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エッセイ | さよなら、のどごし

以前はおなかがいっぱいになるまで食べなければ食事をした気持ちにならなかった。ご飯も主菜も副菜もたくさん食べていた。ただ、そういった食事の仕方は良くないと友達から指摘されたため、自分の食事の仕方を見直し始めた。

まず、ご飯の量を減らした。私はご飯が大好きなため、気付かないうちにたくさん食べていた。1日3食しっかり食べたとしたら3合がきっかりなくなってしまう。ペンネームを『磯森3号』としてもよいのではないかと思ったが、タイムマシーン3号の関さんは1回の食事で3合を食べていたので足元にも及ばない。

ご飯の量を減らすとだいぶおなかにたまる感覚が少なくなる。食べていないのだから当然なのだがこれだとつらい。仕方ないから主菜や副菜を食べる時のかむ回数を増やす。

1口ごとに30回以上かみゆっくりと食事をするのだが、これも私にはつらかった。私が食事で一番大切にしたいのが『のどごし』だった。今でものどごしは大事だと思っている。お米やお肉、野菜を飲み込む時に、喉を通っていくあの感覚が好きなのだ。形が残っている方がのどごしをよく感じられるため、かむ回数は最小限として粗い形状のままで飲み込みたかった。

ただ、今の私はこの食べ方から卒業しなければならない。食事量を減らして満腹感を得るにはゆっくりと食事をしなければいけない。
「こんなに悔しいことなんてないよ」目の前のご飯を口へ運び、ゆっくりとかみ続ける。口の中でどんどん細かくなり飲み込みやすくなる米粒の存在を感じていると「ここで飲み込んであげたい」と思ってしまう。


私がご飯の量を減らしたことに慣れ始めた頃に、今度は主菜と副菜の量も減らすことにした。もともとが大量のご飯を消費するための設定であるため、今のご飯の量には見合っていないのだ。

ご飯の量を減らした時は物足りなさがあったのに、主菜と副菜の量を減らしても特に思うことはなかった。おなかがいっぱいになるまで食べることが普通ではなくなってきたのだ。

食事前になると空腹になっていることが多いのだが、食事を終えた時はおなかいっぱいではなく『空腹ではない』といった状態だ。この『空腹ではない』という状態はとても気持ちがいい。

おなかがいっぱいの時や空腹の時は集中がそちらに向いてしまうが、『空腹ではない』状態であれば何も感じることはない。自然と他のことに集中力を回せるようになった。


外出先で食べ物の広告を見ると、たまに昔のことを思い出す。ハンバーガーのザラザラとしたのどごしが好きで、たくさん食べてしまいおなかが苦しくなっていた頃のこと。丼ものを口いっぱいにかき込んで飲み込んでいくのは最高だったなと。

今の私は気付けば何回も何回もかんでしまっている。あの頃に感じていたのどごしに出会うことはなくなっていた。

懐かしい記憶をなぞりながら、かみすぎて分からなくなった何かを飲み込む。



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