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水源(小説)(8話完結)

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エモーショナル・ポストロックバンド,シノエフヒの曲である「水源」という曲の物語を小説という形にしています.どうにか完結させたいので,応援,ご支援よろしくお願いいたします. ヘッダ… もっと読む
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水源①

水源①

「君の言葉は,祈りみたいで美しいな.」

四角く白い病室で,僕は風に揺れるカーテンを見ていた.空は澄んでいたが肌寒く,歩く人々は,皆縮こまって足早に歩いている.僕はというと,ここで,千羽鶴を送ってきた頭の悪い連中に悪態を付きながら,自分が買ってきた花に水を上げている.ここは僕の部屋ではない.この部屋には僕以外に君という生命が存在していて,互いに全く別々の鼓動を鳴らしている.君はいつもにこにこ笑って

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水源②

水源②

第一話はこちら

からっ風がふくと,君はいつも悲しそうな目をしていた.僕にはその理由が今でもわからない.
「どうしたの.」ってきくと笑って,
「なんでもないわ.」って言うんだ決まって. 僕はその都度不安な気持ちになるのだけれど,あと一歩を踏み出してしまったら手のひらから溢れてしまいそうで,いつも踏み出せずにいたんだ.

病室の扉が少し空いていたので中を覗き込むと,君が窓の外を見ているのが見えた.

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水源③

水源③

【第二話】はここから

「私達は,もともと海の子供なの.だから,死んだら海に還るんだよ.」

医者からの許可が出て,海岸沿いを僕らは歩いた.風が少し強いし,天気も晴天ってわけではないけれど,それでも彼女が嬉しそうだったから,僕も嬉しかった.
「へぇ,なら君がもし死んだら,雨になって僕の元にもう一度降ってきてくれるわけだ.寂しくないね.その時は傘をささないで置くよ.」
「風邪ひいちゃうよ.その風邪が

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水源④

水源④

【第三話】はこちら

日差しが差して起きた.
わけではなく,目覚ましで起きた.君が言っていたようなカーテンからの優しい光は見るタイミングを失っている.僕はジリリリと鳴り響く不快な目覚ましを思い切り叩き,これでもかというほど勢いよく立ち上がった.これをしないと起きられない.結局明日が来てしまった.こうやってまた毎日を繰り返す.

今日も曇天だったから,特に不快です.昔植物に興味なんかないのに君に勢い

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水源⑤

水源⑤

【第四話】こちら

その連絡が入ってから僕が部屋についた時には,ベッドには人の重さだけが静かに佇んでいた.

「遅かった.」

誰かが手を引っ張ってしまったんだ.僕は手を離してしまったのか.カーテンが揺れている.買っていたたい焼きはもう冷めきっていた.いつからか君はこの部屋に居すぎていて,病気だという事実すらも時間が覆いかぶさっていて見えづらくなっていた.いや,見ないようにしていたというべきか.廊

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水源⑥

水源⑥

【第5話】はこちら

「私の命はこれまでみたい.毎日夜にね,心臓がもう終わりって教えてくれるの.最初は,やだやだ,まだ生きていたいってダダを捏ねていたんだけれど,もうそういうものなのかって思っちゃって.でも,ずっと昔から納得してはいたけれど,いざその時になると,やっぱり生きたいっておもってしまうのね.おかしいよね.」
必死に笑おうとしていたが,いつも笑っていた君はもういなく.弱々しく瞳から涙が零れ

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水源⑦

第6話はこちら

(海水を飲み込み続ければ,いずれ僕はクジラになって,この地球上で一番大きな哺乳類になるだろう.僕らは人に対して本当に意地悪だから,誰彼かまわず傷つけあう.だから,もういっそ人ではない生き物になりたかった.そう願ったら僕はいつのまにかクジラになっていたというわけだ.何故か僕ら人類は同種の人間に対しては,これ程かと思うほど冷たい.海はこの地球上のすべての感情の原点だから,僕がそれを全

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水源⑧

水源⑧

7話は【こちら】

(呼吸をする度に,まだ僕の命が消えないことがわかる.いつになったら君のところに行けるんだろうってずうっと考えている.日々が過ぎ去るのが怖いんだ.毎日君との記憶が消えていって,君のことを忘れてしまおうとしている僕がいることに気付く.僕が死んで君のところに行ったとき,君のことを見つけることが果たしてできるんだろうか.)

......

遠くに電車の音が聞こえる.例えば,今すぐこの

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