いやや

 かずら橋夢舞台?
 観光バスが出入りする広大な駐車場の向こうにおみやげものと書かれた商業施設が見える。

 秘境とは。
 思い込みに過ぎなかったことは分かっていても、心がこう叫ぶのは止められなかった。
いーやーーやーーーーー

 声に出してはいない。だが、マッチングアプリで出会って間もない彼は察しがいいらしい。かずら橋の料金所までの長い行列に並んでテンションが上がらない私に
「高い所苦手なん?渡るのやめてもええよ。」
と気を使ってくれる。
「そんなことないよ。」
折角だし楽しもうと思う。蔓で編まれた渓谷を渡る橋はゆらゆら揺れて、隙間のある渡り板を進むコツを掴むのはなかなか難しくて、景色は綺麗だった。それでも、これは住人の交通施設だった過去のかずら橋とは全く別物のアトラクションだ。

 そんな心情を明かすにはお互いをまだ知らなすぎだ。運転好きだという彼の助手席に行き先も聞かずに乗り込むただの移動好きな私。明石海峡大橋から淡路島を抜けて四国に入り、山の中で高速道路を降り、大型バスが余裕ですれ違える2車線の山道の果てに行きついた我々の相性はまだなんともいえない。

 だが、少なくとも「祖谷」の読み方を間違えることはこの先ないだろう。

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