オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第46回 ケーススタディで豪州市場の可能性を探る③ 〜マーケティング編その6 SWOT分析で〜
いちごの持つ魅力と可能性に、新たな光が当てられています。日本のいちご生産者が豪州市場に進出する際のケーススタディを通じて、従来のビジネスモデルを大きく変革する可能性が見えてきました。前回に続き、日本のいちご生産者が初めて豪州市場展開する際の、①冬いちごの「高値、高付加価値」の豪州市場展開、②夏いちごの「高値、希少価値」の日本市場を展開するケーススタディです。従来の「冬いちご」のビジネスモデル(冬季のみ収益発生)を大幅に変更し、年間を通じて収益が発生する仕組みです。総合的に判断するために、同ビジネスモデルが実現可能であるか「SWOT分析」を用いて、②「夏いちご」についても精査します。同分析により夏いちごを扱う日本市場の可能性が見出せなかった場合、①の「冬いちご」のみに焦点を絞り冬いちごを豪州と日本市場に半々の割合で取り扱うビジネスモデルも視野に入れておきます。
SWOT分析とは
お浚いまでに、SWOT分析で考察する「強み・弱み」は、内部環境と、「機会・脅威」は、外部環境の要素に分類します。また、「強み・機会」はプラスの要素、「弱み・脅威」はマイナスの要素に分けられます。
日本市場への夏いちごの展開についてのSWOT分析
「強み」
日本市場での「強み」としては、夏いちごの希少性が挙げられます。生産量が少ないため差別化が容易で、競合も少ないことから高価格での販売が可能です。また、日本品種の夏いちごも高級食材として扱われることが多く、ハイエンドブランドとしての位置づけが可能です。
「弱み」
日本市場での「弱み」としては、保存期間の短さが挙げられます。夏いちごは冬いちごに比べて傷みやすく、輸送や保管に特別な注意が必要です。また、夏の高温多湿な環境下で高糖度を安定的に維持して栽培することは難しく、需要の高い中玉から大玉サイズのいちごを安定的に栽培することも困難です。
「機会」
日本市場での「機会」としては、長年の取引で築かれた信頼関係のある市場があることが挙げられます。さらに、コロナ禍をきっかけにオンライン取引が増加しており、新たな販路の開拓が可能になっています。オンラインでの販売拡大により、地方の顧客にもリーチできる点は大きな利点です。
「脅威」
最も悩まされる日本市場での「脅威」は、市場が拡大すれば競合他社が増える可能性があります。また、栽培技術やビジネスモデルが盗用されるリスクも考えられます。さらに、インフレの影響で国内市場が縮小し、需要が減少する可能性も懸念されます。加えて、異常気象による生産環境の変化も無視できない脅威です。
クロスSWOT分析による戦略の導出
これらのSWOT分析を踏まえ、次のステップとして「クロスSWOT分析」を行います。「クロスSWOT分析」は、SWOT分析の各要素を組み合わせて、より具体的な戦略を導き出す手法です。特に重要なのは、「強み」と「機会」を組み合わせた戦略です。
自社の強みを生かし、市場での優位性を確立させることがベースです。クロス❶〜❹を万全にすることで、可能性を最大限に引き出し、脅威を最小限に抑えることが可能になります。
❶「強み」×「機会」
例えば、日本市場では、夏いちごの希少性という強みを活かし、オンライン販売という機会を利用して新たな市場を開拓するといった戦略が考えられます。これにより、地方や都市部を問わず幅広い顧客層にアプローチできるようになります。
❷「強み」×「脅威」
「強み」と「脅威」の組み合わせでは、高級ブランドとしての地位を確立することで競合他社の増加に対抗する戦略が立てられます。ブランド価値を高めることで、模倣品や安価な競合商品との差別化を図ることが可能です。
❸「弱み」×「機会」
「弱み」と「機会」の組み合わせでは、保存期間の短さという弱みを、輸送や保管技術の向上という機会を通じて克服する戦略が考えられます。例えば、低温輸送技術やパッケージング技術の革新を取り入れることで、品質保持期間を延長することができます。
❹「弱み」×「脅威」
最後に、「弱み」と「脅威」の組み合わせでは、コスト削減策を実施することでインフレによる市場縮小の影響を最小限に抑える戦略を立てることができます。効率的な生産管理や資源の最適化を図ることで、経済的な圧力に対抗することが可能です。
まとめ(日本市場と豪州市場の違い)
ここで注目すべきは、「日本市場」と「豪州市場」の違いです。「日本市場」は既知の市場であるため、自社のノウハウだけでSWOT分析が可能です。一方、「豪州市場」は未知の市場であるため、外部の力を借りて分析を行う必要があります。この違いを認識し、適切なアプローチを取ることが重要です。特に、オーストラリアの市場は多国籍であり、異なる文化や消費者行動を理解することが不可欠です。
次回は、豪州市場での「クロスSWOT分析」の結果に基いた、最もネックである、「弱み」、「脅威」を克服する具体的な対策方法について解説します。「弱み」は①夏場のコールドチェーン、②品質管理等の対策です。「脅威」は①品種、ブランド名盗用のリスク、②市場参入の際のトラブルです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?