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ショートショート野郎

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短い短い、ショートショートをお楽しみください。
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#短編小説

【短編小説】白銀の背中を

【短編小説】白銀の背中を

白い轟音の中。皮膚はもはや痛みを感じること無く鋭く突き刺さるような吹雪の振動だけを伝える。まつ毛は凍りつき辛うじて目を開けることができる。僅かな視界の先に薄い人影を捉えながら、見失わないように必死で歩を進める。人影の正体は俺の相棒だ。しかし、アイツは俺を案内している訳ではない。俺はアイツを追い越さなければならない。さもなくば、俺は間違いなく死ぬだろう。三年前に俺が殺したアイツと同じように。

三年

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【ショートショート】狼少年Zero

【ショートショート】狼少年Zero

「狼がでるぞ〜!」少年は必死に声をあげる。
姿すら見えない狼の襲撃を吹聴する少年はいつしか《狼少年》と揶揄されるようになった。そんな彼を村人達は「可哀想に……気を引きたいんだわ」と哀れみ。「嘘つきめ」と嘲笑う。
一月前、村人達は行き倒れていたのを保護して仕事まで与えてやったのだ。彼はその頃から、狼が出ると言っていた。

最近は狼の毛皮が高く売れるので、多くのハンターが森に入り狼を狩る。そう遠くない

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【短編小説】ジュース

【短編小説】ジュース

 ぶぅーん。という冷蔵庫の音が聞こえるほど静かだった。4LDKの部屋の中には俺と友人の2人だけ。いつもは明るく美人の友人の奥さんが手料理を振る舞ってくれるのだが、今日は彼だけだ。
 「聞いてほしいことがあるから」と連絡があり、昼過ぎに彼の家を訪れた時は明かりも点けずに、寝起きのスウェット姿の彼だけが出迎えた。
 さすがにリビングは照明がついているので暗くはなかったが、カーテンは全て神経質なまでに閉

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【短編小説】水泡にキス

【短編小説】水泡にキス

 行方知れずの夫『満男』は数年後に滾々と水が湧き出る泉の水辺で見つかった。
 帰ってきた満男は水しか飲ま無かった。
 満男を連れて散歩に出かけた時には、少し目を離しただけで姿が見えなくなった。また、彼が何処かに行ってしまう。焦りながら探していると、近くの川で子どものように笑いながら、服が濡れることも気にせずバシャバシャと手足をバタつかせている。私は靴を履いたまま川から満男を引き摺りだした。
彼はど

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【ショートショート】機械と砂漠と私と

【ショートショート】機械と砂漠と私と

 ロボットと人間が砂漠を旅をしていた。名前はアマンダとSA-8。二人はロボットと人間が共生しているという街を目指していた。
 高温のためだろうか、SA-8が道半ばで倒れた。これまで一緒に旅をしてきた相棒をアマンダは見捨てられなかった。彼女は相棒を担いで歩いた。街に着けばまだ間に合うかもしれない。僅かな体温を背中に感じながらアマンダは夜通し歩いた。
 そしてついに街に辿り着き、アマンダが倒れ込むと。

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