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ペケペケ

昔からお酒は好きだった。それからもう一つ。昔から 女の子は嫌いではないのだ。

火遊びなんて言い方もするが、若い頃の俺は 軽いやけど程度なら おかまいなしで、関係が深くなる方が どっちかって言うと わずらわしいのだ 。
熱い視線なんて勘弁して ってくらいだった。

酒と女。それが原因で、二度の離婚。
女性問題がバレて会社にもいずらくなり、ボロボロになった俺はこの街に帰ってきた。

そんな俺を、彼女は優しく迎え入れてくれ、寝床と仕事を与えてくれた。


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今日も 港に沈む夕日 浴びている。

効果があるのかわからないが、仕事前には胃を守るため 冷たいミルク を飲むようにしている。その行為を自分で せつなげ に感じるのは俺が歳をとったせいだろう。

いつのまにか あたりは真っ暗だ。さあ、今夜も仕事だ。

店の中からは聞きなれたあの恐るべき声 が。

「ちょっと!なにしてんのよ!開店準備手伝ってよ!help,help me !」

「ごめん。ちょっと考え事してて」

「アンタ、独りごと言ってたわよ。気持ち悪い。
あのね 好きなこと言ってなさい。でも、いつも私を見て、私の仕事を最優先して。アンタは あたいがいなけりゃ何も出来やしないんだから」

「わかった」

「何度も言うけど、私がアンタをこの店に入れてあげたのは、あの時の アンタはテディーベア だったからなんだからね。もっと頑張ってよ」

かわいい熊のぬいぐるみの事ではない。彼女は俺に対して『テディーベア』という単語を『瀕死の熊』という意味で使っている。

1902年の秋、ルーズベルト大統領は熊狩りに出掛け、瀕死の熊に出くわしました。しかし大統領は「瀕死の熊を撃つのはスポーツマン精神に反する」として、その熊を撃ちませんでした。
このことがワシントンポスト紙に掲載され、それを見たお菓子屋さんが、熊のぬいぐるみを作り、セオドア・ルーズベルトのニックネーム”テディ”をもらって”テディベア” と名付けたのがはじまりと言われています。

「でもね。とりあえず愛してるから。ペケペケ男」

彼女はバツ2のことを半分バカにして、ペケペケと言う。

そう呼ばれることにも慣れた。いわゆる 天罰覿面ってやつさ。

俺がにくいセリフを言っても、ぺっしゃんこにされるだけ。
たまに「Only You,Baby ふところは深いぜ。俺と暮らせてよかったね。Do you think so?」なんて言ってはみるのだが・・・

「好きなこと言ってなさい よ。ケンカになれば『あんたは俺のママじゃないなんて言うくせに。笑わせるわね。私がこの店のママなのよ!」


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ラウンジラブストーリー。

民代がママとして一人で切り盛りしてきた店だ。

その昔、俺が通っていた頃にはユウリというチーママもいたのだが。
そこでいろいろと問題を起こした俺は、民代ママを激怒させ出禁になっていた。
いろいろと問題を起こした前編はこちらから

だが。

全てをなくした俺の頭裏に浮かんだのは民代だった。最後の最後、頼れるのは民代しかいなかった。

何年かぶりに突然顔を出した俺を見て。
民代ママはほんの少し驚いたようだったが、動揺もせず落ち着いていた。

「あれから二度も結婚して離婚してたとはね。あなたらしいわね。
たしかにあなたとはいろいろあったけど…それも遠い昔のこと。もう忘れたわ。

そうね、ウチで働かせてあげてもいいわよ。ただし条件が一つだけ。
とりあえず 私のこと 愛して。涼しい顔のペケペケ男」

そう言って微笑んだ。


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「準備できたよ、ママ」

「ありがとうー、マスター。じゃあ、店開けるね」

便宜上、店ではマスターなんて呼ばれているが、この店の主役は俺じゃなく民代ママだ。俺は彼女に一生頭が上がらないだろう。

でも、これでいい。これがいい。

ここに来るまでずいぶん遠回りしたけれどもう迷わない。

本当の優しさを知ったあの日から

これからもずっと

お墓まで一緒に ペケペケ男。


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今回はこちらのリクエストにお応えいたしました! 『ウォーリーを探せ』風に文章の中にある歌詞を探してお楽しみください 笑

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そして、あの民代ママが帰ってきました!今回の記事は『リピーター』の続編となりますので、こちらも合わせてどうぞw

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