将来推計患者を分析しよう

日本にはどれだけの入院患者がいるかご存知でしょうか。|将来推計患者数を分析しよう(前編)

はじめに

「病院・介護施設のはじめての外部環境分析」と題して、病院・介護施設の外部環境分析の方法について解説しています。

これから医療介護経営に関わる方、はじめての外部環境分析に挑戦したい方に向けて、出来るだけ分かりやすく解説していきます。

前回は、将来推計人口についてご紹介しました。「将来推計患者数を分析しよう」では、各医療圏内の将来推計患者数をどのように調査し、そこからどのようにして経営のヒントを得るのかを、全3回に分けて解説します。

外部環境分析全体の流れについては、以下の記事でご紹介していますので、気になる方はぜひ、ご参考ください。

将来推計患者数は○○×△△で算出する

将来推計患者数とは、地域の中で、特定の傷病になる人が何人いるかを予測した数値です。
自法人の医療圏内の推計患者数を調査することで、自法人の市場シェア率や、潜在的な伸び代を把握することができます。

将来推計患者数は、「受療率」×「将来推計人口」で計算します。

受療率×将来推計人口

将来推計患者数

それぞれ説明していきます。

日本にはどれだけの入院患者がいるかご存知でしょうか。

受療率とは、人口に対して特定の傷病になる人がどれだけいるかを表した数値です。受療率は、厚生労働省が3年に1回実施している患者調査にて、確認することができます。本記事の作成時点においては2017年が最新版のデータで、次回の調査は2020年になります。

ちなみに、日本にはどれだけの入院患者がいるかご存知でしょうか。

答えは、131万人です。(2017年患者調査の結果)

このデータは、入院したことがある人ではなく、調査日時点で何人が入院しているかを示したものになります。

人口が約1億2千万人ですので、今この瞬間に、約100人に1人が入院していると言えばイメージがしやすいでしょうか。

では、どのような傷病で入院している人が多いのでしょうか。傷病別の入院患者数に見てみると、以下の通りです。(クリックでBIツールに遷移します。)

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最も入院患者数が多いのは「精神及び行動の障害」に区分される傷病で、約25万人が入院しています。精神疾患の方はについては、治療や退院を前提とせず長期的に入院させられてしまう社会的入院が多いことも問題視されており、入院患者数が多い原因になっています。

また、年齢別にみてみると少し違った見方をすることができます。75歳以上に絞ってみてみた結果が以下のグラフです。

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75歳以上の入院患者数を見てみると、「循環器系の疾患」で入院している方が15万人で最多となっています。循環器系の疾患とは、脳梗塞、脳内出血、心不全、くも膜下出血、狭心症等が該当します。いずれも命に関わる傷病であり、75歳以上での入院の深刻さが伺えます。

このように、各傷病別の受療率は年齢によっても大きく異なります。そのため、推計患者数を算出するにあたっては、年齢別の受療率に対して、年齢別の人口を掛け合わせることがポイントとなります。

将来推計人口は、「国立社会保障・人口問題研究所」で調べることができます。

将来推計人口とは、日本の人口が年代別にどのように変化していくのかを推計したデータです。国勢調査をもとにして、全国の将来の出生、死亡、国内人口移動、国際人口移動について仮定を設け、 これらに基づいて日本の将来の人口規模の推移について推計を行ったものです 。対象は外国人を含めた日本に在住する総人口になります。国立社会保障・人口問題研究所にて公表されています。

将来推計人口について、詳しくは以下の記事にまとめていますので、詳しく知りたい方はご参考ください。

あなたの街の入院患者数を調べてみよう!

それではいよいよ将来推計患者数を見てみましょう。

ここまでの説明の通り、「年代別入院受療率」×「将来推計人口」で算出した傷病別の将来推計入院患者数のグラフが以下になります。(クリックでBIツールが開きます。データが重たいため少し表示に時間がかかります。)

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将来推計入院患者数を見てみると、2025年頃まではいずれの傷病も上昇傾向にあることが分かります。日本は総人口は減少していきますが、高齢者数が増加していきます。受療率が一定だと仮定すると、高齢者数の増加にともなって、入院患者数も増加していくことが見込まれます。

傷病別に見てみると、「循環器系の疾患」が大きく伸びていく一方で、「精神及び行動の障害」は伸び率が低く、2025年以降は右肩下がりで減少していくことがわかります。2025年には「循環器系の疾患」の入院患者数が、「精神及び行動の障害」を上回りトップになります。このような推移を示すのは、「循環器系の疾患」は主に75歳以上の入院患者が多く、「精神及び行動の障害」は比較的若い年代の入院患者もいる為です。将来の年齢層の変化によって、傷病別に患者数の増減の傾向は変わります。

だからこそ、各医療機関は、「高齢者数は増えるから、しばらくは安泰」と思うのではなく、対応している診療科において、将来どの程度の患者数が見込まれるのか、しっかりと把握しておくことが重要です。もしかすると、あなたの医療機関の将来推計患者数は減少していくかもしれません。

BIツールでは、市区町村別に将来推計入院患者数を調べることができます。あなたの街ではどの程度、入院患者がいるのか、調べてみてはいかがでしょうか。

まとめ

今回は、「日本にはどれだけの入院患者がいるかご存知でしょうか。|将来推計患者数を分析しよう(前編)」と題して、将来推計患者数について解説しました。大事な部分をまとめると以下の通りです。

1、将来推計患者数は、「受療率」×「将来推計人口」で計算します。

2、各傷病別の受療率は年齢によっても大きく異なるため、推計患者数を算出するにあたっては、年齢別の受療率に対して、年齢別の人口を掛け合わせることがポイントとなります。

3、将来推計人口は、国立社会保障・人口問題研究所にて公表されています。

4、日本の総人口は減りますが、高齢者の増加に伴って、入院患者数は増加していく見込みです。ただし、傷病別に患者数の増減の傾向は変わります。対応している診療科において、将来どの程度の患者数が見込まれるのか、しっかりと把握しておくことが重要です。

今回は、入院患者数をメインで取り上げましたが、入院と同じく、外来の患者数を知ることも重要です。入院の患者数の傾向と外来の患者数の傾向は異なります。次回は、「将来推計患者数を分析しよう(中編)」として、外来の将来推計患者数にスポットを当てて解説します。

こちらのnoteも含めて、「はじめての外部環境分析」シリーズは、以下のマガジンにまとめています。今回の内容を気に入ってくださった方は、ぜひ、フォローの上、次回の更新をお楽しみください。

お読みいただき、ありがとうございました!

次回もよろしくお願いします!

今回利用したデータ

厚生労働省 平成29年患者調査 10-1 推計入院患者数,性・年齢階級 × 傷病小分類別

国立社会保障・人口問題研究所 日本の地域別将来推計人口(都道府県・市区町村) 男女・年齢(5歳)階級別の推計結果一覧




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