川を下る

 大人達が材木を筏に組むところを眺めている。筏は筏乗りが下流の湊まで運ぶ。

 父は筏乗りで、筏を運び終えて戻ると、材木だけではなく色々なものが運び込まれ運び出されるという湊の賑わいや、湊から海路を経て至る大きな町の噂話など、見聞きしたことを誰に話すでもなく話す。

 母は下流の湊で父と知り合った。ここに持ってきたのは赤い珊瑚のカンザシだけだという。珊瑚は遠い南の海で採れる。母は大きな町から来た。

 母は飯場で働いている。飯場には、杣人、筏を組む者、筏乗りが代わる代わるやってくるが、ここの仕事が無い時期には皆よそへ移る。父もそれは同様で、その時は母と二人きりになる。母は大きな町の話はしない。

 筏乗りが流れに乗り出したのを見送る。筏は間もなく見えなくなる。笹で船団を作って瀬に放った。間もなく小さな渦に呑まれて散り散りになった。

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