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【連載小説】#6「クロス×クロス ―cross × clothes―」 露見

前回のお話(#5)はこちら

前回のお話・・・
ミーナと服を交換した塁はそれを着て女装をし、都内までアルバイトに出かける。その帰り、偶然にも友人の飯村廉と再会する。しかし話をするうち、廉は同級生から金の無心をされていると聞かされる。その女装を見たら逃げ出すかもしれない、一肌脱いでくれないか? と打診され、塁は困惑する。

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ミーナ

かおりさんに車で送ってもらったのはよかったけど、塁の隣に座ったのはサイアクだった。私の服を着ていてるから女の風貌なのに、行動は完全に塁なんだもの。

だいたい、別れた女の太ももに手を出すやつがいる? 信じられない……。強烈なパンチを食らわしてやったら、前に座る大人の二人に大笑いされた。もう、恥ずかしくて仕方がなくて、場所が車でなかったら走り去っていたところだ。

これだから塁はキライ。女装したって、女の気持ち、これっぽっちも分からないんだから!

そんな塁が友人に、女装でいじめっ子グループをやっつけにきて欲しいと頼まれたことを教えてくれた。女のふりをして油断させる作戦らしい。それを聞いて、絶対うまくいくはずないとその場では笑い飛ばしたんだけど、内心では、しっかり任務を果たしてきなさいと成功を祈っていたりする。

というのも、その友人の妹って言うのが例の、私に告白してきた里桜らしいのだ。どうやら、妹がレズだと知られ、それを材料にいじめられているみたい。

私自身、過去に同性愛者であるというだけで初対面の人を傷つけてしまった経緯があるけれど、どうして人は自分と違う世界で生きている人を爪弾きにしたがるのだろう。

純さんやミカさんは、話せば話すほど真面目で深く物事を考えていると感じる。今では、彼らの声がもっとたくさんの人に届けばいいのにとさえ思う。どうして世の中って、こんなにうまくいかないのかな……。ほんのちょっと前なら真反対のことを考えていたのに。我ながら変わったものである。

そう思う一方で、きっかけさえあれば人はいつでも変われるのだとも思う。それもこれも、認めたくはないけれど塁のお陰である。モデルとして写真に収まるのも楽しくなってきたし、きっかけをくれた塁には今度、何かしらお礼をしておこう。

そんなことを考えながら、自転車で秋風を切って学校から帰宅する。九月も後半に入ると夕方は涼しく、半袖では少々寒く感じるほどだ。気づけばもうすぐ衣替えのシーズン。帰ったら気分転換もかねて、手持ちの服や制服を入れ替えてしまおう。

新しい服も買おうかな、などとわくわくした気持ちのまま玄関ドアを開ける。ところが、ドアのすぐ向こうで義母が待ち構えていた。思わず一歩退くと、義母は距離を詰めんばかりに迫ってきた。

「ミーナちゃん、ちょっと話があるんだけど、いい?」

「……なに? 話すことなんてないわ」
 後ろ手にドアを閉め、義母の脇をすり抜けようとした。

「これを見ても?」
 義母が見せてきたのは塁の服だった。慌てて服を奪い取る。

「私の部屋に入ったの? 勝手に入らないでっていつも言ってるじゃない!」

「ミーナちゃんったら、相談もせずに髪を切ってしまうし、近頃は帰る時間も遅いじゃない? だから、ユウマとトウマに聞いたのよ。何か変わったことはないかって。ゲームのプレイ時間を延ばしてあげると言ったらこれを持ってきてくれたわ」

ユウマとトウマは双子の弟の名前だ。まだ小さいからと、部屋を自由に出入りさせていたことを後悔する。

「……なんて卑怯な」
 睨み付けても、義母は淡々とした口調で私を追い詰める。

「それで、恋人の服をこんなにたくさん持ち込んで、いったいどうするつもり?」

「ゆり子さんには関係ないことよ」

「関係あるわよ。家族ですもの」

「気安く家族だなんて言わないで! あなたのその言葉が、どれだけ私を縛り付けてきたと思っているの?!」

「縛る? いったい何の話?」
 とぼけているのか、本当に気づいていないのか。義母は小首をかしげた。その態度が余計に私を怒らせる。

「分からないなら教えてあげるわ。あなたの価値観を押しつけられたせいで、所得の多少や人種、性が違うというだけで、私は何人もの人を見下し、差別し、傷つけてきた。みんな同じ人間なのに、その人の中身も見ずに外側だけで判断することがいかに無意味なことかも知らずに。私はそれが間違っていたことを知って反省し、新しい自分になったことを示すために髪を切った。そして、男の格好をすると決めたの。この服もそのためのものよ」

「……わたしがいつ、そんな差別を?」

「言葉の端々に表れているわ。さっきだってそうよ。私をいつまでも子ども扱いするような発言にはうんざり。髪の毛を切る前に相談してくれなかった? 冗談じゃない!」

「…………」

「もし、女らしい娘が欲しかったのなら、おあいにく様。私のことはもう、男と思って接することね。……そうそう、私が持っていたスカートやフリフリの夏服は全部、人にあげちゃったから」

「まさか……。もしかしてミーナちゃん、別の性に目覚めたんじゃ……?」

明らかに動揺しているのが分かった。面白いからもう少しからかってやろうと、事実を誇張して言う。

「そうね。最近、女の子の方が好きよ。今ではこの服をくれた男の子と一緒にカワイイ女の子を探して街を歩いてるんだから」

「そ、そんな……」
 貧血でも起こしたのか、義母はその場にくずおれた。私は追い打ちをかけるように言う。

「なんなら、今すぐにでも私に夢中の女の子を呼び出してあげようか?」

「や、やめて。もうたくさんよ!」

義母は這いつくばって、逃げるように私の前から姿を消した。しばらくして、閉じこもった寝室からすすり泣く声が聞こえた。そんなにショックだったんだろうか。でも私は、長年言えなかったことを言い切ったのでむしろすっきりしている。

そんなタイミングで、奇しくも里桜からメールが届いた。

――あたしの部活が終わってから会えませんか? 場所はお任せします。

☆☆☆

家とは反対方向なのに、里桜はわざわざ下り電車に乗って、私の待つK駅までやってきた。私を見つけるなり、里桜は満面の笑みを浮かべ、飛びつかんばかりに走り寄ってきた。

駅ナカに入っているカフェでなんとか二席確保した私たちは、それぞれに冷たい飲み物を注文した。

「キモいって言われてもなお、会いたいって言って押しかけてくる里桜のしぶとさには恐れ入ったわ」
 落ち着いたところで正直な感想を告げる。里桜は恥ずかしそうに笑った。

「……どうしても聞きたいことがあったので。というのもあたし、見つけちゃったんですよ! これ、ミーナ先輩ですよね!」

里桜はいきなり本題に入った。スマホを取り出したかと思うと、とあるブログサイトにパッとアクセスする。

それは確かに、純さんのブログサイトに掲載された私の写真だった。それなりに人気のあるサイトだとは聞いていたが、まさか後輩の目に留まるほどとは。今度は私が恥じらう。

「ちょっと知り合いに頼まれてモデルを……」
 私は小声で打ち明けた。里桜は目を輝かせる。

「もしかして、ジュンジュンの知り合い?! ミーナ先輩、格好いいだけじゃなくて、顔も広いんですねー!」

「たまたま、ね……。でも、なんだってジュンジュンのブログを読んでるのよ?」

純さんのブログは、同性愛者はじめ、性の悩みを抱えた人が訪れる場所だと聞いている。

「実はあたし、ジュンジュンに相談したんですよ。同性に告白したいんだけど、どう思いますかって。そしたら、素直に君の気持ちを伝えたほうがいいよって」

「…………! それであの告白だったわけ?」

「結果は、思ったとおりダメでしたけどね、えへへ……」
 里桜は頭をかきながら舌を出した。

「でも、こうして会ってくれるミーナ先輩の優しさには感激してます。正直な話、本当に会ってくれるとは思っていませんでしたから」

もし、直前に義母と口論していなかったら、里桜の予想通り会っていなかっただろう。でも、あんなふうに言い放ったあとでは、里桜に対する偏見はおろか、家から誘い出してくれたことに感謝すらしているほどだ。

「話は戻りますけど……。ジュンジュンが同性愛者で、そういう人たち向けの服を作ろうとしていることは知ってるってことですよね? 知っててモデルを引き受けてるんですよね?」

 里桜の問いに、私は「ええ、そうよ」とだけ言った。彼女は目を輝かせる。

「この、中性的な衣装がミーナ先輩にぴったりすぎて、見てるだけでため息が出ちゃうんですよねえ。はあ……」

里桜はスマホ上に私の写真を表示させ、それを見ながら本当にうっとりとため息をついた。

「先輩は何を着てもさまになりますね。男物の服でも絶対似合うと思います!」

「あー……」
 すでに塁と服を交換し、日々、男子の服を着て楽しんでいる身としては、なんとも返事がしづらかった。

「……そういえば、あんたのこと、同性愛者だと知ってる人はどのくらいいるの?」

 私は自分に向けられていた話題を里桜に向けた。

「どうやら情報が漏れ出てるみたいなんだけど」
 後半の部分を小声で言うと、里桜も周囲を見回して声を抑える。

「……家族には伝えました。部活の先輩が好きで告白もしたって。でも、それ以外の人には言ってません。知ってるとすれば、部活の人くらいかな……。あのときはみんな近くにいたから」

「そう……」

「何か、あったんですか?」

「知らないの? 私も人から聞いた話ではあるんだけど……」
 私は塁から聞いた話をかいつまんで説明した。里桜は真っ青になった。

「あたしのせいでお兄ちゃんが揺すられてるなんて……。でも、いったい誰があたしのことをリークしたんだろ……? まさか、部活の誰か……? ううん、そんなの信じられない」

里桜が困惑するのも当然だ。先日、私が顔を出して里桜を信頼するよう言ったばかりだし、それと知られるまでは本当に部員全員が仲良しだったのだ。

「大丈夫。とりあえず、私の知り合いがあんたのお兄さんを助けてくれるはずだから」

「はい。その言葉を信じます」

私に全幅の信頼を寄せている里桜はそう言ったが、果たして塁は引き受けるつもりなんだろうか。少し、心配だ……。


(続きはこちら(#7)から読めます)


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