はじめましての、上士幌のひとたちへ。無印良品らしい無印良品で、はじめまして。
【前編はこちら】
無印良品のインテリア・アドバイザーに、会いに。
無印良品のインテリア・アドバイザーの北崎さんは、思ったよりも若い人だった。マスク越しでも「無印良品らしい人だなぁ」と思った。どんな人が無印良品らしいのか、と言われたら、言語化は難しいのだが…。優しそうな人だ。
わたしたちの、上士幌の「家」は、東西に棟が分かれている。
東棟はリビング&ダイニングを、町のひとたちにも使ってもらえる、シェアオフィスの機能も兼ねており、西棟は宿泊者だけの空間。宿泊した人たち専用のリビング&ダイニングとして機能する。
そんな2つの、別々のリビングとダイニングの機能や、役割を考えるところから、北崎さんは空間をつくりはじめた。彼と話をしていて最も嬉しかったのは、彼自身が北海道という土地をとても意識してくれていたことだった。
「僕自身、北海道の出身で、北海道の企業やそこに住むひとたちに、理想の暮らしの背景となりうる空間を提供したい。そう思って帰ってきました。」
以前は、無印良品の銀座店でインテリア・アドバイザーをしていた北崎さん。上士幌町での取り組みに参加できて、光栄だと言ってくれた。気持ちよく仕事をしてくださったことが伝わってきた。
無印良品らしい家具やアイテムって、何かを考える。
「全体的に意識したのは、家具などについては、初めて無印良品を体験していただける地元の方も多いのではないか、ということでした。だから、より無印良品らしい家具を使うようにしました。とはいえ、東棟と西棟は役割も異なるので、イメージを変えているんですが。」
そもそも窓の家は白を基調とした内装と外装に、大きな窓と小さな窓が空間に光をもたらす設計になっており、空間の真ん中を使った吹き抜けが、住まいをより広々と演出する。とは言え、無印良品の家は、闇雲に広い家を良しとはしていないのだが。
「東棟は、編集できる空間であることを意識しました。もし階段を使えない方がいらっしゃったら、ソファをしまって布団を敷いていただいて、1階でもお休みできるようになっています。またここは今後、上士幌町の情報発信基地としての役割を担うとも聞いているので、家という空間を使ったスタジオになるように考えました。」
ベージュやグレーを基調とした、無印良品をイメージした時に、パッと出てくるような色調で構成された東棟の空間。机の選定にも気が利いていて、割とエッジの効いたものを東棟、丸みのあるものを西棟と、なるべく多くの種類の家具を町のひとにも見てもらいたい。そんな北崎さんの想いが反映されていた。
プランを拝見して、東棟で目を引いたのはIDEEのライトだった。無印良品には無い、意思を持った個性的なデザインが、空間のセンスを牽引するように見えた。決して無味無臭というわけでは無い。が、人々の好意を受け入れる広い器となっている。さすがの仕事だと感心した。
前編のnoteにも書いたように、無印良品は思想高きブランドであるのだが、その本当の凄さは、思想を、きちんと商品で体現できているところ、だと思う。
画像は無印良品WEBサイトより
例えば、壁掛式のBluetoothスピーカー。かつて、無印良品が壁掛式CDプレイヤーを作ったことに端を発したこの商品。家の中で音楽を聴くための「これでいい」が体現されている。
今から、さてこれでどんな音楽をかけようか、と楽しみである。無印良品らしい音楽をかけたいな、と思想のあるミニマルな音を探してしまうわたしたちがいる。
西棟はまた、ガラッと印象が変わっていて。何よりも目を引くのは「青」だ。リビングの真ん中に置かれていたのは、羽田空港の第3ターミナルにも使われている青のソファ。ここで滞在した人々が思考を深める集中を、この青に託したのかもしれない。元ヤクルトの古田捕手のミットの色を思い出す青さだった。
ただ、細かい計画や設計は、敢えてあまり記載しないようにしておく……。来ていただいた時のお楽しみ、ということで。とは言え、北崎さんは時間の許す限り、その空間デザインのコンセプトや、1つひとつのアイテムの選定理由を語ってくれた。もちろん、実際に空間に家具を入れた時に、ちょっとした細部の調整は現地でやりましょう。そんな約束までしてくれた。
やっぱり無印良品らしい人、北崎さん。
この打ち合わせの最後に、わたしは少し嫌な質問をしたかもしれない。率直な相談として、こんな風に聞いてみた。「わたしたちの方で、どうしても置きたいものが出来て。例えば、それが個性的な花瓶だとした時に、その花瓶が無印良品のものでなくてもいいですか?」
「もちろん、問題ありませんよ。むしろ、搬入の時までに持ってきてもらえたら、どういう風に置くべきか、一緒に考えますよ。」北崎さんのお答えを聞いて、思い出した記事があった。無印良品の生活雑貨部の企画デザイン室長である、矢野 直子さん(当時)の記事だ。
記事自体、とても興味深いので、ぜひ、皆さんには読んでいただきたいのだが、わたしが心にメモしたのはこの部分だ。もし紙の記事だったら、丁寧に切り取ってノートなんかに貼っておきたいほど。
例えば、別のブランドのすばらしいフカフカの美しい赤いソファを買いたいと思ったとき、それに対してお金を貯めて、手に入れて、お金がお財布のなかになくなっちゃったときに、「もう、あとは無印でいいや」と言ってもらいたい。今の会長が、私の20代の頃にふと言った言葉なんですけれど、きっとそれが始まりだったんじゃないかなと思います。真っ赤なソファは無印にはないけれど、それを買ったときに、それを美しく見せるために、あとはMUJIのPPのボックスを押入れの中に詰め込んで、いらないものはそこに整頓していただければ、赤いソファは美しく赤いままでいるという。そういうことが、「これがいい」ではなくて「これでいい」だったんじゃないかなと思います。 参照元:https://logmi.jp/business/articles/175217
「これでいい」というのは、生活者に寄り添う言葉であることが、このインタビューからもわかるし、その思想をしっかりと受け継ぐ北崎さんも、当然のようにそう考えるわけだ。
様々なブランドの活動をお手伝いしてきた、わたしたちだからこそ、改めて無印良品の思想の特異さと、他に類を見ない思考の深さに頭の下がる想いだった。
そんな風にして、無印良品らしい空間となった上士幌の「家」。その空間を器として、私たちはどんな暮らしを提供すべきか。なんとなく、わたしたちが提供するものを伝えたい、けれど、まだ伝えたくない気もする…
回りくどいnoteになってしまったが、上士幌の「家」のコンセプトは、本当に大事な部分であり、それに共感した人にこそ来て欲しいと思っている。だからこそ、またじっくりお伝えしたい。それでは。