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【あんのこと】を三幕構成で読み解く

#ネタバレ

結末まで語るので、本編を未見の方にはブラウザバックを推奨します。

香川杏(河合優実):21歳。売春と麻薬の常習犯。幼少期から親に虐待されてきた。
多々羅(佐藤二朗):生活安全課の警察官。おそらく元刑事。
桐野(稲垣吾郎):雑誌の記者。多々羅に協力的。
三隈(早見あかり):杏と同じマンションに住むシングルマザー。

一幕

1)杏が薬物不法所持で逮捕される。刑務所行きも辞さない杏だったが、生活安全課の多々羅が杏を諫めて立ち直り支援を開始する。帰宅すれば杏は今でも連日のように母から虐待を受ける。

2)杏は売春を辞めて、薬物更生者の自助グループに参加し、夜間学校に通学し、多々羅や桐野の伝手で介護センターに就職する。杏は多々羅の指導に従って、クスリをやらなかった日は日記手帳にマルをつける習慣を始める。

二幕

3)杏は家族の元から逃げて、シェルターマンションに引っ越す。

4)給与明細が実家に郵送されてしまい、母親が職場に押し入る。COVID19の流行が始まる。テレビではクルーズ船ダイヤモンドプリンセス号の集団感染が報道されている。

5)COVID19の感染被害が深刻化する。自助グループの集会がなくなり、保健所の指導で介護センターに出社できなくなり、政府の指導で夜間学校は無期限休校になる。そんな折に多々羅のスキャンダルが桐野の取材を元に雑誌で報じられて、多々羅は退職し、やがて逮捕される。杏は孤独な生活に逆戻り。

6)突然、三隈が3歳の息子ハヤトを杏に預けて元夫から姿を晦ますために逃亡する。杏は苦労しながらも、三隈の言葉を信じてハヤトと暮らしながら迎えにくるのを待つ。

三幕

7)杏は街で母に発見されて、ハヤトを人質に金を要求される。仕方なく昔のように売春して金策するも、母はハヤトを児童相談所に引き渡してしまい杏は絶望する。再び母と絶交して帰宅した杏はまたしてもクスリに頼ってしまい、日記を見てさらに絶望し、ブルーインパルスの音に誘われてベランダに出ると、そのまま投身自殺する。

8)三隈が警察署で面談している。警察官は杏が自殺する直前に燃やした日記帳から一枚だけ破られたページを三隈に見せる。そこには育児日記が綴られていた。三隈は杏に感謝しながらハヤトと二人で帰路につく。

FIN

一幕
 一場:状況説明
 二場:目的の設定
二幕
 三場:一番低い障害
 四場:二番目に低い障害
 五場:状況の再整備
 六場:一番高い障害
三幕
 七場:真のクライマックス
 八場:すべての結末

参考:ハリウッド式三幕八場構成

監督:入江悠『SR サイタマノラッパー』『ギャングース』
2024年製作/113分/PG12/日本
配給:キノフィルムズ
劇場公開日:2024年6月7日

▼解説・感想:

三幕構成に綺麗に当てはまりました。

私が観覧直後にとっさにiPhoneのメモ帳で取ったメモも、偶然にも8行になって、自分で驚きました。(笑)

つかまる。
更生はじまる。
家を出る。
見つかる。
コロナ禍。
子供。
また見つかる。
杏がこの世界に遺したもの。

やはり映画は2時間を脚本と編集でどう組み立てるのか、という様式美を追求した姿勢を見て取れると、一気に面白さがアップしますね。(*個人の感想です)

●なぜ感情に響くのか

さて、内容はなかなかヘビーな作品でした。今、日本映画界で最注目の若手女優と言っても過言はないでしょう河合優実の魅力と演技力が爆発した素晴らしい映画だと思います。

ところどころ主人公の行動に理解が追いつかないけど、やっぱり義務教育を受けてないから愚かな行動を取ってしまうという描写なのだろうと解釈しました。教育って大事ですね。

ただストーリーがそこまで凄いか、と考えると、なんかそうでもないような気はします。ここまで高評価に繋がったのは、おそらく劇中で2020年前半のコロナ禍の時事ニュースがストーリーに組み込まれているからでしょう。要するに、アメリカ人にとっての『フォレスト・ガンプ』のような、あるいは日本映画でも『ALWAYS三丁目の夕日』で取ったような、観客自身の記憶や思い出を刺激するタイプの映画だからでしょうね。

もしくは2016年に日本人に同じ手法で衝撃を与えた映画として『シン:ゴジラ』が比較対照されるべき作品だと言えるでしょう。あれも大手エンタメ業界では一種のタブーだった3.11と福島原発事故を、ゴジラという厄災に仮託して描くことで、映画の内容以上に日本人の記憶と感情をメタ的な部分で刺激する映画でした。

いやぁ、しかし、あのコロナ流行と大混乱から、まだ4年しか経っていないというのが、なんだか大昔のことのような気がします。そのくらい私の生活と人生観は変わりました。それは加齢による変化だけではないと思います。

●実話を基にした

本作については、各所に「入江悠が監督・脚本を手がけ、ある少女の人生をつづった2020年6月の新聞記事に着想を得て撮りあげた人間ドラマ」といった触れ込みがあるのですが、奇妙なのは、公開から1ヶ月経過しても、その元になった新聞記事というのが検索でヒットしないことです。

この記事は、本当にあったのでしょうか?(苦笑)

それとも後半の子供を預かるエピソードはおそらく創作もしくは、誰か別人のエピソードを合体させたような気がするので、そこらへんがグチャッとならないように敢えて情報を出さないようにしているのでしょうか?

そこらへんの、舞台裏についてもう少し調べたくなる映画でした。

何かご存知の方がいらっしゃいましたら、コメントなどでご教示いただけると幸いです。

(了)

最後まで読んでいただきありがとうございます。ぜひ「読んだよ」の一言がわりにでもスキを押していってくださると嬉しいです!