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アラビア語会議通訳者、東海大学客員教授(平和戦略国際研究所)、有限会社エリコ通信社創業…

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アラビア語会議通訳者、東海大学客員教授(平和戦略国際研究所)、有限会社エリコ通信社創業者 コンサルタント

最近の記事

身びいきを戒める

イスラムの歴史に学ぶシリーズ(No.003) 今日のイスラム世界を築いた偉人の筆頭に上がる人として、ウマル(ウマル・イブン・ハッターブ/ 582?-644)がいる。厳格な性格として知られるアミール・アルムーミニーン(=信徒の号令者。第二代カリフ)は、商道徳にも厳しく、自ら市場を見回るだけでなく、市場における不正を取り締まり、争い事を仲裁する市場監督官(ムフタシブ)をこの時代に設置した人だ。 次のような逸話がある。ある日、いつものように市場を見回っていると、よく肥えたラクダ

    • マクロンがもたらした危機と教訓

       アルジャジーラ(アラビア語チャンネル)は、31日、マクロン大統領との独占インタビューを番組 لقاء خاص (特別インタビュー)で50分間にわたりノーカットで放送した。世界の要人の生の声を伝えるこの番組スタイルは創立以来20年以上変わっていない。世の中で起きている事情を間接的にしか伝えない我が国メディアと比して、「事実を直接伝える」だけでなく、「事実を作り出す」重要性を同局が有していることを再認識した。(※このインタビューが放送されることで、新たに国際的な波紋が広がる。そ

      • 錆びた虫ピン

        翻訳の校正をしていて思い出したエピソードがある。 エジプトのエルマハッラ・エルクブラは、ナイルデルタの中央部にある同国繊維産業の聖地だ。その昔、同市の衣料繊維総合メーカーを訪問したときのことだ。会社幹部から次のような説明があった。読者はご存知のことと思うが、エジプトの特産品の一つはエジプト綿で、繊維一本一本の長さが極めて長い超長綿と呼ばれるその品質は世界最高峰である。 「最高級の原料が地元にあり、最新鋭の織機、ミシンを使って熟練工が作っているにも拘わらず、エジプトのワイシ

        • イスラム暦付カレンダーと勇気

          コロナ禍で生活が激変してしまった2020年。皆様はいかがお過ごしでしょうか。弊社のメインの業務である通訳・翻訳業は、国際的な人の出会いの場が仕事の舞台ですので、大きな、というより甚大な悪影響を受けました。また、それは過去形でなく、最も回復の遅い業種であるともいえ、需要の回復は今後も遅れるでしょう。Go To Interpretation なんて政策は望むべくもありませんからね。 そんな事情を知るお客様の中には、弊社が毎年発行しているこのカレンダーが今年も作成されるのだろうか

        身びいきを戒める

          アブラハム合意

          ここのところ、ポンペイオ国務長官をはじめ、トランプ政権の高官から「アブラハム合意」との言葉が発せられている。8月13日に発表された、イスラエルとUAEの国交正常化合意を指した言葉だ。 この命名は当事者が使用しているものではない。当初から米トランプ政権が意図的に使っている。(13日)フリードマン駐イスラエル米大使は「この合意は、『アブラハム合意』と呼ばれることになるだろう。アブラハムはキリスト教、ユダヤ教、イスラム教という三大宗教の父だからである。」と述べた(8月14日、ヨウ

          アブラハム合意

          誰が火をつけたのかわからない

          写真:AP Photo/Hussein Malla 6000人が負傷し、少なくとも180人が死亡したベイルート港の大爆発は、その端緒が大量の硝酸アンモニウムが保管されていた第12番倉庫で発生した火災であることが分かっている。この火災が失火なのか、放火なのかがわからない。証拠となる現場は直径200mの巨大クレーターとなって吹き飛んでいる。真相にどうやって迫ることができるだろうか。 下記APの記事が、筆者にとっての少しばかりの新事実を伝えているので、備忘録がてら書いている。

          誰が火をつけたのかわからない

          隠蔽すれば処罰されない

          国連は月給泥棒 18日午前(日本時間夕方6時)ハーグ郊外のレバノン特別法廷(STL)で始まった判決言い渡しは微に入り細をうがち、延々と続けられた。この長文は、これまで費やされた15年の歳月と費用に対する、せめてもの罪滅ぼしのつもりなのだろうか。そんな感想が一番に来た。  しかし、結論はこの1行だ。「暗殺は政治的な動機で行われたかも知れない。しかし、ヒズボラやシリアが直接関与したという証拠はない。」そして、被告4人(5人が起訴されたが、ヒズボラ幹部の一人はシリアで暗殺され公訴

          隠蔽すれば処罰されない

          ベイルート大爆発は事故か事件か

          賞味期限の短い記事を書くのはどうかと思うが、現状の報道には満足できない向きに、小職なりの分析を提供したい。ツイッターで出回っているこの映像は、火災発生の当初からを記録していて、事件の意味を問う糸口を提供している。 ロイターが報じた未確認情報では、当初火災は9番倉庫で発生し、12番倉庫の硝酸アンモニウムが大爆発したということになっていたが、動画と、その下に張り付けた爆発前、爆発後(巨大なクレーターが出現)の写真を見比べてほしい。当初から火災を起こしているのは大爆発した12番倉

          ベイルート大爆発は事故か事件か

          ベイルートの爆発とレバノン特別法廷

          8月4日、ベイルートの港湾地区で発生した巨大な爆発についての真相究明が待たれるところであるが、直後から非難の指先が向かっているヒズボラについては、15年前からの嫌疑がある。2005年2月14日、ラフィーク・ハリーリ首相の車列が路傍に仕掛けられた大量の爆発物の爆発によって吹き飛ばされ、首相らが死亡した事件に関与した疑いだ。 この事件については、国連安保理決議によって特別法廷が設置されて審理が続けられてきた。何と15年もかかっていてその意味が問われるが、とにかく、その判決が8月

          ベイルートの爆発とレバノン特別法廷

          犠牲祭という「祭節」

          普段何気なく使っている「結婚」という日本語。文明開化で西欧的マリアージュの概念に適合する言葉として定着したと言われています。翻訳の世界におりますと、適切な訳語がない、という困惑をよく経験致します。最近の日本人は新語を作る努力を怠り、何でもカタカナで外来語として処理する傾向がありますが、必要な概念は、できたら漢語で表せるようになりたいものだと8年前にこんな提案をしました。今年の犠牲祭は、まもなく始まります。 文末の太字は今回書き足した。「global middle east」シ

          犠牲祭という「祭節」

          見捨てられる「パレスチナ」

          ネタニヤフ首相が西岸のほぼ30%の一方的な併合を7月1日にも宣言する、と言われており、世界で反対の声が上がっている。それは、国際法と国連諸決議に明白に違反する行為であるが、米国福音派とユダヤロビーはこれを支持しているので、トランプ政権も後押しをする可能性がある。宣言されれば、アラブ諸国はいつものように非難の声明を出すであろうが、かといって何かをするわけでもない。パレスチナ人は放置されたままだ。この問題に直接言及したものではないが、以下は、関係する8年前に書いた小職のコメントで

          見捨てられる「パレスチナ」

          現代に活きるイスラムの智慧

          法律は、制定してもそれが守られることを担保しなければ意味がない。法律を適用、時に強制し、これを守らない人は摘発して司法の裁きに委ねるのが法執行機関である。湾岸アラブ諸国では、警察以外に、市役所が法執行権を行使している。「global middle east」シリーズ(No. 007) ーーーーーーーーーーーーーーーー ブログ「global middle east」(2009.04.30) 偽装と市場監視 今年最初の「目から鱗が落ちる」ような話は、ドバイの隣国・シャルジャ(

          現代に活きるイスラムの智慧

          私がツイートした本当の理由

          J-Cast ニュースが私への取材をもとに掲載した下記記事は、私の主張を丁寧にまとめて下さった。 「小池百合子氏のアラビア語能力は高い」 元外務省の通訳者がツイートした理由 しかし、そこに私がツイートすることとなった直接の動機(理由)や私なりの葛藤は書かれていないため、「カネをもらってやっているのでは」「業者だから当然」といった意見もあるようだ。補足しておきたいと思う。 私のアラビア語能力は公共財私は外務省の語学研修でアラビア語を身に着けた。それはいわば国(国民)が私に

          私がツイートした本当の理由

          アラビア語通訳とはどんな仕事?

          通訳は、国際業務。外国のお客様がいらっしゃったり、こちらから海外に出かけて行ってする、というのが基本です。新型コロナの襲来。それは晴天の霹靂でした。私と私の仲間のほとんどすべてが仕事の機会を失いました。今日は、私達が日常行っている(行っていた!)3つの仕事について偶々書き残していたブログをご紹介しましょう。国際交流・会議はまた復活すると信じていますが、かなり先のことになりそう。それまで耐えられるか!?これはオヤジ(経営者)でもある私の目下の難問です。(太字は、今回の新しい書き

          アラビア語通訳とはどんな仕事?

          アラブの春10年

          10年ひと昔、と申しますが東日本大震災の起きた2011年については皆様それぞれに強い記憶がおありと思います。この年、中東北アフリカでは日本の震災とほぼ同時進行で「アラブの春」と呼ばれた政権打倒の市民運動が連鎖的に発生しました。この時書き留めていたリビア、シリア、イエメンは、現在も大きな戦乱と混乱の中にあります。何事にも原点がある、という意味で、当時の分析をそのまま掲載し、その後に現状を太字で書き込んでみました。 「global middle east」シリーズ(No. 005

          アラブの春10年

          差別と生きる

          今、反差別の世界的なうねりが起きています。世界に、差別のない国は存在しないでしょう。人間は差別をする本能を持って生まれたのではないかと思われるほど、様々な理由で、少数派は差別されています。2009年にイスラエルを観光で訪れたとき、こんなエッセーを書き残していました。それは、差別されている人が「幸せだ」と心から言う、辛い現実を目にした衝撃でした。「global middle east」シリーズ(No. 004) ーーーーーーーーーーーーーーーー ブログ「global midd

          差別と生きる