環境条件