isomura

超短篇・500文字の心臓 http://microrrelato.net/ に投稿した…

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超短篇・500文字の心臓 http://microrrelato.net/ に投稿したものです。

最近の記事

小鬼の秘密

 最近奴は融の部屋に籠っている。私のお古のPCに入れた教材のツールでゲーム作成を試みている。存在を融に気付かれていないのをいいことに結構やりたい放題で、自分のアカウントも持っているのだ。  融が生まれた時嬉しかった。ずっと、家族の中で奴が見えるのは私だけだった。私の子供なら奴が見えるのではないか、そう期待した。思いは奴も同じだったようで、融が物心つく前から色々いたずらを仕掛けていたが、努力空しく視界に入れられないまま今に至る。その過程で人の子向けのコンテンツの威力を思い知った

    • いやや

       かずら橋夢舞台?  観光バスが出入りする広大な駐車場の向こうにおみやげものと書かれた商業施設が見える。  秘境とは。  思い込みに過ぎなかったことは分かっていても、心がこう叫ぶのは止められなかった。 いーやーーやーーーーー  声に出してはいない。だが、マッチングアプリで出会って間もない彼は察しがいいらしい。かずら橋の料金所までの長い行列に並んでテンションが上がらない私に 「高い所苦手なん?渡るのやめてもええよ。」 と気を使ってくれる。 「そんなことないよ。」 折角だし楽

      • 誰かがタマネギを炒めている

        個々の居住スペースから匂い物質が漏れ出すことはまずない。漏れ出しているのはシチュエーションを想起させるデータである。 何故だか懐かしい。

        • ブルース

          ギターオタクの友人がくれたレコードを時々かける。 段ボール箱何箱もの中から好きなのを持ってってと言うので、ほくほくとあれもこれもたんまりともらってきた。 そのどれくらい後だったろうか、肝硬変で血を吐いてそのまま。 ミソジニストでレイシスト下ネタ好きのおっさんが言いそうなことが浮かぶので、2年経った今もまったく死んだ気がしない。 ギターはというとコレクションと拘りには釣り合わない腕前で、ステージでは毎回曲の進行を見失ってオタオタした。 そういえばいないんだったなと時々思う。

        小鬼の秘密

          眠りすぎないように

          「ほら、コーヒー来たよ。」 目の前の男性がテーブルをノックしたらしい。眠っていたのかな、私。  コーヒーを口に運ぶ。 「で、話の続き。もう夢を見ないで欲しいんだ。そうすればここは切り離されて、うっかり裏返ることもなくなる。」 何の話だっけ。そう、たしか、この人は私を起こしにきたんだった。眠りの底が抜けると夢は裏返る。この人の部屋は夢が裏返る先にあって、復元力で夢が元に戻る時、しばしば取り込まれてしまうとか。 「この夢が気に入っているんだ。もう裏返って欲しくないんだよ。」 今ま

          眠りすぎないように

          少女、銀河を作る

           宇宙を抱えて生まれてきたから、そこで銀河が育つのは必然だった。ベビーベッドの上空やベビーカーを流れゆくものものと共に銀河はあり、集まり輝き膨らむ星々と彼女は親しんだ。  言葉が遅かったのはそのせいだ。彼女は困惑した。言葉には銀河の構成とは違う力が働いていた。言葉に根を下ろした世界が鮮やかになるにつれ、星団は疎らになった。  いまや彼女を構成するのは言葉だ。言葉を抜きに世界は無い。そのことに異議は無い。豊かで美しい世界だ。けれど、彼女は空っぽの宇宙も抱えていて、下手くそなC

          少女、銀河を作る

          INU総会

          議案を列挙した案内を受け取ったが、場所も日時も記載が無い。どうやって議決権を行使したらいいんだろう。問い合わせようにも発送元は「国際どこでもない組合」。所在が知れない。他の組合員も然り。そして、よく届いたな。ここに。

          INU総会

          三階建て

           老いた住宅は薄れゆく記憶を行ったり来たりしている。あの子が三階建てに住みたいと言い出したのはたしか中学に上がった時だった。住宅が建っているのは傾斜地を造成した「ニュータウン」だ。ニュータウンの子供はニュータウンの小学校に通っていたが、中学校は学区が広がりニュータウン以外の子供も一緒になった。遊びに行った新しい友達の家が三階建てだったのだ。 三人家族に三階建ては必要ないよと言う父親に、おじいちゃんとおばあちゃんも一緒に住めばいいとあの子はごねた。この家のローンがあるよと父親は

          三階建て

          白白白

           積もりましたよとヘルパーさんはカーテンを開けてくれた。ガラスの内側は曇り、外側には吹き付けられた雪が張り付いていて、ベッドの中からでは外は見えなかった。起き上がって窓際まで行くのは億劫であるが風情くらいは味わおうと、静けさに耳を傾けて目を閉じると、浮かんできたのは庭の百日紅の白い花だった。去年の夏もガラス越しにではあるがその花を楽しんだ。不思議なもので冬になるともう夏の暑さを思い出せないし、蝉の声も忘れてしまう。不思議なものでベッドの中の生活が続くと、何もかもが夢のようだ。

          鶏が先

           だって、テレビを点けたらたまたまバラエティ番組で、出演者がそのフレーズを使ったんだ。彼女は苦虫をかみつぶしたような顔をした。 「知ってる言葉があるからって、安易に口にし過ぎでしょ。例えとして雑すぎる。」 そして続けた。 「問いに答えられないことをもって、はい論破、という輩には、それが矛盾を突くどころではなく単に意味のない問いであることが分からないんだ。その体系内で成り立たないような問いが全部無意味だということではないよ。でもそれは体系に外がある視点を持ち得る限りであって、真

          パステルカラーの神様

          全知全能の神は、どうして人の目に映るご自身の姿をミントグリーンに設定されたのかな。 あなたには神が見えていて、かつミントグリーンなんだね。それは素敵だな。

          パステルカラーの神様

          川を下る

           大人達が材木を筏に組むところを眺めている。筏は筏乗りが下流の湊まで運ぶ。  父は筏乗りで、筏を運び終えて戻ると、材木だけではなく色々なものが運び込まれ運び出されるという湊の賑わいや、湊から海路を経て至る大きな町の噂話など、見聞きしたことを誰に話すでもなく話す。  母は下流の湊で父と知り合った。ここに持ってきたのは赤い珊瑚のカンザシだけだという。珊瑚は遠い南の海で採れる。母は大きな町から来た。  母は飯場で働いている。飯場には、杣人、筏を組む者、筏乗りが代わる代わるやっ

          川を下る

          お返事できずすみません

           混入があったようだ。世界は変わった。ゼリーのような沼のようなである。言葉も思考も重力に関係なく全方向に沈んでいく。  ゼリーの運動を記述できる新しい文法を作っています。そうして相殺しないと言葉を送り出すことができません。どこにも自分にさえも届かないのです。

          お返事できずすみません

          その瞬間

           瞬きに生息するマタタクマの生態はほとんど知られていない。発見者である動物学者は人工的に連続して瞬きを発生させる装置を使用してマタタクマを観察をしたが、追随する者は出なかった。その後、動物学者は装置を使わずに瞬き続けることができるようになり、唯一の観察記録を残したけれど、今のところはフィクションとして扱われている。  それはそうと、その後の動物学者は誰彼構わず恋に落ちるようになった。サブリミナル効果だとまことしやかに伝えられている。

          その瞬間

          バタフライ効果

           正月早々、2大国間の対立激化を報じるニュース。その後番組が変わって元日ほどではないにしてもまだ参拝者で混み合う地元の大きな神社の様子が映し出された時、配偶者が今から行こうと言い出した。初詣など関心無いと思っていたのに珍しい。まあ暇だし。出かけた。  参拝する最前列の人達の背中が見えてきて、やっとだねと配偶者見ると、まだお賽銭を入れてもいないのに手を合わせている。いや、合わせているのではなくて、合わせた小指を支点に手のひらをハタハタ開閉している。口元は最近覚えたあの言葉を言い

          バタフライ効果

          共通点

           漂流する座標空間同士が重なり通過しあう時に浮かび上がる座標がある。いくつかの座標の並びから物語が生まれるが、それは星座同様見かけ上のものだ。

          共通点