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断片小説集

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脈絡もなく浮かんだ小説の断片を集めました。ここから何かが始まるのか、このままでいるのかわからない、体裁も整えないままのレアな状態。断片だから研がれもせず、丸められもしないままの何…
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#短編小説

断片小説集 9

断片小説集 9

 僕はいま3匹の猫と暮らしている。
 三毛猫のチャコ、サビ猫のザクロ、黒猫のコタキ。
 元々は3匹とも庭に迷い込んで来たまま居着いた猫たちだったが、共に暮らすようになって3年になる。
 3年も経てば立派な同居人(同居猫?)だ。

 彼女たちの名前は、実はかつて生家に居ついた黒三毛のチャミが産んだ子供の名前だったものだ。
 チャミは裏の家の主人が飼っていた猫だった。
 奥さんに先立たれた老主人が突然

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断片小説集 8

断片小説集 8

 いつも夢に出て来る人がいる。妙齢の女の人だ。
 私は彼女のことをよく知っていて、夢で会うたびに懐かしく思う。親密だったというより、大きな信頼を置いていたような人だったらしい。

 彼女が夢に出てきた日の朝は、目が覚めた瞬間からすでに幸福に包まれている。
 それが冬の寒い朝であれ、夏の暑さですでに汗ばんでいるような日であれ、彼女の夢で始まる1日はそれだけで幸福なのだった。

 現実の彼女に会った記

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断片小説集 7

断片小説集 7

 駅のホームにある狭い待合室が僕の読書席だ。
 学校の帰り、賑やかに喋りながら下校する同級生たちが電車に乗り込んで行くのを見送りながら、僕は毎日、日が暮れるまで小説を読む。規則正しい毎日の習慣だ。
 誰かから話しかけられることもなく(最初は同級生たちがうるさかったけれど、じきに誰も喋りかけなくなった)、夏には冷房が、冬には暖房がちゃんと入る。ベンチの座り心地は良いとは言えないけれど、贅沢を言えばき

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