『リピーター』
どうしてこんな事になってしまったんだろう。
どこまで時を戻せばやり直せるのだろう。
その答えをずっと探している。
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この店に初めて来た時のことは今でも覚えている。
「もうお帰りですか?」
20代後半だろうか、綺麗な女性だ。僕が何も応えずにいると彼女はしゃべり続けた。
「うちの店、今夜はヒマなんです。飲みながら少しお話ししません?」
「じゃあ、少しだけなら…」
少し気を遣う接待を終えた後でちょうど飲み足りなかったこともあり、彼女の笑顔に安心できた僕は、素直についていくことにした。
カランコロン ♪
「いらっしゃいー。おひとり様?」
「あ、はい」
誰もいないカウンターに僕は座った。
『ラウンジ・ラブストーリー』
場末感のあるネーミングとは裏腹にカウンターの中の女性は若く、綺麗だった。
「私たち、二人でこの店やってるのよ。私がママで彼女がチーママ、よろしくね」
カウンターにいる女性が民代。さっき路地で僕に声をかけてきたのがユウリ。
二人とも綺麗で愛嬌がある。予想以上に楽しく、またそれほど高くもなかったため、その日から僕はこの店のリピーターになった。
そして僕は。
この二人のママを、同時に好きになってしまった。
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お互いに内緒にしてもらいながらうまくやっていたつもりだったが、そんな日々は長くは続くはずもなく。
静かに雨が降る夜、僕はお店で二人から詰められることになった。
「ねぇ、どういうつもりなの?」
民代ママが切り出す。横でチーママのユウリが刺すような視線で僕を見ている。
何から伝えればいいのか…
わからないまま時は流れていく。
「私とママを天秤にかけてたつもり?」
落ち着いてはいるが、ユウリが怒っているのは声でわかる。
どう答えれば… なんて言えば…
浮かんでは消えていく、ありふれた言葉だけ…
「君があんまり素敵だから…」
やっとそれだけを口に出したが。逆効果だった。
「どっち?その君ってどっちよ?!」
「いや、その… 」
民代ママ、ユウリチーママ、どちらもだなんて。
ただ素直に好きと言えないで・・・
外では 多分もうすぐ雨も止んで いることだろう。
ダメだ。
二人 を前にして たそがれ てる場合じゃない。
どうしてこんな事になってしまったんだろう。
あの晩、あの場所で君に声をかけられたのが最初のきっかけだった。
それからこの店に来て、出会ってしまった。
民代ママとユウリチーママに。
でも 、もし
あの日、あの時、あの場所で君に会えなかったら。
僕らは・・・
いつまでも・・・
見知らぬ二人のママ。
結局それからも僕は何も言えないままだった。
「黙ってるなら出て行きなさい!」
「もう、二度と来るな!」
二人のママに罵声を浴びせられ僕は店を出た。
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彼女たちにとてもつらい思いをさせてしまった。もちろん僕自身も。
一時の感情に流され、こんなことになってしまった事を後悔してやまない。
だけど。
今こうしてあの頃を思い返してみると。
どれだけ時を戻せたとしても。
僕はいつかどこかで彼女たちと出会い
同じ過ちを繰り返すような気がしている。
避けられない運命のように。
そしてまた ラブストーリーは突然に。
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本日の作品はこちらのリクエストにお応えして、とっても恐ろしいシチュエーションでお話を創作してみました!(^^)
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