【短編小説】番外編「あっとほーむ~幸せに続く道~」~とある夫婦のこれから~
※こちらは、第三部「あっとほーむ~幸せに続く道~」第十話の続きに当たる番外編です。第十話エピソード②を読んだ後の方がすんなり繋がりますが、単独でも読めるよう、可能な限り補足してあります🥰
<本編>
僕は妻との今後について考えている。一人で考えてもいい答えが出ないのは分かってる。それでもこうして思考を巡らせてしまう僕がいる。
仕方がない。先日、友人の悠を含めた三人で飲んでいたとき、彼女らの本心を聞き出してしまったのだから。
結婚してから二十数年間、僕はずっと彼女を愛してきたつもりだし、彼女もまた僕を愛してくれているものと信じてきた。しかし、どれほど強く信じても彼女の心は時々、僕の手の届かないところに行ってしまう。悠といるときの彼女ははつらつとして見え、実際二人は友人以上に想い合っている。
こうして憤慨しているあたり、僕はエリーを独占したいのだろうと思う。頭では束縛することなど出来ないと分かっていても、あの晩の会話を思い出すたびに冷静さは失われる。
僕だけを愛して欲しい。だけど、エリーの気持ちも尊重すべき――。
結局、本心と理性とに挟まれた僕は、自宅のソファで身動きがとれなくなっている。
「あーっ! また一人で考え込んでる!」
そこへ、僕を悩ませている張本人がやってきた。彼女は僕の座るソファの隣に腰掛けた。
ここで悠のように、さっと彼女の肩を抱くことが出来たならどんなに自分の心を慰められるだろう。だけど僕はどうしても一歩、踏みとどまってしまう。まるで身体が、本能的に動く悠とは違うのだ、と主張するかのように。
「何を考えていたの? こわーい顔して」
「君のこと」
「じゃあ、アキは怒ってるんだ。私のこと」
「そうかもしれない。……いや、正確には僕自身に対してだろうな。……気持ちと行動を一致させられない自分に心底嫌気が差してる」
「悠みたいに、湧き上がる気持ちのまま行動すればいいじゃない? 私が相手なら尚更、素直になればいいよ」
「……そうできないから困ってる」
「アキらしいね」
エリーは笑った。
「……ねぇ? あのチケット、私たちで使おうよ」
「チケット……?」
「同期会のビンゴ大会の景品よ」
「だけどあれは……」
ぼんやりとではあるが、次に娘夫婦に会ったときにあげようと考えていたところだった。僕がいい返事をしなかったからか、エリーは眉をつり上げた。
「テーマパークなんて、五十歳を過ぎた男女の行くところじゃないって思ってるのね? その顔を見れば分かるよ」
「…………」
「いい機会だと思うんだけどなぁ。たまには忙しい日常を忘れて、二人で一日デートしようよ」
「だけど僕は確かに聞いた。君の口から、僕のことをかつてのように愛してはいないと。……ずっとその言葉が引っかかっているんだよ。だからデートがしたいと言われても全然嬉しくないし、今更何を言ってるんだ? とさえ感じてる……」
「アキは誤解してる。……確かに私のアキへの想いは以前のものではないわ。でも、それは決してアキを嫌いになったという意味じゃないのよ」
「じゃあ、なんだって言うのさ……?」
「もうっ……! 頭でっかちなんだから!」
エリーはそう言うと、強引に僕の顔を自分に向け、正面から目をのぞき込んだ。睨んだ、といった方が正しいかもしれないが、とにかく僕らは見つめ合った。
彼女はじっとしたまま動かなかった。まるで僕が動き出すのを待っているかのように。だけど僕はわき上がる様々な感情をコントロールするのに忙しく、行動を起こすことができずにいた。
「……アキはいつからそんなに消極的になっちゃったの? 私を好きになったときはあんなにも男らしく悠に立ち向かっていったのに……」
沈黙に耐えかねたらしいエリーが口を開き、僕の胸に顔を埋めた。そこでようやく彼女の小さな身体を抱きしめる。
「……あのときは抑えようのない力に突き動かされただけだよ。恋の力、とでも言うべきだろうか。とにかく君と付き合いたい一心だった……。だけど今はどうしても感情より理性が勝ってしまう。現に今、君に長い間見つめられていたというのに、唇を重ねることも出来なかった。君が求めているであろうことは分かっていたのに」
「分かっていてしなかったの? アキは意地悪ね」
「ごめん……」
もう一度顔を見合わせ、今度こそキスをする。しかしエリーは不満を漏らす。
「もう……。どうしてキスする前に謝るの? アキの悪い癖だよ?」
「ごめん……」
「ほら、また言った」
「ごめ……」
三度目を言いかけたとき、エリーに唇を塞がれた。
「私が愛しているのは目の前にいるアキ、ただ一人よ。だけどさっきも言ったように十八歳の『愛してる』と今の『愛してる』は全くの別物。……まぁ、そう言ったって納得できないアキのために、アキにも分かるような表現をなんとか探している訳なんだけど」
「うん……」
「……昔から不器用だよね。あるときは突然抱きしめたりキスしたりするくせに、別の日には一人で耐え忍んでは『何でもない』って心を閉ざしちゃうんだもの」
「……まぁ、不器用な一面を見せるのはエリーを含めた家族の前だけだよ。いつでも完璧じゃ、疲れちゃうからね」
「なら、もっと甘えてよ。子どもみたいな一面を見せてよ。この頃のアキといると……変に気を遣うから疲れる。だから悠といたいのよ。分かる?」
そんなつもりは全くなかっただけに愕然とする。
「……甘え方、忘れちゃったよ」
「なら、娘婿に教えてもらいなさい。彼は娘に甘えるのがすごく得意だから」
「翼くんか……。確かに彼になら気負わずに相談できる。だけど僕が急にそんなことを言いだしたら、頭がおかしくなったと思われるだろうね」
「ありのままに言えばいいじゃない。悠が私とイチャイチャするのが癪だから対抗策を教えてって」
「……それ、メチャクチャ恥ずかしすぎる。それじゃあまるで僕が君に恋して……」
そこまで言ってハッとした。
「そうか、もう一度恋すればいいのか……。もしかして僕をデートに誘ったのって……」
「やっと気づいたの……? もう、相変わらず鈍いんだから」
エリーは呆れたようにため息をついた。
「プロポーズしてくれたときに言ったはずよ? 私は永遠にアキのものだって。それは今も変わっていないわ……。そりゃあ、あれから二十年以上も経ってしまったから、見た目はお互いに老けちゃったけど、心は、魂は少しも老いてはいないと思ってる。むしろ年を重ねた分成熟し、あの頃よりもずっと深い愛情を持って接することが出来るとさえ思っているわ。
……これは、愛することの意味を充分に理解しているアキだから言うのよ。私たちは夫と妻から再び男と女になる。そして次は情熱的に愛し合うのではなく、互いを思いやりながら心と心で愛し合うの。……私たちならきっと出来るわ。たとえ、そばに悠がいても」
差し込まれたその名に嫌悪感を抱く。
「悠がいても……? 本当に?」
「だって、私とアキとは三十年以上の付き合いの中で数え切れないほど喧嘩してきたのよ? それをしていない悠との差は歴然としているわ」
「…………」
「悠とは家族としてこれからの人生をともに歩むつもりよ。そうだなぁ……。別の言い方をするなら、独身の大きな息子と生きていくようなもの、かな?」
「ああ……。その表現はしっくりくる。なるほど、独身の大きな息子、か。そう思ったら何だか僕も同じ道を歩いて行けそうな気がするよ」
「本当? うまく表現できてよかった」
エリーはほっとしたように笑った。つられて僕も微笑む。
「こんな僕を愛してくれてありがとう。ごめんね、何度も疑ったりして」
「慣れてるから大丈夫。こっちこそ、悠が好きって言っては不安にさせちゃってごめんね。もう、よそ見しない。アキだけを見るから……」
許して……。再び僕を見つめた顔が近づく。自然と唇が重なり、愛を確かめ合う。
「愛してる。これからもずっと愛し続ける……」
「私もアキが大好き。この先も喧嘩しながら生きていこうね」
不思議なことにそうしている間、僕はエリーの体内に入ってしまったかのような錯覚に陥った。全身が温かくなり、大きな安心感に包まれる。彼女の心の温もりと優しさに触れたとき、本当の意味で一つになれたような気がした。
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第十話の続きは、後日公開予定です💖
「あっとほーむ~幸せに続く道~」を初めて読んで、面白そう!
と思って下さった方は、第一部から一気読みできます!
※大長編ですが、細かく目次を設定してあります。
AIイラストの挿絵付き💖
↓「あっとほーむ~幸せに続く道~」第一部・第二部はこちら↓
✅新しい家族の形を模索しながら、恋愛~結婚へ向かうお話。
↓第三部・第一話はこちらから↓(ここからでも充分楽しめます)
✅老若男女・血縁ありなしの家族が織りなすアットホームなお話。
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