見出し画像

それでも旅は続いていく【第2話】公開日 2022.10.15.

2022年10月。
フィンランドポータルサイト「Moi(moicafe.com)」さんのオンラインコミュニティ「nuotio | takibi」にて、4回に渡ってコラム連載を行いました。
「深堀フィンランド」というコーナーに寄稿したお話をここに公開します。

こうして「休憩すること」を大切にしながら旅を続けているistutですが、具体的にはどんな旅をしているのでしょうか。今回はそのお話を綴ってみたいと思います。

長野市へ拠点を移すと決めた時から、東京ではできなかったことに取り組んでみたいね、という想いが私たちにはありました。せっかくフィンランドのような場所で暮らすわけですし、この土地にしかないモノやコトを発信していきたいと思ったのです。

実際に長野市での暮らしがスタートしてみると、想像を超える驚きが続きました。そのひとつは、果物や野菜がとてもたくさん採れる土地であること。そして思っていた以上に地産地消な土地であること。そうなんです。地元の人たちが作ったものは、地元の人たちがほとんど食べちゃうんです。

毎朝9時。採れたての野菜や果物が、農産物直売所に並び始めると、地元の人たちが車で続々と集まってきて、ささーっとたくさん買っていきます。これが日常です。私たちも仕事に行く前や合間に産直を訪れて、採れたての野菜を買う日々。その理由はとてもシンプルで、とにかく新鮮で安価で美味しいから。今の暮らしになってからは、野菜や果物をスーパーで買うことはなくなりました。

引っ越してきて間もなく山菜の季節になり、見たこともない山菜がモリモリと並び、毎日が山菜祭りでした。シーズンと同時に急速に並ぶ山菜ですが、時期が去るとパッと消えます。お野菜も果物も同様で収穫期にしか並ばないため、春はこれ、夏はこれ、と買える作物は季節で限られます。

収穫期にバーッと直売所に並び、あっという間に姿を消す現象。「そうか。これが旬ってことなのね~」と、この歳になって初めて体験しているわけです。あれ?先週はブルーベリーが出ていたのに、今週はもう消えている。聞けば「今年はもう終わりだよ、また来年ね」。こうして、来年の収穫を待ちわびる楽しみを、これらの営みから教えてもらいます。

今年のistutの新しい取り組みとして、夏に3つのジャムの製造販売を行いました。ジャムにする果物は、長野市産ではあまり知られていない果物に絞り、加工用のB級品ではなく生食用の採れたてを長野市の農園さんから仕入れました。

作ったジャムは「イチゴとルバーブ」「アンズ」「ワッサー」の3つ。

イチゴの旬は初夏だってご存知でしたか?クリスマスケーキにイチゴが乗っている日本では、イチゴの旬がいつなのか分からなくなっていますよね。私たちも、初夏の長野市でイチゴがこんなに作られていることを知りませんでした。イチゴも地元の人たちが旬を逃すことなくゲットするため、採れたら食べて、ハーイ終わり~!

アンズは長野県が生産量全国1位なのですが、生食アンズはメジャーではなく、生で食べるのですか?と聞かれるくらい加工品のイメージが強いと思います。アンズの旬は特に短いので、収穫期が来たら農園さんも消費者も大忙し。これまた採れたら食べて、ハーイ終わり~!

長野市のアンズ

ワッサーになると、いよいよ頭の中がハテナマークでいっぱいになりますよね。何を隠そう私たちもワッサーを知らなかったのです。子供の頃の夏の果物は、桃かネクタリンでしたから。そしてその2つを掛け合わせて生まれたのがワッサーなのですが、お盆の時期から収穫が始まり、桃と一緒にドーンと並びます。こちらももちろん採れたら食べて、ハーイ終わり~!

特産のワッサー

そうなんです。旬の果物はとにかく足が早いんです。この3つの果物も本当は生のまま食べていただきたいのですが傷んでしまうのが早いので、美味しい状態をギュッとジャムに閉じ込めてお届けできたらいいね、と販売に至ったわけです。

「その時期にしか採れないものを美味しく食べた後は、保存食にする」という作業は、フィンランドの人の方が上級者だと思いますが、私たちもそれに倣ってみたのです。フィンランドでは、夏にたくさんのベリーを摘んで、そのまま食べたりケーキにした後は、冬に備えてジャムにしますよね。あの感じです。今採れるものを今食べて、あとは寒い冬に備えて大切な保存食にする。フィンランドの保存食に対する工夫や知恵を、ここ長野市で実体験することが増えました。

秋になった今は、キノコシーズン真っ盛り。フィンランドの人たちと同様に、この辺りの人たちも山に入ってキノコ採りをします。そして長野市といえばリンゴ。フィンランドも秋の定番果物はリンゴですよね。やはりリンゴも1年中採れるものではなく、春に花を咲かせ、その後小さな実を付けて、今、収穫の真っ盛りです。品種によって時期はズレますが、リンゴの旬は10月~12月。スーパーでは1年中売られているリンゴですが、フィンランドと同様にちゃんと旬があるんですよね。

長野市のリンゴ畑

何でもいつでも食べられることも嬉しいけれど、その時にしか採れないものをありがたくいただき、その美味しさをお腹と心に焼き付ける。そして次のシーズンを待ちわびる。こういう暮らしのリズムは、様々な国を旅した途中でも幾度となく経験してきていて、とても素敵なリズムだと思っています。

「冬に向かってフィンランドの野菜売り場は白くなる」。

これは長年フィンランドに住んでいる友人の名言です。寒くなるにつれて、色のある野菜が売り場から消えて、ジャガイモと玉ねぎの売り場がどんどん広がっていくからだそうです。さすがに最近は、輸入野菜が増えてそうでもないようですが、彼らが移住した頃の冬の野菜売り場は本当に白かったようです。

さて、長野の真冬の直売所には一体何が並ぶのでしょうか。やはりじゃがいもと玉ねぎで白くなるのでしょうか?今からちょっとワクワクしています。

ふたりの出身地とはいえ高校生までしか生活していなかった長野市には、予想以上に多くの知らないことが存在しています。それらを50代半ばにして、イチから勉強できる毎日が楽しくて仕方がありません。特にその土地の食を知ることは、旅の醍醐味だと思っている私たちにとって、地元の旬を学びながら、それを育むこの土地の自然や気候を知ることの楽しみは、これから先も続いていきそうです。

長野市でスタートしたistutの旅はまだまだ小さな歩幅ですが、皆さんと共有しながら、これからも一緒に旅を続けて行きたいと思っています。もちろん、ゆっくりと休憩をしながら。

ヘルシンキの屋外市場

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?