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【小説】ビール傘っ、ビール傘っ!(#毎週ショートショートnote)

「ビール傘っ、ビール傘っ!」
 両足で雨に濡れた地面をぱたぱた踏み鳴らしながら、陽介がはしゃいでいる。
「ビール傘じゃなくて、ビニール傘よ」
 私の言葉なんか聞こえていないかのように、今度は水たまりに手を沈めて遊んでいる。
 すでに服は泥だらけだ。
 カッパを着させておくべきだった。雨予報だったので朝から長靴は履かせてきたのだが、こんなに降るとは思わなかった。
「パパ、まだぁ?」
「いま会社から向かってくれてるのよ」
 保育園で陽介を捕まえ、そのままスーパーに行った帰り道。途中で雨がゴウゴウと音を鳴らすほど酷くなったのと、パパの帰宅時間がちょうど重なったのだ。
 公園の、屋根ともいえないような木の屋根の下でパパを待っていた。
「あ、パパの車!」
 陽介の声にハッとして顔を上げると、我が家の車が広場に止まるところだった。
「パパ〜!」
 息子が駆け出していく。傘もささずに。
 一歩遅れて、私も駆け出す。
「あっ、待って!」
 ビニール傘を広げる。
 私の声に走りながら振り返った陽介が叫ぶ。
「ビール傘っ、ビール傘っ!」
 かけっこのように走る二人を、目を細めたパパがフロントガラスからじっと見守っているのが見えた。

《終》(497字)

毎度おなじみ、たらはかに様の企画です!
お題に合わせて書くショートショート。
今週のお題は『ビール傘』。
すみません、ちょっと字数オーバーです……。

いつも素敵な企画をありがとうございます😊

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