見出し画像

甘い果実ep.6

最近、体調が優れない。胸やけというか…気持ち悪い。原因はわかってる。きっと妊娠してる。先生の子だ。言えば堕ろせと言われる。言わなくても…堕ろす?早く決めないと…。
 
「せんせー?」
 
「は!え?何?どうしたの?」
 
「さっきから呼んでんのに…ぼーっとしてさ…どうした?具合悪そうだね…」
 
「そう?大丈夫だよ。ちょっと胃がムカムカするだけ…」
 
「ふーん…あんま無理すんなよ…」
 
「ありがと。んで…何?なんか用事あったんでしょ?」

「あ〜夏休み何してんのかな?って思って」

「学校にいるよ」

「この前の授業のやつ?」

私は片岡先生からの依頼で夏休み前の生徒たちに、性についての特別授業を行った。この私が…。その授業の最後に何かあれば、いつでも連絡するよう私直通の電話番号とチャットIDをみんなに配布したのだ。

「そう。だから毎日保健室にいるよ」

「俺も来ようかな〜」

「何しに?」

「先生に会いに笑」

「受験でしょ?勉強したら?」

「保健室でやるよ」

「ここは早崎くんの休憩室じゃないんだよ?」

「うん。知ってるよ。先生に会いたいから」

どうして、いつもそんな風に真っ直ぐなの?今日は何だか鬱陶しいさを感じてしまう。

「そういうのは…」
 
「もしかして…鬱陶しい?彼氏できた?」
 
「うん」

咄嗟に嘘をついた。
 
「あっそ…わかった。別れたら教えて」
 
「んなことあるわけないじゃん」
 
「だよな…帰るわ」

少し不機嫌な口調…
 
「気をつけてね」
 
「毎日それ言うけど、ぶっちゃけ何をどう気をつけんだよ?笑」
 
「転ばないように?車にぶつからないように?
変な人に関わらないように?」
 
「それなら先生も気をつけてだな?」
 
「うん。わかった…気をつけるよ」

これで、早崎くんが私から離れてくれるだろう。今の私には彼との会話を楽しむ余裕なんてない。 自分の体の変化とそれを伝えるのが怖い心との葛藤に、正直疲弊している。

幸いなことに、しあさってから夏休み。夏休み前の土日に感謝。記憶を失うまで飲みたくなった。全部無かったことにしたい。学校帰りに一人で居酒屋へ入り、ひたすら飲んだ。
 
「なにやってんの?」
 
微かに聞こえる甘い果実の声…ん?早崎くん?
 
「こんなになるまで飲んでどうした?やっぱり何かあったんじゃん」
 
「なんで?ここにいるの?」

あまり呂律がまわらない…
 
「ここ…親戚の店で…晩飯食わして貰ってる」
 
「ふーん」
 
「つか…送るから帰ろ?」
 
「いや!まだ足りない。全部忘れたい…」
 
目の前に小さなグラスが置かれた。
 
「これ飲んだら帰るぞ」
 
それを一気に飲み干した。喉から下がカッと熱くなり、望み通り…私は全てを…

つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?