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そこにないものを味わう
鮭に醤油で下味をつけ、片栗粉をまぶして揚げる。私たちのお店では、ここにキノコのあんかけを乗せて秋らしいおかずっぽく仕上げています。このキノコをかける前、いわゆる「竜田揚げ」を見るたびに、私はいつも不思議な気分におそわれるのです。
そもそもの語源としては、白っぽい粉と醤油の赤みがかった色の組み合わせが、紅葉の名所として歌枕にもなっている竜田川を思い起こさせる、というところから。たしかにそのコントラ
お店で「働く」という喜び
毎日お店に立っていると、たくさんの楽しいことに囲まれつつも、何だか追われるような気分になることもあります。
それは例えば開店時間。予約が入っていればなおさらですが、かならず間に合わせるようにおかずを揃えます。その日の天気、冷蔵庫の中身、スタッフの人数なども考え、メニューの内容や量も調節します。そして、ようやく開店を迎えたと思ったら、次に考えるのは翌日の仕込みです。
自分でやることを増やしておい
合理的もほどほどが美味しい?
美味しくなあれ、と呟きながら鍋をかき回す。料理をする人はこうあってほしいな、と思ってしまう理想の姿です。なのですが、私はある人の言葉で、この価値観がぐらりと揺らいだ経験があります。
それは有名な女性料理家です。ある本で引用されていた言葉で、前後の文脈は不明ではありますが、彼女はこう言われたそうです。「愛情で料理が美味しくなったら誰も苦労しない」と。
美味しくなるには確固たる理由がある。失敗や挑
AI時代の美味しいとの付き合い方
近ごろ巷では、AIの話で持ちきりです。新しい技術が出てくると、私はまず警戒をしてしまいます。そのくせ、まだ見ぬ未来の姿がいきいきと語られ出すやいなや、すぐ無防備に心躍ってしまうタイプでもあります。ですから今回も、ドキドキとワクワクを行き来しながら、頭の中がぐちゃぐちゃになるのを楽しんだりしています。
ともあれ、生成AIがインターネット登場以来の大きな技術革新であることは間違いないのでしょう。これ
料理を、どう評価するか
フィギュアと料理は似ている?!
フィギュアスケートや新体操など、いろんな採点競技を観ていると、ふと思います。私がやっている毎日の仕事となんか似てるところがあるなあ、と。もちろん世界レベルの美しさが似ていれば一番良いのですが、私が感じてしまうのは演技への取り組み方やその評価の仕組みなのです。
レシピには著作権がありません。店ごとの秘伝のタレといった企業秘密とは別の話です。例えば私がブログにレシピ
オナカマを増やしたい
どこまでが同じ釜か?
同じ釜の飯を食う、という言葉があります。このとき食べているメンバーを想像してみてください。きっと家族ではないでしょう。一緒に暮らす親や兄弟に対して、同じもの食べてるから私たちは似ているね、などとはわざわざ確認しないからです。
私たちのお店では、毎日15種類ほどのおかずを用意します。スタッフも一生懸命です。開店時間までになんとか作りきって、お客様を迎え入れます。そしてお昼の
たべものや、食べるを考えてみる
さてさて。ひとりのお客さまがご来店されました。店内のご利用を考えているようです。並んだおかずを端から端まで、じいと眺めています。
ここは「たべものや」です。
ドアを開くと、まず目に飛び込んでくる大きな平台。その上にたくさんのおかずが並んでいます。お客さまはその日の気分に合わせておかずを選び、家に持って帰ることも、定食としてその場で食べることもできます。おかずは数日ごとにガラリと変わるので、来な