白白白

 積もりましたよとヘルパーさんはカーテンを開けてくれた。ガラスの内側は曇り、外側には吹き付けられた雪が張り付いていて、ベッドの中からでは外は見えなかった。起き上がって窓際まで行くのは億劫であるが風情くらいは味わおうと、静けさに耳を傾けて目を閉じると、浮かんできたのは庭の百日紅の白い花だった。去年の夏もガラス越しにではあるがその花を楽しんだ。不思議なもので冬になるともう夏の暑さを思い出せないし、蝉の声も忘れてしまう。不思議なものでベッドの中の生活が続くと、何もかもが夢のようだ。
 目を開けると馴染みの天井と壁と床である。少しばかりのやる気を出して起き上がって窓際まで行き、窓をちょっと開けると雪交じりの風が入ってきて思いがけなく心地好い。ほとんど輪郭だけになった庭で、百日紅は垂れ下がるほどに満開の花を積もらせていた。

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