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#280 虐待は私たちのすぐ近くにある

 いかなる人も、その年齢に関わらず、人権を持ち、それが守られる権利を有しています。

 一方、閉鎖的な空間では時として「基本的人権」が守れない場合も存在する。ある集団において特定の権威が強くなれば、自ずとその傾向は強くなるように思います。

 私たちが生まれて最初に所属する集団は「家族(家庭」と言えるのではないでしょうか。昔は地域における各家庭の繋がりは強く、ある意味では、家庭が「開かれた」状態にありました。しかし今は自分の隣に誰が住んでいるのかを知らないことが珍しくない。家庭が悪い意味で超閉鎖的なものとなっています。

 2022年度中に全国232か所の児童相談所が、児童虐待相談として対応した件数は21万9,170件で、統計を取り始めた1990年度から増え続けており、過去最多を更新しています。

 一方、実際に児童相談所が保護できる子どもは実は非常に少ない。前述したように家庭が「密室性」を帯びているぶん、児童虐待の信憑性を把握することは非常に困難。また児童相談所自体のマンパワーや施設の不足も重なって、対応件数の97%の児童は元の家庭に戻るそう。

 誤解を恐れずに言うならば、目にみえる虐待は比較的対処しやすいとも言える。外傷などがあれば、それが虐待の客観的事実となり、児童相談所も具体的な行動に移ることができる。時には法を行使できるかもしれません。

 しかし、厄介なのが心理的虐待。そこに客観性を求めることが非常に難しい。時に親と子の関係性は脆いもの。親の権威がいまだに根強く残る「家庭」において、時として児童は親の心理的圧力によって心を攻撃されてしまうのです。

 以前、教育虐待のテーマでコラムを書き、親の権威が絶対的になる危うさに言及しました。

2018年、滋賀医科大学看護学科4年生で31歳の女性が、58歳の母親を殺害しTwitterに「モンスターを倒した。これで一安心だ。」と投稿した事件が起こりました。裁判の中では、母親の異様なまでの「娘の医学部入学」へのこだわりと、その執着によって生じた壮絶な教育虐待の実態が明らかになっています。

 しかしながら、この事件はどの家庭にも起こりえること。親と言う子どもにとって「絶対的な存在」は、親が思っている以上に、子どもにとって影響力が大きい。一歩間違えば、(無意識的に)教育虐待に簡単に繋がってしまう。

 1万人を超える非行少年・犯罪者を見てきた犯罪心理学者の出口保行氏に関する記事を見つけました。出口氏の子育てにひそむ危険や注意点を解説した著書『犯罪心理学者は見た危ない子育て』(SB新書)では、「高圧型」の子育てが、子どもへのマインドコントロールや教育虐待につながる可能性を指摘しています。

記事の中で同氏は、

子育ての失敗は、「過保護型」「高圧型」「甘やかし型」「無関心型」の4つのタイプに分類できる。 この4タイプには、非行少年の親のみならず、すべての親が当てはまるという。 各タイプがそのまま失敗というわけではないが、どのタイプであれ、行きすぎると「危ない子育て」となってしまう

マインドコントロールはカルト的な集団で使われているイメージが強いと思いますが、その技術を学んだわけでなくともできてしまうものです。高圧的に接して命令し、罰を与えるなどして恐怖を与えればいいのです。噓を織り交ぜるとさらに強力です。 家庭の中だってじゅうぶん起こりえます。

と述べています。

 一方、児童虐待をしてしまう親自身にも「心の悩み」があることも理解しなければならない。自身の心を満たすことができない心の不安定さと、無垢な子どもの存在という二つの危険な組み合わせが、悲劇を起こしてしまう。殺害された母親もまた自分の人生に大きな問題を抱えていたことは想像に難くありません。記事の中でも母親の経歴に関する事実も書かれています。

 裏に見え隠れするのは、親自身の劣等感、コンプレックスです。滋賀医科大学生母親殺害事件でも、母親は工業高校卒で学歴にコンプレックスがあったと言われています。自身のコンプレックスを埋め合わせるため、子どもに過度な期待をし、それに応えなければ罰を与えているのです。

 学業における「成績」よりも、大切なことが必ずある。その前提が崩れるほど、「学歴社会」が世の中に蔓延っているのかもしれない。私たちは「点数」で生きているわけではなく「一人の人間」として生きているのです。


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