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大阪彩ふ文芸部

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書くのは、楽しい。 あなたも何か書いてみませんか? 2024年1月より、彩ふ読書会は文芸部活動を行います。 大阪会場の読書会に過去一回以上参加経験のある方でしたらどなたでも…
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#ミステリー小説部門

大阪彩ふ文芸部 部員募集のお知らせ

大阪彩ふ文芸部 部員募集のお知らせ

書くのは、楽しい。

あなたも何か書いてみませんか?

2024年1月より、彩ふ読書会は文芸部活動を行います。入部条件は「大阪会場の読書会に過去一回以上参加経験のある方」です。入部・退部は自由です。

入部お待ちしております!

目次

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彩ふ文芸部の活動は

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聖徳をまとう_八/縁は導く(1)

聖徳をまとう_八/縁は導く(1)

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  ◇

「なんであんなこと言うたんや?」

 見送りに出てくれていた平塚母娘が古書店内に引っ込むのを見届けるや、早々に雄平は口を開いた。

「あんなことって?」と、私。

「わかってるくせに」

 雄平は大袈裟に鼻を鳴らす。

 ――私のまわりにオーラは見えますか?

「正直、一瞬、変な空気になってたで」

 雄平の忌憚の無い物言いに思わず私は苦笑を漏らした。

「悪かったよ。

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聖徳をまとう_七/愛は多面的に

聖徳をまとう_七/愛は多面的に

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  ◇

 平塚もえぎは滔々と語り始めた――。

  ◇

 ありきたりなことを言うよ。だから、ふたりも気楽に聞いて。

 人には必ず裏に潜めた顔があるの。二面性あるいは多面性と言ってもいい。あなた達にも、私にも、それはある。普通は見えないよね。人の裏の顔なんて。だって潜在意識が躍起になって隠しているもの。誰にも見えないように。バレないように。でも、赤ん坊や幼児と呼ばれる小さい仔

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聖徳をまとう_六/笛と電話

聖徳をまとう_六/笛と電話

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 ◇

「三十一のリコーダーアンサンブルや!」

 担任の島脇先生が黒板の前で気炎を上げている。

「三十、いや、三十一人、みんなで心をあわせて吹くことできっと気持ちは六年生に伝わる。夏休みもあるし、秋まであまり時間は無いからな」

 卒業を控えた六年生との交流行事の一環で私たち五年生はソプラノリコーダーの合奏を贈ることになっていた。楽曲は「ラヴァーズ・コンチェルト」。ザ・トイズ

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聖徳をまとう_五/女王の墓

聖徳をまとう_五/女王の墓

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  ◇

「六角堂?」

 肇が唐突に私に問いかけてきたのは石段を降り始めて奇しくも六段目に足を掛けた瞬間だった。

「はい、六角堂です。秀太さんは知りませんか?」

「聞いたことはないな」

「京都の六角堂です」

 平坦な声でそう繰り返す肇を見返しながら、私の脳内ではその名のとおり六角柱の時代がかった御堂の姿が像を結んでいた。

「寡聞にして僕はそれを知らないけど、どうして今

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聖徳をまとう_四/いもこさん(2)

聖徳をまとう_四/いもこさん(2)

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  ◇

 小野妹子は聖徳太子と同じ飛鳥時代を生きた官人である。推古天皇の時代、大使に選ばれ、当時、中国大陸にあった大国「隋」に派遣された人物として後世に知られる。また、妹子は華道家元である池坊の元祖としても仰がれている。妹子が聖徳太子の守り本尊の如意輪観音の守護を託され、坊を建て、朝夕に仏前に花を供えたのが流派の起こりになったとされている。

 その小野妹子の墓と古くから伝わる

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聖徳をまとう_四/いもこさん(1)

聖徳をまとう_四/いもこさん(1)

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  ◇

 音の無い漆黒の世界。海の底で深海魚を見上げる夢を見た。身をくねらせて泳ぐうつぼのような生物の腹をじっと見ている。私の目には僅かな光源を増幅させる反射板が入っているのだろう。

 文字どおり、三日三晩はアパートで何もせず横になって過ごした。たまの水分補給を除けば、ろくに食さず、一言も発さず、入眠と覚醒をただ繰り返すだけ。日ごと、すえた匂いが部屋中に充満していく。

 人

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聖徳をまとう_三/地を這う(2)

聖徳をまとう_三/地を這う(2)

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  ◇

 交わした約束はまもなく果たされた。

 カウンセリングの二日後、私は再び空に近い場所にいる。八城に示された会食の席はあべのハルカス上層階に位置するシティホテル内のレストランだった。

 地を這う気分の人間には不釣り合いな場所である。

 まったく場違いな――

 ウェイターに導かれ席に案内されるまでのあいだ、独りごちた。

 夜景の見える窓際のテーブルには三人の先客―

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聖徳をまとう_三/地を這う(1)

聖徳をまとう_三/地を這う(1)

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  ◇

 四肢の関節の痛みに耐えかねて目が覚めた。頭上から差し込む薄明かりが二日酔いの脳髄を刺激する。仰向けのまま、あたりに視線を巡らせた。ハスラーの車内だ。エンジンはかかっていない。私は後部座席のシートに手足を曲げた窮屈な姿勢で横になっていた。

 頭を起こして窓外をうかがうと、ジビエ料理店の外観が見えた。瓦屋根の上には白々とした朝ぼらけの空。どうやら昨夕に停めたコインパーキ

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聖徳をまとう_二/故郷にて(4)

聖徳をまとう_二/故郷にて(4)

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  ◇

 太子町に飲食店は少ない。叡福寺で私をピックアップした横谷姉弟はそのまま車を隣町の羽曳野市まで走らせた。車中、香苗は運転席に座る弟を紹介してくれた。

「どうも。肇です。いつも姉がお世話になっています。秀太さんとは、昔、地元のお祭りで会ったことがあるんですよ」

 ルームミラー越しに折り目正しく目礼する肇に、後部座席に座る私は会釈で応じた。秀眉の下で姉によく似た細い目が

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聖徳をまとう_二/故郷にて(3)

聖徳をまとう_二/故郷にて(3)

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  ◇

 叡福寺は、推古天皇の時代、聖徳太子の母である間人大后の御廟に太子とその妻の大郎女が合葬された際、僧坊を置いたのが始まりとされる。

 御廟は丘陵を利用した円墳で、石室には中央正面に間人大后の石棺、東側に太子、西側に大郎女の棺が並ぶ。その三骨一廟は、阿弥陀三尊の思想が込められたものだとも現代に伝えられている。

 蜻蛉返り――というのだろう。昼に発ったはずの故郷に、夕刻

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聖徳をまとう_二/故郷にて(2)

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  ◇

 矢も楯もたまらず、惹かれるように向かった先は八城邸だった。インターフォンの付いた豪奢な門柱を目の端に捉え、それから、邸を囲う白いモルタル壁に私は背をもたせかけた。

 首をひねり斜め後方を見上げると、キューブ型デザイナーズハウスの屋上テラスが蒼天を四角く切り取っていた。白亜の豪邸だ。天頂から降り注ぐ陽光は強く、佇立する私の脳天をジリジリと焼いている。

 河下美月は「

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聖徳をまとう_二/故郷にて(1)

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  ◇

 好奇心は猫をも殺すというが、まずもって、好奇心は時に人を動かす原動力となる。抗えないほどの好奇心が自分のなかに生じた。幸いなことに、時間はいくらでもある。田辺雄平と会った翌日、私の足は地元――大阪府南河内郡にある太子町に向かった。

 河下美月の自損事故の現場は、バス停から目と鼻の先だった。車を持たない私にはありがたい。そこは、太子町郊外の、とある私立学園前の交差点だ

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聖徳をまとう_一/ストーカー(3)

聖徳をまとう_一/ストーカー(3)

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  ◇

 地元で顔の広い、旧友と呼べる存在は田辺雄平だけだった。帰郷しても連絡を寄越していなかった不義理を詫びつつ、さっそく旧交を温める場を持つことを提案すると、「サシでやろう」と彼らしい言葉が返ってきた。

 翌日、淀屋橋の商社勤めだという雄平の仕事上がりの時間に合わせて、天王寺で待ち合わせた。

「おーう! よう連絡くれたなぁー」

 現れるなりそう言いながら雄平は赤銅色に

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