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【社会起業家取材レポ #17】誰もが「自分を生きる幸せ」に包まれ、地域を潤していく。


SIACの学生が東北で活動する社会起業家の想い・取り組みを取材する「社会起業家取材レポ」。今回は、SIA2021卒業生の山内まどかさんにお話しを伺いました!


1. 山内まどかさんについて

山内さんは盛岡市出身で、フリースクール「ぐるぐるの森 」を手がけています。現在は3人のお子さん・旦那さん・旦那さんのお母さんと暮らしています。一見すると「普通」の幸せな家庭を築いているように思いますが、実は、壮絶な過去を経験されていました。

山内さんが10歳のとき、母親ががんに罹患。母親が弱りながら入院する様子を見守ったといいます。そして6年後、母親を看取ることになりました。闘病の末に逝去した母親を見て、「自分もいつかは死ぬ日が来る。そのときに思い残すことの無いようにしたい」と考えたそうです。
母親が入院している間、父親との関係は良好ではありませんでした。父親は非常に抑圧的で、山内さんもご兄弟も、言葉に表せないほど苦しい思いをしたそうです。兄弟だけで生活した時期もあったとのことでした。山内さんのお兄さんは今でも父の呪縛から逃れられず苦しんでるそうで、子ども時代の家庭環境はその人の一生に影響するのだと、身をもって感じたとおっしゃていました。

さらに、山内さんが20歳の時に生まれた妹さんは、高校生のときに不登校になったそうです。娘が辛い境遇にあろうとお構いなしに、いつも揉めている父親と義母。山内さんは、なんとか彼女が学校に復帰できるようにサポートし続けたそうです。しかし最終的に、彼女は自死を選び亡くなりました。それから山内さんは、不幸な家庭環境で育つ子どもがいなくなるような世の中を作りたいと強く思うようになります。

▷SIA2021最終pitch動画

▷フリースクール「ぐるぐるの森 」web


2. 取り組んでいる社会課題

山内さんが取り組む社会課題は、「子どもたちを取り巻く”学びの環境”の多様性のなさ(画一化されている子どもたちの”学びの環境”)」です。

現状、子どもたちを取り巻く”学びの環境”は、『学校』と『家庭』が大きな比重を占めています。
しかし、『学校』と『家庭』における”学びの環境”が侵されたら…?

例えば、子どもたちの不登校の実態。
平成24年以降、小中学生の不登校は増加しており、令和2年度は小学生が63,350人(1.0%)、中学生が132,777人(4.09%)に登るという報告があります。

出典:平成30年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要

不登校は学校や友人関係に問題があると考える人も多いですが、実は家庭環境が背景にある部分も非常に大きいのです。人の家庭に口を挟むことがタブーとされがちな日本で、どのように子どもたちを救うのかという点は大きな課題となっています。(事実、平成30年の政府統計によると、不登校の理由のうち「家庭に係る状況」は小学生の55.5%、中学生の30.9%、高等学校の15.0%を占めています。)

-『学校』と『家庭』における”学びの環境”が侵されてしまったとしても、”学びの環境”を担保できる多様な学びのあり方は?
-また、不登校などをきっかけとして、1度”学び”から離れたとしても社会から孤立しないあり方は?

様々な環境に置かれている子どもたちがいます。
環境に左右されることなく、彼らの可能性を最大化してあげられるような”学びの環境”のあり方が問われているのです。

<出典>
文部科学省:
平成30年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要(https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/000021332.pdf


3. インタビュー:これまでの歩み&今後の展望

Q. 宮古市のフリースクールと出会い、どんな変化がありましたか?
A. 私がやりたいのはコレだ!全く同じことを盛岡でやりたい!と思いました。

妹さんを亡くされてから、なんでこうなったのかと自問する日が続いたそうです。そうして意識してみると、意外と身の周りに不登校の子どもがいることにも気づくようになったとおっしゃっていました。また様々な情報に触れる中で、全国のフリースクールや東京大学の異彩発掘プロジェクト ROCKETなどを知り、学校は行かなくても大丈夫だったんだと、大きな衝撃を受けたそうです。

しかし一方で、岩手には不登校の子どもの行き先はほとんどなかったそうです。一度不登校になってしまうと将来就職することも難しく、結果的にその子の人生に大きな影を落とすことになりかねない状況でした。

そんな折、宮古市のフリースクール「花鶏学苑」に出会ったそうです。花鶏学苑
は子どもたちのフリースクール卒業後の人生を考え、高校卒業を目標にしていました。そのために5年前から既にICTを取り入れており、海外の先生の授業なども実施していました。学長も、クリスチャンとして強い慈悲の心・奉仕精神を持っていました。その想いと方針に共感した山内さんは、理事としてお手伝いをして、将来フリースクールを立ち上げようと決意するようになりました。


Q. SIAプログラムに参加されていかがでしたか?
A. 背中を押してもらえたことが宝になりました。

フリースクールは子育てが落ち着いてから始めようと思っていたそうですが、SIAプログラム 2020採択者の石頭悦さんに誘われ、思い切って応募してみたそうです。
それまでは、子どもの生きづらさを解消したい!と周りに言っても、金にならないからと認めてもらえなかったといいます。しかし、SIAプログラムに参加してみると周りの人を救いたいという気質の人がたくさんいて、自分の居場所を見つけたと感じられたとのこと。またお金になるかどうかよりも、胸を張って伝えて人を巻き込むことが大事なのだと学んだそうです。


Q. 不登校の背景には何があると感じているのでしょうか?
A. 家庭環境も問題ですが、小さい頃から仕事に深く触れていないことが本質的な問題だと思います。

不登校の本質的な問題は、将来の働き方が見えなくなってしまうことだと語ってくださいました。岩手県は大学・専門学校が少ないので若年人口の社会減が多いそうです。一方で、キャリア教育は高校生から始まるため県内の企業を知る機会は少なく、一度岩手から出た方に戻ってきてもらうことは難しいのが現状です。

そこで山内さんはキャリア教育に特化したフリースクールを開き、時間をかけていろんな仕事に触れる中で、自分にあった働き方を探せるようサポートしたいと考えています。親御さんにも地域の企業を知ってもらうことで、家庭ぐるみで子どもの将来を考えることを目指しています。

山内さんの息子さんも、自分に合った職場を見つけて充実した生活を送っている一人です。やりたくないことには集中できない性格の息子さん。一方で体は丈夫で些細な変化にもよく気づくそうです。そんな彼が見つけたのは「林業」でした。林業はちょっとした気の緩みが命取りになる危険な仕事ですが、息子さんの危険察知能力を活かすことができるため息子さん自身も自分に向いている仕事だと感じているそうです。


Q. 今後のビジョンを教えてください。
A. 行政と連携して、不登校支援の輪を広げていきたいです。

ぐるぐるの森は2022年12月1日にオープン予定で、すでにたくさんの問い合わせが来ているそうです。まずはプログラミング教室で収益を立てる予定ですが、それだけでは生徒数が増えたときに支援しきれないので行政との連携が非常に重要になってきます。

宮古市では花鶏学苑に対して助成金も出しており、不登校の子供の自宅勉強用教材の費用を出資しているそうです。一方で盛岡などの大きい地区では、適応指導教室や特例校などの公的な教育が重視されており、フリースクールに対して行政からの支援がまだまだ弱いのが現状だそうです。
最近山内さんは、不登校支援を行う他の団体に声掛けして、同じ理念を共有する集まりを作りました。集まって声を上げることで、フリースクールに対しても重点的な支援がなされるようになり、多様な選択肢を提供できるようにしたいと述べていました。


4. 編集後記

山内さんに取材をして、慈愛の精神と物事をやり抜く強さがある方という印象を受けました。壮絶な経験をしたからこそ、「人生は短いから今やりたいことをやり抜きたい」「家族関係で悩んでいる子どもを救いたい」という強い想いが生まれたのだとも思いました。

学校も、家庭も、フリースクールも、それぞれに良さがあり足りない部分もある。どれが一番というわけでもなく、子どもの居場所としての選択肢がたくさんあることが大事だとおっしゃっていました。誰一人として取り残されることのない社会を作るためにも、この活動が広がっていく日を心待ちにしています。


取材・執筆担当:三浦友裕(東北大学 5年)

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