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コメンテーター津良野房美#34

サンライズ瀬戸は善通寺駅のホームに滑り込む、上り下りにそれぞれホームが一つずつしかないひなびた小さな駅だ。

「はぁーーっ!やっと着いたねー!」
二人共両手を上げて大きく伸びをした。十時間以上の長旅だった。

"ここが善通寺、ポンタさんの故郷、"
房美は思っていた。

「お腹空いたね!タクシーで行っちゃおか!」
二人は駅前に一台だけ止まっていたタクシーに乗った。

「宮田製麺所お願いします」
百合絵が言うとタクシーはすぐ走り出した。

百合絵が事前に調べていたうどん屋だ。テレビにもよく出る有名な店らしい。僅か五分程で到着した。

バラック小屋のようなうどん屋はすでに多くの客で賑わっていた。店の外に立ってうどんをすすっている人もいる。

開けっぱなしの入り口を入ると客が行列している。右には古いテーブル数台と丸椅子が無造作にある。客たちは狭いテーブルに相席でうどんを食べている。

"東京でポンタさんが連れて行ってくれたうどん屋と同じだ"
房美は思った。

行列の先でおばちゃんが
「熱いの?冷たいの?」
と聞いてきた。

房美は
「冷たいの大で」
と答えた。

「みんな熱いの頼むけどね」
とおばちゃんは言う。

「じゃ、熱いので」
と言うと、

「本当は冷たい方がうどんの味は良くわかるんだよ、テレビで熱いのが有名になっちゃったからね」
とおばちゃんは言った。

「じゃ、やっぱり冷たいので」
と房美が言うと、おばちゃんは嬉しそうに

「冷たい大、ひとつねー」
と後ろでうどんを茹でている店員に言った。

うどんをもらうと隣りの天ぷらコーナーで好きな天ぷらを取る。
房美は大きなちくわ天とナス天を、百合絵も負けじと大きなちくわ天と大きな鳥天を取った。

"これがポンタさんの言ってた本場善通寺のうどん屋だ!"
房美は感動していた。


狭いテーブルに百合絵と向かい合って座り、二人はうどんと天ぷらを無言であっという間に平らげた。

食べ終えた丼は自分で返却棚に持って行かなければならない。讃岐セルフうどん屋どこでも共通のシステムだ。

房美は丼を返却棚に置いた。

返却棚の奥ではうどんを打っている人がいた。粉が飛び散って前掛けは真っ白になっている。

長い麺棒を集中して力を込めて転がしている。時折、カタン、カタンと小気味良い音がする。

頭には白いタオルを巻いている。
斜め後方からでもその真剣な表情が窺える。

スッキリしたしょうゆ顔の、、
見覚えのある横顔、、、


"んっ! エッ!!

ポ、ポンタさんっ!!!"

房美は目の錯覚だろうと何度も瞬きをして目を擦った。


つづく

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