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アンバー・ハードとジョニー・デップの裁判を整理する

デップが勝訴したことが強調されがちですが実態はもっと複雑です。

▼裁判の争点:

争点は「アンバー・ハードがデップの名誉を損ねたかどうか」です。

つまり「デップが暴力を振るったかどうか」ではありません。

だから「デップの勝訴=デップは暴力してない」ではありません。

かなり細かくて微妙な話になるのですが。

で、今回の裁判の場合は2018年の出来事が争点になります。

きっかけは2018年。アンバーがWashington Postワシントン・ポストに寄稿した文章で、アンバーがDVの被害者であることを暴露しました。

記事の中では相手の男性の名前は伏せられていたのですが、誰が読んでもデップであることは明らかで、この記事は社会に大きな影響を与えました。

アンバーはフェミニストとしても活動しており、そちらの界隈でも強烈に炎上しました。2018年はMeToo運動が盛んで、現在のような反MeTooの動きもあまり目立ちませんでした。MeTooを叫べば特に検証もされずほぼ確実に支持されて、同じく相手はほぼ確実に信用と仕事を失う、ある意味でアンバランス(ほとんど議論してもらえない)な時期でした。

ワーナー・ブラザースは撮影前だった『ファンタスティック・ビースト』からデップを降ろしました。

俳優としてのキャリアとイメージに泥を塗られたデップはその後とても苦労することになります。特にジェンダーや暴力に敏感なハリウッドでは非常に厳しいです。それまでの大規模作品から離れて、2019年に『MINAMATA-ミナマタ-』のような小規模の社会派映画を自身でプロデュースして公開したのも、これらの事情と無関係ではないでしょう。

そして2022年に、デップは「あの記事は名誉毀損である」と訴えました。

そこで記事の真実性が問題になってくるのです。

具体的には「アンバーの記事はどこまで真実で何が嘘か」になります。

繰り返しますが、デップが暴力を振るったかどうかはメインの争点ではありません

▼裁判の内容:

陪審員の皆さん、コイツは信用に足る人物ではありません!

これは民事裁判なので証言を元に「どちらが正しいことを言っているのか」を判断することになります。このとき出来る方法は2つ。

  1. 物的証拠を見せる。写真とか録音とか動画とかメールですね。

  2. 相手が信用できる人物ではないと言葉でアピールする。

証拠品がなければ2つ目で攻めるしかありません。

かくして裁判は、デップとアンバーが両者の素行の悪さを暴露合戦するという、史上稀に見るみっともない泥試合になりました。お互いのプライバシーの恥ずかしい話がドシドシ出てきます。

映画で『マリッジ・ストーリー』をご覧になったことがありますか。アダム・ドライバーとスカーレット・ヨハンソンが演じる夫婦が離婚裁判でお互いの落ち度を指摘し合うみっともなさを描いたコメディですが、あれのもっともっと下品なやつですね。

本人だけでなく元カノのセレブまで巻き込んで、酒やドラッグに始まり酒瓶投げや階段突き落とし、果てはウンコ放置事件に至るまで、二人の証言がとても刺激的だったので、連日マスコミとネットのおもちゃにされて報道はどんどん加熱しました。

実はデップは2年前にイギリスでも別の新聞社を相手に、ほぼ同じ内容で裁判を起こしました。内容は重複しており、こちらはよく纏まっているので参考にリンクを貼っておきます。なおこの裁判はデップが敗訴しました。

今回のアメリカの裁判では、これはデップの弁護士の巧さもあると思うのですが、アンバーの証言の揚げ足取りがクリーンヒットを連発して、アンバーがどんどん不利になりました。あるいはイギリスでの結果を受けてよく準備していたのかもしれません。

さらにファンの数で圧倒的に勝るデップの世界中のファンがTikTokで「ジョニーに正義を」という大キャンペーンを展開してトレンドを支配しました。PCでネットを見ない若い子は、ほとんどデップ無実の一色に染まってしまったのではないでしょうか。

陪審員はテレビやSNSを気にしないように厳重に注意されていましたが、あそこまで行ってしまうと、本当に気にしないで済んだのかは少し疑問が残ります。

▼裁判の結果:

デップは勝ちました。ただし完全勝利ではありません。

デップは起訴で5,000万ドルを請求しましたが

陪審員と裁判官が下した判決では1,000万ドルになりました。

さらにアンバーは反訴で200万ドル勝ちました。

差し引き800万ドルがアンバーの賠償金額になりました。

つまり金額的にはデップの勝利は16%ということです。

シンプルに、目標金額の2割にも到達していません。

つまりデップの言い分の8割は通らなかった、とも言えます。

▼海外セレブの反応:

裁判直後こそデップの大勝利という見出しがメディアで躍りましたが、実は時間が経つにつれて、そうした雰囲気は薄れつつあります。

 裁判中は非公開だった資料が解禁された。新たに公開された文書は全部で6,000ページ以上あり、そのなかにはジョニーにとって不都合なものも多くあった。そのことが関係しているのかどうかはわからないが、裁判の評決後にジョニーがインスタグラムに投稿した感謝のメッセージに「いいね」を押していた何人かのセレブが、密かに「いいね」を取り消していたことが明らかに。
 以下、「いいね」を取り消したと言われているセレブ。
ロバート・ダウニー・Jr.
オーランド・ブルーム
ベラ・ハディッド
エル・ファニング
ハリー・ベイリー
ジェイミー・キャンベル・バウアー
ジェニファー・クーリッジ
ジョーイ・キング
マレン・モリス
ライリー・キーオ
ソフィー・ターナー
ヤングブラッド

 また、「いいね」を取り消す以外にも、ジョニーの愛娘でモデルや俳優として活躍するリリー・ローズ・デップは、2016年にイギリスで行われた別の名誉毀損裁判の際に、父であるジョニーを擁護するコメントをインスタグラムに投稿していたが、現在、この投稿は削除されている。
 さらに、映画『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』でジョニーと共演したカヤ・スコデラリオは、2016年の名誉毀損裁判の判決が出たあと、ジョニーのインスタグラムをアンフォロー。ジョニーの友人で、ジョニーとアンバーの裁判で何度か名前が挙がったこともある俳優のポール・ベタニーも、裁判での証言を取りやめたあと、ジョニーのインスタグラムのフォローを外している。

ジョニー・デップを“支持”していたセレブたちが密かに「いいね」を取り消す(2022-08-10)

 アンバー・ハードにとって都合の悪い情報が出てくることを期待した一部のジョニー・デップのファンが、お金を出し合って裁判の非公開資料を入手するも、結果的にジョニーのイメージを損なうことになってしまったようだ。
ジョニー・デップは勃起不全に悩んでいた(酒瓶でのレイプとの関連性)
ジョニー・デップの弁護士が“リベンジポルノ”を画策
アンバー・ハードはジョニー・デップの一部財産の受け取りを拒否していた
ジョニー・デップの元エージェントの証言の一部を“封印”
マリリン・マンソンがジョニー・デップに18歳の女性を紹介
 
これらは、今回わかった新情報の一部。ジョニーのファンはアンバーに不都合な真実を得るために情報開示を行なったわけだが、NewsweekやInsider、Rolling Stoneといった米メディアは、ジョニーのイメージを傷つける行為となってしまったと報じている。

ジョニー・デップのファンの“行動”が裏目に出る、「ジョニーに不都合な情報」が次々と明らかに(2022-08-10)

火の無いところに煙は立たない、などと言われますが、果たして?

▼私の見解:

さて、最後に私の意見を書きましょう。

ぶっちゃけ「どっちもどっち」なんでしょうね。(苦笑)

アンバーはちょっとヤバイ女だし、デップもそれなりにヤバイ男だったと。

2人の演技やSNSでのゴキゲンな動画とか見れば感じると思うのですけど、彼らは良くも悪くも普通の人間じゃないですよ。そんな人達の考えてることや行動を、一般人の我々の感覚で正しく理解できると考える方が無理があります。

アンバーのTwitter(2021-04-01)より

これはやや重くて暗い話で、この裁判でも話題になったのですが、2人は幼少期に親から虐待を受けていたそうです。

そういう古い心の傷を負った2人が出会ってしまい、惹かれあってしまい、一緒になってしまったために、生活に支障が出てしまった、という話でしかないと思います。

 裁判の3日目には、夫妻の元結婚カウンセラーを務めていたローレル・アンダーソン医師の宣誓証言が法廷で再生され、その模様をPEOPLEが伝えている。
 「デップ氏からアンバーへの暴力はあったのですか?」と問われたアンダーソン医師は、「ええ、そうですね。彼はおそらく、20年か30年、うまくコントロールできていたのだと思います。2人とも、家庭内虐待の被害者でしたが、何十年も制御していた。そしてハードさんと一緒になったことがトリガーとなって、お互いに虐待をしてしまったのだと私は見ています」と答えたという。
 またアンダーソン医師は、ハードが「見捨てられないために」わざと元夫にケンカをふっかけて自分の元に繋ぎ止めようとしていたと主張。当時アンダーソン医師は、ハードの顔に複数のアザがあることを確認していたという。

ジョニー・デップ「相互虐待だった」元妻との裁判で飛び出した生々しい証言(2022-04-15)

そして更に不幸だったことに、成功したスター俳優である2人にはプライベートというものが無かった。

この裁判は【アンバーが嘘をついたかに決着をつける】ために、お互いが相手の証言は嘘である(相手は発言の信用度に足りない人格である;本当の被害者は私である)と主張していたわけですが、裁判では【2人とも自身の言動(暴力を含む)が正当防衛であることは証明できなかった】と見做すのが正しいのでしょう。

とすると【2018年のアンバーの寄稿が原因でデップだけが仕事を失った】のは事実ですから、デップの名誉毀損には該当するという判決にはなると思います。お互い問題ありだけど、デップだけが仕事で損するのはおかしいよねと。

アンバーは「真実」を求めて控訴申請したそうです。なんたる鋼のメンタル。そこだけは見習いたいです。(笑)

●Snyderverseはどうなる?

さてさて、スナイダー映画の熱心なファンである私としては、アンバーはSnyderverseスナイダーヴァースの重要な配役だったので、今後が気になる所ではあります。

作品と俳優のパーソナリティは分けて考えるべきだと私は考えていますが、子供達が興味を持ちやすいヒーロー映画で、犯罪者や素行不良者を起用することに問題があるという意見には概ね同意します。

過去にヒーローを演じた人が道を踏み外すことや、過去から更生した人がヒーローを演じることはあっても、現在進行形で係争の最中にある人を起用するのは難しいでしょう。

ヒーローなんてイメージが命ですから。

現実と虚構を区別できない子供が見るんですから。

正直アンバーはかなり厳しいでしょう。

実際に来年公開予定のアクアマン2(Aquaman and The Lost Kingdom)ではアンバーの登場シーンが全部カットされたという噂までメディアで流れています。

会社合併直後で新体制を敷いているWBDが、大事なこの時期に無理に評判の悪い女優を起用するリスクは取るべきではないと私は思います。少なくとも私がCEOの立場なら、アンバーを出演させないで済む方法を模索するでしょう。

ただし、SnyderverseはもはやDCEU(子供向け)ではない、というのもまた私の見解です。

そもそもジェフ・ジョーンズやウォルター・ハマダらが在籍した当時のDC Films社の取締役が目指したDCEUは事実上の「ハマダバース」であり、言ってしまえばMCUのコピーですから、そちらの作品で子供を意識するのは理解できます。しかしザックは少し違います。彼はR指定相当の暴力や物語を描くのが得意です。実際にBVSとZSJLはR指定ですし、構想段階で中止されたJL2のストーリーはかなり大人向けです。(不倫を扱っています)

企画の当初こそDC Films社はザックを総合監督として登用しましたが、2作目で「これじゃない」と気づいて、ザックを更迭までして強引に後続作品を路線変更したわけで。(そのやり方はザックの愛娘の不幸まで利用するという酷いものでしたが)

今ではDiscoveryに買収されてWBDとなり、当時のDC Films社の取締役は全員会社を去り、DCEUハマダバースのMCU化路線が継続されるのか変更が入るのかは分かりません。しかしファミリー層を含む全てのオーディエンスに向けた「楽しいDC映画」ではアンバー抜きで制作して、大人の視聴者を想定した「シリアスな DC映画」では多少スキャンダルがある俳優でも起用する【棲み分け】には検討の余地があると、個人的には思います。

全てはWBDブランド全体でどうしていくかという戦略次第ですね。規模と時間で予算をどう分配して、どのセグメントの顧客をターゲット層にして制作して行くのか。マルチバース化を進めれば便宜上は全て可能ですが、会社の予算は限られていますから、優先順位の問題になります。

(正直、現行のDCで将来安泰なのはザバとJOKERとシャザム系だけだと思う)

ディズニー/MARVELと同じことをやっても今からMCUには勝てないので、WBD/DCの独自色として【大人向けのシリーズ】を持つ意味は十分高いと思われます。是非ともSnyderverseやアンバーの起用にはオープンなマインドで臨んでほしいな、と考える今日この頃です。

デップについては私からは特に意見はありません。DC映画なら何某かのヴィラン役で出演するのが盛り上がるのではないでしょうか。ディズニーもWBDも彼と今更仲良く仕事が出来るのか分かりませんが。(笑)

了。

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