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【小説】怪異は連鎖する 第四話


学校の歴史


私の通っていた学校は動物について専門的に学ぶ学校であり、将来トリマーや動物看護師を目指している人、動物園や水族館で働きたい人などが夢を叶えるために日々の勉強を頑張っていた。

学校の立地としては、駅からは近いものの飲食店や、量販店が建ち並ぶ栄えた大通りからは外れた場所に位置していた。
これに対しては、学校の実習授業に伴って校舎にはたくさんの犬がいる為、臭いや声が近隣の迷惑にならないよう考慮した結果、このような場所に校舎を建てたのだろうと思っていた。

しかし…
どうやらそういうわけではなかったようなのである。
 
 

居酒屋でバイトをしていると、私に話しかけてくるお客さんが時折いたのだが、学校に通っていることを告げると
「あそこはもともと、結婚式場だったんだよ。」
などと昔の話をしてくれる人がいた。
結婚式場か…。言われてみれば、部屋の造りがそれっぽくも思えてくる。
「広いホールがあるだろう?」
言われて直ぐに二階の教室が頭に浮かぶ。そこは主に一学年全員が集まって授業を受けている部屋だ。
動物園の園長など、外部の講師を招いて公演を聞く際には一学年と二学年の全員がその教室に集まるのだから、かなり広い造りになっている。

なるほど。あれは学校を造ろうと思って建てたのではなく、初めからあった建物を学校として使っていたのか。

 
しかし、またある時お客さんから話しかけられ学校の話をすると
「あれは昔、パチンコ屋だったとこだよ。」
と言われてしまった。
でも、結婚式場だったと聞きましたよ。と返すと
「いやいやこの辺りには昔から結婚式場なんてないよ。あれはパチンコ屋だったの。中を見て分かるでしょう?」
不思議そうに言われた。パチンコか…確かに二階のあの広いホールには台を置けるし、一階の教室には配線がたくさんあった。
しかし…パチンコ屋にしては小さい部屋が多すぎる気がする。職員室や理事長室やロッカールーム、小さな部屋が幾つもあったのだ。実習室に至っては細長い形状の部屋のため、台を数台でも置いたら身動きが取れなくなり、不便だと思われる。
 
 
またある時には、お客さんから
「あそこは学校になる前は葬儀式場だったはずだけど。」
とも言われた。それには流石にドキッとしてしまう。パチンコ屋のお客さんと同じく、結婚式場だったと聞きましたが…と言ってみる。
「そうだっけ?いやー、葬儀の方だったと思うんだけどな。おい、葬儀だったよな?」
お客さんは向かい合って一緒に呑んでいた同僚らしき人物に問いかける。
「確かそうだったんじゃないか。お袋が参列しに行ってたことが一度あったと思うよ。そんなところの跡地を学校にするなんて…奇妙なことをするなと当時思っていたよ。」

結婚式場と葬儀式場。どちらも建物の造りとしてはあり得る。職員室などの小さな部屋も控え室であったり衣装室だったとすれば合点がいく。

ただ…通っている身としては結婚式場であってほしい。絶対に!

それ以来私はお客さんたちに、敢えて学校の話を振ってみることにした。
だが、やはり回答は様々なもので…ある人はラブホテルだったと言い、ある人は病院だったと言う。
なぜこんなにも言っていることがバラバラなのだろうか…。30~50代のお客さんばかりだったので、年齢的にも知らないことはないと思うのだけれど…全くもって不可解なことだ。
誰かもう一人だけでも『結婚式場だ』と言ってくれたら私の心は救われるというのに。
今度こそ、きっと言ってくれるだろうと期待を込めて、結婚式場だったんですよね?と、聞くものの
「え?結婚式場がこんな田舎にあるわけないでしょ。」
「結婚式場なんてこのへんにはないよ。」
そんな言葉が返ってくるばかりなのであった。


学校として造ったわけではない、だけれど元々何に使っていた建物なのかは分からない。
これだけでも不気味だと思うのだが、実際にこの学校では不可思議なことが起きてしまうのである。



 
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