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【感想】silent 第1話~第5話まで

 TVerで別作品を見ていて、たまたま見かけた「silent」。前に家族が「見ようかなぁ」と言っていたのを思い出して視聴した。空気感といい、言葉といい、間の取り方といい、なんだかほっと息をつくように「あっ、素敵だ」と思える作品だった。

 私が見た第5話までの感想を、少しだけ書き留めておく。ネタバレはしないつもり。ただ、全体の空気感に触れるので、ぜひ一度見てから読んでもらえるとうれしい。

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好きな声だった
好きな声で、好きな言葉を紡ぐ人だった

第1話より

 音楽や声、音で繋がりを築いた高校時代の紬(川口春奈)と想(目黒蓮)。上は、想の声を聞いた紬の語りだ。

 何よりこのドラマを見ていいなぁと思ったのは、単に聴覚障がいを持つ人と健聴者の恋愛ドラマではないというところだった。紬と想、そして湊斗(鈴鹿央士)をはじめとした登場人物たちの織り成す物語からは、ただ耳が聞こえる/聞こえないの話を越えた、どこかで誰もが持っている他者との分かりあえなさが感じ取れる。

 第1話、紬が湊斗と電話をしながら電車を待つシーン。何気なく見た先には、元恋人である想が電車を降りていく姿。
その瞬間、紬の中で音が消える。紬は湊斗の声が聞こえなくなる。そして物語が動き出していく。

 気持ちが強く揺さぶられるとき、時として世界は音をなくす。それが悲しくても、嬉しくても、ほんの一瞬、時が止まったように頭から音がなくなるときがある。

 そして私たちは、聞いているようで聞いていないこともある。それは例えば退屈な授業だったり、誰かのアドバイスや忠告だったり。耳が聞こえていても、どこかで私は何を聞いて、何を聞かないのか、無意識に取捨選択を繰り返している。きっとそんな風にして、紬は誰も集中していないような生徒たちの前で話す想の作文に心を動かされたのだ。

 聞くというのは、ある意味で自分がどんな世界で生きていくかを選ぶことに近いと思う。そして聞こえる/聞こえない問題は、伝わる/伝わらないことに繋がっていく。

 誰かに何かを言うとき、「伝わってほしい」という気持ちと、「どうせ伝わらない」という気持ちが混ざり合う。それは、他者とは根本的に分かりあえないという諦めの感情だ。確かに私たちは、「りんご」と言われればりんごを思い浮かべるけど、それによって想像されるりんごは人によって違う。赤く熟しているのか、しゃきしゃきしているのか、その人にとって美味しいのか。そんな些細な違いは、言葉を尽くしても尽くしても伝わらない。

 お互いに好きだと言いあっても、その「好き」は二人で全く同じものを共有することができないのだ。なぜなら、二人は違う環境で育ってきたから。誰からどんな「好き」を聞いてきたのか、あるいは聞こえなかったか(ドラマ中でも高校時代の想は紬からの「好き」を聞き逃しているように描かれる)。言葉は伝えたいことを細かく伝えられる道具だ。それだけに、言えば伝わった気になって、すれ違いを生んでしまう。

 そして、時には言葉が全く通じなくなることだってある。「そんな恋人やめときなよ」と客観的に聞いたことから助言をしたって、夢中になっているその友人には届かないように、確かに私たちのなかで、同じ言語を、言葉を話していても、話が通じないと感じてしまうことはあるのだ。その人はどうしてもその世界で生きていきたくて、それを理解することは自分にはできない。そういう分断は、他者だからどうしても存在してしまう。

 この「silent」では、そういう他者との隔たりだったり、言葉によるすれ違いだったりを強く感じるし、それが一体哀しいだけのことなのかを訴えかけてくれているようにも思う。
 ストーリーの中で、手話教室の春尾先生(風間俊介)は少し異質な存在だ。「ヘラヘラ生きてる聴者のみなさんは」という台詞にはついヒヤッとしてしまった。けれど多分、春尾先生という存在がいることで、「聞こえなくても気持ちは通じ合える」とか「会話できれば仲良くなれる」とか、そういうある種道徳的な横暴さから物語を解放してくれている。どんなに頑張ったって、他者は他者なのだ。

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 かといって、「silent」がただ他者との分断を哀しげに描写しているとは思わない。むしろその逆で、丁寧に描いてくれているからこそ、そんな中でも相手を理解しようとすることや、気持ちを察してしまうことの美しさが光る。その演技や演出には、感情が言葉を飛び越えてくるような気さえしている。想の消息を知るために紬と湊斗がそれぞれ名前で検索をかけているところや、想が好きだったスピッツを聞いて当時を思い出す紬のシーンは、どうしても自分の生活のどこかで心当たりがあってしまうからか心が動かされる。

 久しぶりに色々とドラマを見て、1週間に1回見ておかないと!という感覚が懐かしく思う今日この頃。これからも楽しみです。

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