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エッセイ | 流れを渡れる人

「社交的な性格のため誰とでも仲良くなれます」

人生の中で自己紹介を聞く場面は多い。その中でもこういった内容を言う人がいる。

この言葉を言える人は性別に関係なく目立つ顔立ちをしているし、爽やかだ。主人公みたいな人であって、引き立て役には回らない。

誰にでも分け隔てなく話しかけ、笑顔も絶やさない。他人から嫌われるなんてことはないのだろうなと思ってしまうが、きっとそうでもないだろう。

大学を卒業すれば、こういったことを言う人にも出会うことはなくなるだろうと思うとなんだか安心した。


大学を卒業したがそんなことはなかった。

もちろん、入社した先で「誰とでも仲良くなれます」なんて自己紹介をする人はいなかったのだが、別の場所でその人たちは生息していた。

今ではついに市民権を得たマッチングアプリだが、そこにやつらは生きている。プロフィールには「誰とでも仲良くなれます」と文字がおどる。爽やかな見た目の写真を見ると学生時代を思い出す。

本当にこの人たちは誰とでも仲良くなれるのだろうか。趣味が合わない人とも仲良く過ごせるのだろうか。そう疑問に思ってしまう。

「誰とでも仲良くなれる」と言っていた人との思い出は、どれもパッとしないものばかりだ。浅い関係が、旗がはためくようにパタパタと続くだけ。


「誰とでも仲良くなれる」を地でいく友人が1人だけいた。その人は本当に誰とでも仲が良かった。

いつも笑顔でみんなにあいさつをし、冗談も言うしツッコミもする。良いことは褒め、悪いところはしっかりと伝える。こんなにできた人がいるのかと驚くほどだった。

しかしその人は「誰とでも仲良くなれる」とは言わなかった。

「苦手な人とは楽しくないから付き合わない。自分の人生なのに笑っていられないのは嫌でしょ?」と言い、あの人とあの人は苦手だなと笑っていた。
「この前笑いながら話していなかった?」少しだけ意地悪く聞いてみる。「あれは運が悪かっただけだよ」と悔しそうに言う。

気付くとよく私の隣にその人がおり、「どうしたの?」と尋ねたことがあった。
「流れの穏やかな場所にいたくなって」そう言う顔は少しだけ疲れていそうだったが、いつも通り笑っている。


マッチングアプリで「誰とでも仲良くなれる」と言う人へ申請を送ったことがある。しかし、そう言っている人から大抵返事はない。

「誰とでも仲良くなれる」のではなく「仲良くなる人は選ぶ」からだ。初めから自分にあった速さの流れを選び、一定の速度で進むのだ。速度の違う流れを出入りできる人とは違う。

別に私が「誰でも」の中に含まれないわけではない、と思いたい。



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