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小幅の二歩(日本国憲法53条について)

コロナのご時世につき、眠気まなこを擦りたい気持ちを堪えながらキーボードを叩いています。(明日も仕事)

しばらくは短期間でのnote更新を目指していきます。

今回のテーマはこちら!(効果音)

「日本国憲法53条」

日本国憲法53条って言われてもピンとこない方が多数派だと思います。

これは臨時会の召集についての規定です。

今だと、野党が臨時国会の早期召集を要請したけど与党がそれを突っぱねたという趣旨の記事が出回っていると思われます。(ついこの前の話です)

個人的にはナウい話を選んだつもりなので、もし良ければこのまま読み進めてくれると嬉しいです。

まず憲法の条文を書いておきますね。

「内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。」

いかにも法律って感じの文言。
(でも、実を言うと憲法の条文は想像よりも平易に書かれており、意外と親しみやすいと個人的には思います。ホントです。)

内容を簡単に言い換えると、衆議院か参議院のどちらか片方で、その院の総議員の1/4以上の要求があれば内閣は臨時国会の召集を決定しなければならない。という具合です。

現在の各議院定数は衆議院465人、参議院248人。

なので、衆議院だと117人(割り切れない場合はプラス1)、参議院だと62人以上の要求があればOKです。

現在の野党は衆議院で167人、参議院で94人。

維新の会は提出者に名を連ねていないようですが、それでも126人と73人なので条件は満たしています。

そのため、野党はこの条文を根拠として、臨時会の召集を要求しているわけです。

それはそれで新たに独立した記事を書こうと思いますが、そもそも憲法は国民の権利を規定し、守り、行政機関や為政者を縛るための最高法規です。

現在の日本において、政府は憲法に従う義務を負っているため、野党の皆さんは政府に対して53条に書かれている召集要求をしているわけです。

しかしながら、NHKで”政府・与党 臨時国会の早期召集 応じない構え”などと書かれている通り、政府と与党はこれらの要求を直ちに受け入れる旨の回答はしませんでした。

TwitterではNHKのこの見出しを引用して、”政府(と与党)が憲法違反をしている”という趣旨のツイートが散見されていましたね。

NHKの見出しと憲法53条をサラッと見ただけでは確かにこのような誤解が生まれるのかもしれません。

結論から言いますと、政府(と与党)は憲法違反をしていません。

なぜかと言いますと、

「内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。」

重要なのは、2行目(いづれかの〜)です。

臨時国会を開いてください!という要求を受けて内閣がしなければならないのは、”臨時国会を開く”決定だけだから。

”いつまでに開くか”についての規定は無いんです。

極端な話、内閣が「OK!臨時国会開くよー!じゃあ、5ヶ月後ねー!」と言っても合憲なんです。

今回、NHKは”早期の召集”と記載しているので、嘘記事ではありませんが、どこか大人気ない書き方に感じてしまいます。

屁理屈に聞こえるかもしれませんが、このような点に、法律運用のややこしさ、人によっては醍醐味と感じられる要素が存在しています。

そんな馬鹿なことがあるか!!と思っている貴方のために、この53条について少しだけ現実的な話を挟ませてもらうと、那覇地裁で53条に関する訴訟の判決が下されました。

2020年のことです。

訴訟の案件名は憲法53条違憲国家賠償請求事件。

野党の国会議員である原告らが時の安倍内閣に対して訴えを起こしました。

日本国憲法53条後段(=2行目)に基づき、衆議院及び参議院の臨時会の召集を要求したところ、それから98日間に渡って臨時会が召集されなかったとして、内閣は合理的な期間内に臨時会を召集するべき義務があるのにこれを怠ったものであり、その結果、原告らは臨時会において国会議員としての権能を行使する機会を奪われたなどと主張しました。

結論である判決自体は請求棄却(=訴えた野党議院らの敗訴)でしたが、注目すべきはその過程である裁判所判断の部分です。

大切な前提として、地裁は、本件は統治行為論が適用されず司法審査の範囲内だという構えを採ったのです。(衆院の解散などと同程度かそれ以上の高度な政治性を有しているとは言えないとのこと。)

地裁は内閣に対して、53条後段の召集要求は政治的義務に止まらず憲法上の義務が生じると明言しました。

要求を受けてから臨時会を召集する時期についても、条文には日数こそ明記されていないものの、憲法が内閣に対して合理的な日数の範囲内で臨時会の召集を求めていることは明らかであると指摘。(どこまでが合理的な日数なのかについて具体的なことは明言せず。)

以上のように、那覇地裁は53条の履行については今後も司法審査の範囲内だという先例を作り上げたのです。(一方で、原告側が求めていた損害賠償事由は存在しないとの理由で裁判自体は原告側が敗訴してしまいました。)

つまり、53条の履行(の程度)については、時の内閣の一挙手一投足が司法の視点からも注目されているということなんです。

世論や永田町の流れを読みつつ、要求があった時点から合理的な範囲での適時適切な臨時会召集が岸田総理にできるのか?

噂では10月上旬の召集とされている次の臨時国会ですが、果たして結果は如何に…?

お手並み拝見です。

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