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バッタを倒しにアフリカへ 著:前野ウルド浩太郎

 本当はトップ画像にバッタを使いたかったのですが、なんの予告もなしにバッタのアップはキツイよな、と冷静になりやめました(笑)
 あと、緑の葉っぱの上のバッタじゃなくて、砂漠に飛ぶバッタの画像がよかったんですが、さすがにそんな画像はみんなのフォトギャラリーにはありませんでした。画像の車も男性も、今回の本とは関係ない方ですが、イメージはすごく近い。

 こちらの本は、サバクトビバッタという種類のバッタを研究している、日本の昆虫学者、前野ウルド浩太郎博士による著書です。なんのきっかけで知ったのか、つい最近の出来事なのにまったく覚えていませんが、猛烈に興味を惹かれてすぐに読みました!

 ノンフィクション小説であり、冒険小説であり、青春小説であるこちら、バッタに微塵も興味がなくても絶対におもしろいです!絶対、ぜったい!!そして、読んだあとには必ずアフリカを好きになります。

 まず、前野博士の筆力が、すごい。

 口語で軽快に進む文章、こちらもうっかりそのまま、軽く読み進めてしまいますが、本当に文章力が高いんです。読者の心を一瞬でつかんでグイグイ引っ張ります。ワイルドに鷲掴みにされて、舞台となるモーリタニアに一気に放り出されるのです。もう、掴んで離さないどころじゃない!

 文章からは、そんなワイルドさと、当時30代前半のポスドクであった若々しさとともに、丁寧さも感じられます。博士がモーリタニアに滞在し研究していた数年間を、時系列を追いながら細部まで書かれた本書。日常の細かなことまで、すべて日記をつけていたのかしら...と思うほどよく書かれています。行ったことのないモーリタニアがまるで隣の県のように感じられるほど、頭に情景がくっきりと浮かぶような表現力の豊かさなのです。

 雑誌「プレジデント」での連載担当時に磨かれたという、その文章力は本当にみごとです。

 先に少しふれましたが、こちらは遠くはなれたアフリカの地、「モーリタニア」での前野博士の奮闘がテーマとなっています。モーリタニア、私は今回はじめて知りました。実は日本はタコの輸入で大変お世話になっているそうで、食卓に並ぶタコの何割かはこのモーリタニア産なんだとか。

 アフリカというと、私の中では内戦や紛争が絶えない危険な地、というイメージが強かったのですが、この本で、少なくともモーリタニアのイメージがガラリと変わりました。

モーリタニアは第二の故郷!(行ったことないけど)

 この本を語る上で、絶対に外せない登場人物が2人います。それが、博士の相棒となるティジャニと、研究所のババ所長です。この2人なくして博士を語ることができない!どちらも現地、モーリタニアの人ですが、どちらも最高にいい人です。

 ババ所長は博士にとって、モーリタニアの父のような存在となる人ですが、本当に懐が広く優しい人です。経験も知識も豊富で、研究所のみんなにとってもお父さんのような存在の人です(多分)。国をバッタの被害から救うため、長い長い間本当に尽力されてきたようです。アフリカという地で、様々な常識が違う中、ババ所長は博士に重要な教えを次々に授けます。ババ所長なくして、博士はアフリカで生きていけなかったでしょう。

 そして、ティジャニ!彼は博士のドライバーとしてコンビを組むことになるのですが、長く過ごすにつれ、公私ともに相棒となっていきます。驚くのは、2人の間でははっきりと言葉が通じているわけではないということ!

 モーリタニアはフランス語がメインですが、博士は英語は喋れてもフランス語はできません。対するティジャニは英語がわからず。そんな2人が、最初はジェスチャーで、そしてだんだんと英語フランス語のちゃんぽんで、2人にしかわからない言葉でコミュニケーションが取れるようになっていくのです。

 言葉の壁を本当にこえて、砂漠の真ん中で相棒として成長していく2人に笑いがあふれます。どれほど2人に笑わされることか!音速の貴公子、ティジャニの活躍に乞うご期待!!

 さいごに、昆虫学者になって食べていく、という夢に向かってひた走る前野博士の、そのすさまじいエネルギーに心打たれます。

 夢を叶えるのは難しい。

 夢の大きさや種類によっても、その難易度は変わってきます。前野博士の昆虫学者として生活をたてるという夢は、少なくとも今の日本ではかなり狭き門です。しかし、数々の分岐点に立ったときに、一度も「あきらめて他の人生をさがす」という道を選ばなかった。そして進んだ先で、血のにじむような努力をされています。

 困難に直面したとき、あきらめずに前向きな行動を取ること。これがどんなに難しいか。不運に連続して見舞われても、一度も腐らずに、くじけずに研究を続けられた前野博士に感謝いたします。

 ノーベル賞シーズンになると、日本の若い研究者に対する風当たりの強さや、研究で食べていくことの難しさ、研究者への支援の手薄さが話題になりますが、本書ではその実態がひしひしと伝わる作品にもなっています。この先の日本の研究が、もっともっと自由でのびのびとしたものになっていきますように。

 本書を読んだら、必ず前野博士のファンになること間違いなし!

 私は、読了後すぐにブログをチェックし、twitter公式アカウントを探してフォローまでしました。みなさんも、ぜひ!

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