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パン職人、経営者、プロデューサー、彼を表現するには、まだ言葉がたりない。


ウルトラキッチン株式会社 代表取締役 杉窪章匡氏

調理師専門学校卒。食べ歩きと読書、名店で修業を重ねるとともに、独学をつづける。国内の名店だけではなく、フランスにも渡り、パティスリー、2つ星レストランなどで2年間、修業。40歳の時に独立を果たす。「カンブリア宮殿」にも取り上げられている。


先生を論破する少年。

授業は少年にとってつまらないものだった。ついていけないからではなく、すぐに理解してしまうから。教科書だってみていない。ノートは取らない。先生だって論破する。ちなみに、喧嘩もつよく、クラスの人気者。

これが、今回、ご登場いただいたウルトラキッチンの代表取締役社長、杉窪さんの小学校時代の話。

生まれは、1972年。両祖父母は石川県輪島市で輪島塗の職人をされていた。
歳が離れた兄2人は剣道だったが、杉窪さんは柔道。中学生から始めている。

「中学から柔道部だったんですが、めちゃくちゃ厳しくって、バリバリの縦社会。その時の、先輩・後輩の関係も私の背骨の一つとなっています」。高校は中学の柔道部のみんなといっしょに進学。柔道部が幅を利かせている学校だったらしい。

ただし、高校は2ヵ月で中退。

「その時の選択肢は美容師、土方、飲食、ヤクザの4択だった」と笑う。

消去法で、飲食の道に進んでいる。
飲食、と決めたあとの杉窪さんの行動は早い。すぐに大阪へ向かい、うどん屋で住み込みのバイトをはじめ、来春をまって辻調理師専門学校に進学する。

「専門学校は、ギリギリ卒業できたというのが正解」と杉窪さんは笑う。ギリギリといっても卒業にかわりはない。

専門学校を卒業した杉窪さんは、ケーキ屋さんではたらく。性に合ったのか「ケーキづくりがたのしくて、もっと早く出会いたかった」とまでいっている。

これで、飲食というくくりのなかで、進むべき道が絞られる。

クビの第一候補からの大出世。

「そのケーキ屋さんで4年勤務します。私は、高校中退なんで、社会的な信用がない。だから専門学校に通い、4年間仕事をつづけました。これで、信用が一つできたわけです」。

信用を得ることが目的だった。15歳の時に立てた戦略というから、恐れ入る。

「そのケーキ屋さんで仕事をしながら食べ歩いたなかで、いちばんおいしかったのが、つぎの転職先。神戸の有名なケーキ屋さんです。阪神淡路大震災があったあと、東京に行くんですが、神戸のお店では知識・理論、すべてにおいて劣っていることを痛感します」。

なんとか入社することはできたが、最初は、クビの第一候補だったらしい。

「だいたい知識がない。理論だってない。先輩たちが東京のどこどこがいいと話していても、わからない。その店を知らないというと、『なんだ、そんなことも知らないのか』って」。

そういうことがある度に、杉窪さんは、すぐに行動に移す。

「この時は、その日のうちに書店に飛び込んで、つぎの休日には新幹線の始発に飛び乗りました。で、東京で20軒くらい回って、話題に上がったショップのケーキをおみやげにもって帰ります」。

みやげを渡された先輩たちは目を丸くしたんじゃないだろうか。
シャレでもなんでもない。純粋なお礼の証。杉窪さんはそういう人。

「最初は、ぜんぜん、かなわなかった。じゃぁ、どうすれば差を詰められるか」。

杉窪さんは、尊敬はするが崇拝はしない、という。だから、尊敬する人は追い抜く対象になる。もっとも、その数は少ない。

小学生で先生を論破するだけあって、ブレない尺度をもっている。著名なシェフであっても、杉窪さんの尺度で測ると、相手にするレベルでないケースが少なくない。

ちなみに、当時の仕事は朝6時~22時まで仕事がつづき、休みは週イチ。ハードワークだったが、それでも休日は3時間、それ以外は最低1時間、本読むと決め、実行した。食べ歩きもつづける。

修業をつづける杉窪青年の姿を想像すると、修行僧のようなストイックさが思い浮かぶ。

ともかく、給料は、ほどなく2倍になる。クビの第一候補からの大出世である。

フランスに渡り、帰国後、名店のセールスを4倍にする。

杉窪さんが東京に向かったのは、22歳の3月のこと。東京では紹介されたショップで1年間勤務したあと、フランスの修業から帰国した神戸時代の先輩に合流し、たまプラーザのベーカリーで勤務する。

「フランスから帰国した先輩は、日本でもトップクラスのパン職人です。その先輩の下で、製パンの理論を学習します」。 

「半年間でマスターした」と杉窪さん。残り半年は、恩返しの期間と割り切り、合計1年間、勤務する。

この時、24歳。杉窪さんはわずか1年間だったが、この1年の経験が、「今の私の形成している」という。それだけ濃厚な1年だったということだろう。

ところで、杉窪さんは修業期間を「私」という資源の運用効率を高めるための期間と定義している。だから、余分なものは削ぎ落とし、時間やお金を投資するのは、コアな部分のみ。

「フランスに行くための、お金を貯めなきゃならなかったので、淡路島のリゾートホテルでシェフパティシエとして勤務します。家賃もいらないので、3年、資金も貯まり、いざ、フランスへ、です」。

フランスは、これが2度目。1度目は、2週間の視察。パティスリーを12軒、ベーカリーを20軒、ほかレストランやカフェ、花屋、雑貨店、美術館をみて回っている。

今度は、2年。フランス人のシェフたちとともに厨房に立った。杉窪さんは、ヒト、モノ、カネで、独立できたのは昭和の世界だと笑う。今は、情報、信用の5つのツールがなくてはならないということだ。

その意味では、スキルだけではなく、フランスではたらいたことは、情報、信用を一段とプラスしたことになるのではないだろうか。

パン職人として杉窪さんの輪郭が明瞭になっていく。解像度があがっていく、と表現したほうがいいだろうか。帰国後、杉窪さんは、たまプラーザでともにはたらいた先輩の下で、ふたたび勤務することになる。

「勤務したのは青山にある『d'une rarete』です」。じつは、杉窪さんは、この『d'une rarete』の3代目。伊勢丹にショップをオープンするなどして、年商を5000万円から2億円へ、4倍にしている。

経営者としても、杉窪さんの名が、知れ渡るようになる。

たぶん、何にでもなれて、何でも一流になれる人。これが、インタビュー後の感想。何をするのにしても、ルールを理解するのが早い。ルールがわかれば、傾向と対策で、突き進む。

ためしに、営業マンにもなれますね? と質問すると、「そうですね。できるような気がします」と笑う。「d'une rarete」には6年半いた。そして、独立。40歳のときだ。

365日など、人気店が杉窪さんのちからを証明している。いったい彼は、何者?

ウルトラキッチンの名前の由来もうかがった。

「独立するときに、10年で10億円を目標にしました。それをクリアするには、ハードワークは避けられませんし、経営者という仕事も多くなる。そうなっても私の原点である『キッチン』を忘れたくなかったんです」。

だから、キッチン。

2013年設立だから、このインタビューを行った2024年現在で、10年が過ぎている。「コロナがあって、若干、遅れていますが、今、9億3000万円です」。

ホームページによると、2013年、365日オープン、2015年、15℃オープン、2018年、ジュウニブン ベーカリー 京王百貨店新宿店オープン、2018年、365日と日本橋オープン、2020年、ジュウニブン ベーカリー三軒茶屋本店オープン、2020年、二足歩行 coffee roastersオープン、2020年、365日とCOFFEEオープンとある。

グルメサイトで確認したが、いずれも、高得点を獲得している。ただ、杉窪さんは「それはそれ」と笑うんじゃないだろうか。

ちなみに、杉窪さんは、プロデューサーも行っている。それだけではなく、オンラインサロン「杉窪章匡の食の教室」を運営。次世代の育成にも取り組んでいる。

理知的で、理論的な話は、聞いていて飽きない。もう、パン職人というカテゴリーで、表現することはできない。経営者、プロデューサー、それもだけでも、しっくりこない。

アナリストであり、経済学者であり、社会学者でもある、と表現するといい過ぎだろうか。かりに、第二の杉窪さんが現れたとする。彼が、杉窪さんをリスペクトしたとして、果たして、杉窪さんを抜くことができるんだろうか。

哲学的な話だが、抜かれてほしくないし、抜いても、もらいたい。

24/07/09
ウルトラキッチン株式会社 代表取締役 杉窪章匡氏
企業HP https://ultrakitchen.jp/

飲食の戦士たちより

主な業態

365日

「食のセレクトショップ」17種類の国産小麦を使い、ハムやベーコン、あんこなども手作りする自然派の新しい日本のパンや全国から集めた米、醤油、味噌、納豆、卵、野菜、お茶、コーヒーなどのこだわりの食材、お皿やナイフなどの食雑貨を取り揃えたお店です。

https://ultrakitchen.jp/brands/

二足歩行

コーヒーロースターが見える、コーヒーと料理にこだわったお店。コーヒーは常時6〜8種類のナチュラル製法だけに特化しており、日本では珍しいジブラルタルやマジックなどの世界各国のコーヒードリンクやそれにあわせた最先端の料理やデザートが食べられます。

https://ultrakitchen.jp/brands/

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