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【雨の日に読むはなし】


雨が長くなると
アレンを思い出す
アレンに会いたい



しとしと、柔らかく降る雨の音を感じながら、
もう9年も前を振り返り

アメリカで出逢ったアレンと
スピリチュアルについて

書こうと思う






地鉄赤ライン線上110station、アポロシアターと言えば
日本人にもなじみが深いだろう、

そこへ気軽に歩いて行ける程の距離に

黒人のおじいちゃま「アレン」
は家主で住んでいる
 

 
アレンは残りの3つの部屋を
シェアハウスとして貸し出し

その内の一部屋に
 私は住んでいた



他の部屋の住人たちは
刺激的なニューヨークの世界を
むさぼるようにいつもお出かけで、
ほとんどこのアパートですれ違う事はなかった


一方私は逃げる様に日本を後にし
ここへ辿り着いた傷心の身だったので、
まだまだ世間の刺激から遠ざかりたかった

それなのにこんな世界の中心の様な街を選んで、
落ち込みたいんだか楽しみたいんだか、
相変わらず自分でも変わっていると思う



アパートに引きこもる事が多い私は、結果
毎日リビングで音楽活動にいそしんでしるアレンの
行動生活パターンを網羅していった


アレンは180センチ近くある高身長だが、
自然と威圧感はない

体はまな板みたいに細く薄く
足取りはいつもふわふわ軽やか、
空間を邪魔する事なく自然にそこに存在している


蜘蛛の様に細く節ばった、長すぎる指先は
いつもパラパラ動かしては、
タコ(オクトパス)が怖いんだと
タコが怖いわりには
いつもタコの話題をお決まりで話している


そして
キッチンで出会ってしまうと必ずコップを裏返しては、
これはメイドインチャイナ
これもこれも、これもメイド・イン・チャイナ
そして僕の胸に入っている大きな機会もメイド・イン・チャイナ

“I’m …made  in Chaina”

聞き飽きるほどの
このお決まりのフレーズは、彼が上機嫌の時に発動する…


彼の生態系を一番知っている日本人は
きっとこの私だろう





そんな彼との
雨の日の出来事


彼は、朝一番にシャワーを浴びると
きれいに洗濯された
清潔で真っ白いバスローブを着るルーティンなのだが


雨の日はその姿のまま
一日中、ぼんやり窓の外を眺めている


そのひっそりと奥ゆかしい光景は
他者が邪魔して壊してはいけない世界な気がして

窓の外をぼんやり眺めてたたずむ彼の背中を横目に
キッチンから食料をまとめて調達しては
そっと自分の部屋に戻る日が
何日か続いたのだった


雨の街並み



そしてとある雨の日に、
ついに我慢しきれなくなり
彼に尋ねてみた

「アレン、ずっとそこで何してるの?」


驚いて振り返った彼は
一瞬間をおいて


それでも
すぐにいつもの笑顔に戻り
優しい温度で


言葉という音を紡ぎ出す


「雨の音を聞いてるんだよ」


雨の音



やっぱり…
「ずっと聞いていて飽きないの?
何を想っているの?」



ニューヨークの空が
グレーとパープルをかき混ぜた様な暗い色で


どこか物悲しく
とても静かな情景だったので


会えなくなった人を思い出して切ないのか、
悲しい気持ちに浸っているのかと想像していたけれど

彼の想いはまったく逆だった


Peaceful
Spiritual


この穏やかで温かいエネルギーを受けとって
とっても幸せなのだという


彼のうっとり微笑む表情が
その心地良さを言わずとも感じ取られる


いつもは興奮すると早口なアレンが
ゆっくりと、低い声で
私にも充分理解できるテンポで語りだし

他に邪魔するものは何もない空間、
ただコーヒーの湯気がゆらゆら漂い消えていく音がアレンに寄り添い 

静かな時間が流れてゆく


コーヒー


「この街はいつもパトカーのサイレンや
人の小競り合いでけたたましいけれど…

雨の日は  皆それぞれ散り散りになって
家に引きこもるだろう


そうすると、外の慌ただしさも
荒く、うごめいていた景色もすっかり静かになって
心が次第に穏やかになっていくんだ
それでいて
長い雨は特に  特別な音が聞こえてくるんだ
だから窓を開けるんだよ」



「スピリチュアルって…
日本では神社に行って、いい運気をもらう、
みたいな感じで使われてる言葉だけど、それとは違うの?」


「うーん、僕の思うスピリチュアルは違うかな
雨が降ると
 乾いた土が充分に水を含んで
潤って
全てを受け入れる準備ができる
準備ができた土の元に
沢山の落ち葉が雨で流されて
還ってくるんだ 」 




ウィンクをするアレン

深く沈むソファに
からだをすっぽりうずめた私に向かい

ゆっくり深く息を吸って
再び語りだす




「落ち葉の栄養を
土が受け取ったら
次は
樹木に必要な栄養をシェアして
繋がっていく…
一度枯れ落ちた落ち葉がそうやって
次の命に繋がるエネルギーに形を変えて
循環する事が 
スピリチュアルなんだよ」


雨、新しい芽吹き


「素敵」…

「そのスピリチュアルを感じ取れるのが
この雨の音なんだ
こっちに来て窓の外を覗いてみなさい」


窓際に立つアレンが
手招きする

木製のざらざらした窓際に手をのせ
アパートの下を少しのぞき込むと
しとしと細かく降る雨も、コンクリートの道の端では大きな流れの束になり
行き場を失った落ち葉をさらって流れていく


「あの葉っぱはどこまで行くんだろう
て思ったら、ずっと見ていられるだろう?」

「うん分かる」

そう話して

アレンがぎゅっとハグをしてくれた
あったかかった







私の母の両親、祖父母は
母が20歳の時に他界していて

父方の方は少し変わった理由があり
ほとんど近づけた記憶がなかったので

世間一般の祖父母から得られるという
両親とも違う、
親族間にある繋がりがなかった私だったが


アレンは、そんな私にとって恋人や異性とは違う、
それでも安らげる大きな存在、
唯一無二の存在だった



沢山の経験を経て
感情の激しさを削ぎ落とした人が放つ
何かなのだろうか、


彼独特の安らぎで包み込む、
彼自身が暖かく深く包み込んでくれるソファの様な、
この身を迷いなく任せられる安心感だ



あの時のハグは忘れない
アレンは、私が離れるまでずっと
抱きしめてくれていた


皆と挨拶でかわす軽い抱擁ではなく
ぎゅーーーっと

白いタオル生地のバスローブが
私の肌の油分と水分を
全部吸い取っていくんじゃないかってくらいに強く、


彼の方から
私を遠ざける事は決してなかった



そうやって始まった二人で過ごす雨の日は
変わらずただただ
ひたすらぼーっと窓の外を眺めるだけで

それまで暗く憂鬱でしかない雨の日が
特別なものになった瞬間だった



そして
雨の景色に
たまに登場する猫が
また彼と私の物語に新しい色を運んでくれる

「一人だね
あそこで見かけたよね、少しやせたかな」

「彼氏?彼女?と喧嘩したのかな」

少しの言葉で
後は互いの想像の世界はそれぞれに…
そこにもう余分な言葉など必要ない


猫と雨


たまにくる彼の孫、小学生のジョシュアが
リビングの片隅で
指スケボーのおもちゃで
一人ずっと遊んでいるのも心地よく


三人で静かな長い雨の日を
堪能し尽くしていた



こういうひと時が
人生最高の贅沢だったと思う

友達と沢山お話して、
ワイワイ盛り上がるのも勿論幸せで


旅行に行って、
自分の知らない世界に触れられる刺激や経験も
幸せだ


それでも、こういった類の幸せは、
何と表現すればいいのだろうか


身体中の細胞一つ一つが
喜びの震えを感じる様なこの記憶は、
生涯何物にも変えがたい


長い雨
長いハグ
長い無言の時

当時の情景を想い返すと
温かいエネルギーが体の内側から込み上げてくる


そこから湧き出るこの豊かな幸せの波動を
同じ雨の下にいる大事な人達に
この言葉で届けたい


「いつもありがとう」

そして頻繁には会えない人達にも
特にこんな雨の日は
ふと想っている
元気にしてるかなぁって



雨は寂しいものではなく
世界の愛の循環の時
この温かいエネルギーが
どうか皆の元に届きますように願いを込めて…


今日も私は雨の音を、楽しんでいる

スピリチュアル、晴れ


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一度は行きたいあの場所

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