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空気階段『2本目の衝撃』

昨日家に帰って録画してある『キングオブコント2020』を見た。見るのは2回目だ。通常、漫才やコントを見るのは1回だけで、すぐに録画は削除してしまう。だが、彼らのコントは『もう一度見たい』と思わせるネタだった。

空気階段

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左:鈴木もぐら キモ過ぎるオッサン役
  (ギャンブルによる借金700万)
右:水川かたまり たまに女装もあり
  (ちなみに慶応大学法学部中退)


彼らの名は覚えておいた方がいい。まぎれもない天才だ。

前々から彼らの存在は知ってはいた。だが、この大舞台でここまでの才能を見せつけられるとは…

それほどに、彼らが演った2本目のコントは強烈だった。


舞台は定時制高校。まずこの設定がすばらしかった。鈴木もぐらの”キモ過ぎるオッサン”を生かせるのは定時制でしかないのだが、そもそもこの二人が学園青春モノをやるという発想がすごい。

普通に考えれば無理だ。学園モノにするとしてもせいぜい鈴木もぐらが『キモい先生役』で、水川かたまりが『女生徒』の設定だろう。

だが、それを軽々と超えてきた彼らの想像力。定時制にすることで、もぐらが持つ『キモ過ぎるオッサン』としての才能を存分に生かすことができる。



定時制高校に通うアオイ(水川かたまり)は、後ろの席に座るハルト(鈴木もぐら)に恋をしてしまった。

一人教室で授業を受けるアオイ。そこに遅刻してきたハルトが現れる。

そしてハルトのセリフ。

「×;ojh××i93y85uj:××qm9××ags !!」

叫ぶようにしゃべるハルトだが、何を言ってるか全くわからない。

虚を突かれるとはこのことだ。

ハルト役のもぐらが、おっさんの格好で現れるところまでは想定できた。だが、そのセリフは、地球上に存在するどの言語でもない。全く理解不可能!

やられた。

その姿、その言語のマリアージュ。

いきなりの大爆笑である。

しかし、次の瞬間。そこには驚きが隠されていた。

なんとアオイはハルトの言葉を理解しているのだ。

無題

そこから『授業中の手紙』という手段で、アオイとハルトはやりとりを進めていく。

このコントの最中、二人が目を合わせることはほぼない。手紙を渡すときに、お互いをチラっと見るくらいだ。


まっすぐ前を見ながら、ハルトを想うアオイ。

アオイの背中をせつなく見つめるハルト。

手紙を通して、通わせる心がせつない。

この心の動きは、二人を正面から見合わせていたら演出できなかったかもしれない。


鈴木もぐらが演じるハルトは最後まで日本語を話さない。

それはつまり、このコント全体を通じて『ハルトは理解できるセリフを発しない』ということだ。

革命だ。

どんなコントでも、だいたいはお互いのセリフのやり取りで物語を進ませていく。もちろん、表情だけで見せるコントもあるにはあるのだが。
ハルトの吐くセリフは、全て完膚なきまで意味がわからない。

だが、伝えなければいけない。見ている人に、その言葉の意味を伝えなければならない。

そこでアオイの『受け』だ。アオイの『受け』により、このコントは成立する。

コントの終盤にこんなやりとりがある。

アオイ①「ハルト、好きな人いるの?」

ハルト①「×/@y8ん5/tえ@6!!」

アオイ②「どうせヒトミちゃんでしょ?いっつもヒトミちゃんのこと見てるもんね」

ハルト②「t:61あ@がb0w*1!」

アオイ③「じゃあ、誰?」


アオイの受けで、ハルトの言葉が見えてくる。

2回目に見た時気付いた。

ハルト①は「教えない」と言っている。聞こえてきた。ハルトの言葉が。

ハルト②は2回見てもわからなかった。だが、きっと「ヒトミちゃんじゃないよ」と言っているのだろう。


このコントでわかるのは『言葉なんてどうでもいい』ということだ。

僕はセリフが好きだ。noteを書くにあたっては、セリフのやり取りを多用する。だが、それは楽を選んでいるのかもしれない。

主人公にすべてをしゃべらせてしまえば、他の表現方法をとらないで済む。

僕は言葉ではない他の部分で何かを伝える、ということから逃げているのかもしれない。



さて、このコントの終わりは先ほどのセリフから続く。以降ネタバレになるので注意。


アオイ③「じゃあ、誰?」

アオイの言葉を見て、少し間を置くハルト。決意を決めて手紙を書く。

ハルト③「gq位0くぁいq3ぴjq3ふ!」

ここで一度アオイは手紙から目を離す。

きっと「俺が好きなのは・・・」まで見たアオイ、その次の言葉を見ることができない。

胸が高鳴る。

ドキ、ドキ、ドキ

勇気を振り絞り手紙の次の言葉を見るアオイ。

ハルト④「3んV九@!」

そして…

My Love is Foever あなーたとー出会った頃のように~♪

Every Little Thingの『出会った頃のように』が流れる。



最後には、アオイのセリフも無くなった。


だが、ハルト④のセリフは「アオイ」で、それを見たアオイの気持ちも僕にはわかった。


言葉に頼るな。

言葉なんていらない。




と、こんなに考えなくても十分大爆笑できるただのコントです!

この世界観、ぜひ見てみてください!



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