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エッセイ | 予定通り予定外

予約している10分前に病院へ着き受付を済ませる。階を移動して待合のベンチに腰を下ろす。今日は普段よりも混雑しているようで、3人掛けベンチのほとんどに2人ずつ座っている状況だ。

各部門の診察状況が画面に表示されている。予定通りであるとか、何分遅れであるとかが表示される。私が受診予定の医師については「予定通り」と表示されているが、私の前に待っている人が3人いるため予定通りではない。

診察室内で予想外のことが起きているのだろうかとも思うが、予約通りに進まないのが当然なのだろう。緊急の電話対応や他部門とのやり取りで遅れてしまうのかもしれないと予想する。

『予定通り予定外』に物事は進むのだ。


私は読書をしながら待つことにした。普段通りであれば1時間から2時間ほど待つだろうから、物語も大きく進むだろう。

読んでいる本は伊坂幸太郎の「火星に住むつもりかい?」だ。詳しい説明は省くが、この本に登場する人物をイメージするにあたり斉藤和義がチラついた。

作者本人も斉藤和義が好きなため可能性はあるかもしれないと思いつつ、あまりにも引きずられると良くないため、頭の中で斉藤和義をふんわりとデフォルメしていく。

斉藤和義と伊坂幸太郎といえば「ゴールデンスランバー」の映画でお互いが一緒に仕事をしている。音楽監督は斉藤和義で、主題歌とエンディングともに斉藤和義となっている。

エンディングで使用された「幸福な朝食 退屈な夕食」に『予定通り予定外』というフレーズがあるのだが、ついつい思い出してしまう。


私は本を閉じて時計を見る。来てから30分たっていたが、まだ私の番までは遠い。違う部門の待合所から「まだか!」と騒ぐ人の声が聞こえてくる。どのくらい待たされているかは知らないが「騒いでどうにかなるものでもないだろうに」と思ってしまう。

ただ、私も3時間ほど待った経験があるため冷静でいられるが、初めて1時間待たされたのであれば焦ってしまうかもしれない。

自分の受付が何かの手違いで受理されていないのではないかと不安になってしまうだろう。


受付をしてから1時間後に私が呼ばれた。予想していたよりも早かった。これもまた『予定通り予定外』なのだ。

扉を開けるといつもの先生がパソコンを前にして座っている。忙しくても笑顔で、患者のつらさを理解してくれる良い先生だ。

世間話をしながらも最近の状況を確認される。この先生の診断は流れるように進み気がつけば終わっているため、患者としては非常にありがたい。

診察が終わり部屋を出る際に「いつも待たせてしまってごめんね、お大事に」と声をかけてくれる。意外とそれだけで十分だったりする。



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