見出し画像

この夏を

オリンピック・パラリンピックがあっても無くても、東京の街は常に工事中だ。
そこここに建て替え中のビルがある。新駅ができ、どのターミナル駅周辺も、リノベーション工事が止まらない。


銀座駅は、昨年から地下鉄各線ともにリニューアルの只中で、構内がさながら迷宮のようになっている。
ほとんど全ての地下通路に、工事のための柵や塀が建てまわされている。細く曲がる通路をたどり、半分の幅になった階段を昇り降りし、ネットが張りめぐらされた天井を見上げ、積み上げられた資材を眺めて通勤する。自動改札機の位置も、案内板も、こちらにずれたりあちらに動いたり。


しかしそれにももう慣れた。
むしろ週明けなどに、俄かに工事の完了した一角に接すると、視界の開け方にびっくりする。かえって迷ってしまいそうになる。


始業に遅れてきたNさんは、構内でいつもの出口がわからず迷っていたという。
近くにいた工事の人に尋ねると
「そこを動かないでください、いま聞いてきますから。」
って言われてね、工事の人もわからないのね、と少し面白そうに話す。


夏の終わりは雲を眺める。

ほんの少しだけ日が短くなり、影が長く落ちて、雲が色づくのも早くなってきた。
日中の暑さを映すように、くっきりとした輪郭を描いて浮かぶ雲が、柔らかな朱に染まっていく。

凸凹のホーム、古いタイル、新しい壁。
いつかこの夏を懐かしむ時がくる。





いただいたサポートは災害義援金もしくはUNHCR、ユニセフにお送りします。