猪瀬直樹

作家

猪瀬直樹

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 膠芽腫という絶望に挑戦する者たちの物語『がん征服』(下山進著)、我が亡妻も膠芽腫だったー。

下山進著『がん征服』(新潮社刊)はじつによく取材している。これほど専門領域に踏み込んで、医師でないにもかかわらす医師たちのテキストになるような記述ができる書き手は稀有だろう。  登山家なら誰もエベレストのような最高峰を目指す。医師になって見れば、深い雲に隠れた未踏の峰々が幾つも聳え立っていることに気づくかざるを得ないのだ。そこには命を奪う魔物が棲んでいる。  その挑戦の最大の峰の一つが「膠芽腫(一般に悪性脳腫瘍と理解されている)」で、その峰は最も急峻な絶壁の彼方にあり、幾多の

    •  J・D・ヴァンス副大統領候補が作家として描いた『ヒルビリー・エレジー』こそがトランプ支持者らの心象風景なのだ。

       日本人には馴染みが薄いJ・D・ヴァンス副大統領候補が一躍有名人として日本でも取り上げられるようになった。『ヒルビリー・エレジー』の作家が2016〜17年にかけてアメリカでベストセラーになり話題をさらっていたことをうかつにも僕は知らなかった。  いまになってはたと気づいた。ヴァンス をなぜトランプが副大統領候補に抜擢したのかを。  ヒルビリーとはアパラチア山脈辺りに住んでいる農民というやや蔑むトーンの言葉で、要は田舎者の意味だ。転じていまはアメリカの繁栄から取り残されたラスト

      •  押見修造・漫画版「悪の華」はアニメ版を前半だけ、その後は実写映画版をお薦めします。思春期から大人になるまで心のトンネルをどう抜けるか、どのくらいの毒を飲めば免疫ができるか、そういうテーマとして描かれている。

        ボードレールの 『悪の華』(堀口大学訳・新潮文庫)は、文学青年なら一度は通過儀礼として、突き刺さるような言葉の群れを容赦なく浴びて仕舞う、そういう有名なフランスの古典文学です。  その『悪の華』をヒントに同名のタイトルで押見修造という漫画家が2009年に「別冊少年マガジン」に連載を開始し、その後コミックが累計300万部も売れた。  ストーリーは、田舎の山に囲まれた袋小路のような出口のない小都市、新しい産業があるわけもなく電線が垂れ下がり看板も色褪せている。衰退する日本の典型

        • リフィル処方箋を知っていますか? 日本だけが遅れている!

          🟢リフィル処方箋制度を知っていますか?  「リフィル」とは、詰め替えやおかわりを意味する言葉です。「リフィル処方箋」とは、処方医によって定められた回数と期限内で、繰り返し使用可能な処方箋を指します。つまり、「リフィル処方箋制度」とは、何度も病医院に行かなくても、一枚の処方箋で複数回にわたり医薬品を受け取れる制度なのです。  アメリカ・フランス・イギリス・オーストラリアなどでは導入済み。とくにアメリカでは、1951年に取り組みが始まり、長期にわたってこの制度が国内に浸透してい

         膠芽腫という絶望に挑戦する者たちの物語『がん征服』(下山進著)、我が亡妻も膠芽腫だったー。

        •  J・D・ヴァンス副大統領候補が作家として描いた『ヒルビリー・エレジー』こそがトランプ支持者らの心象風景なのだ。

        •  押見修造・漫画版「悪の華」はアニメ版を前半だけ、その後は実写映画版をお薦めします。思春期から大人になるまで心のトンネルをどう抜けるか、どのくらいの毒を飲めば免疫ができるか、そういうテーマとして描かれている。

        • リフィル処方箋を知っていますか? 日本だけが遅れている!

          衆院補欠選挙は、自民党エラーと“左翼バネ”という旧体制の構図。

          衆院補選は、東京、島根、長崎、いずれも立憲民主党が当選した。自民党がエラーするといわゆる“左翼バネ”がはたらくという現象は旧社会党時代以来の伝統的なパターンです。  江東区は、立憲優勢のなか維新の金澤ゆいは2位につけていたが最後に3位と抜かれてしまいました。格闘家の須藤元気に負けた事実は、昨年まで維新に吹いていた風が減速したわけで、浮動票頼みのあり方への反省材料となります。本来なら維新が獲得するはずの無党派層の票が無所属(前・立憲)須藤元気と保守党の飯島陽に奪われた結果は深

          衆院補欠選挙は、自民党エラーと“左翼バネ”という旧体制の構図。

           下山事件の真相を明らかにしたNHKスペシャル、再放送の視聴をお勧めします。

          3月30日土曜日夜のNHKスペシャルはご覧になりましたか?  前篇がドラマで後編がドキュメンタリーの2部構成になっていました。  当時の国鉄の下山総裁は自殺か他殺かという真相だけでなく時代背景がよく描かれています。  僕の『民警』 https://amzn.to/4aAPQ0p にも、そのころの時代背景を描いてなぜ内調(内閣調査室)ができたか、セコムとアルソックの成り立ちにからめて描きました。  あの時代、GHQは対ソ連謀略に必死でした。もちろんソ連側もシベリア抑留者を洗脳し

           下山事件の真相を明らかにしたNHKスペシャル、再放送の視聴をお勧めします。

          インタビューが跳ねているStudio Voiceの時代があった。『日本凡人伝』『ノンフィクション宣言』のことなど。

          清水正己という人、知ってますか?  僕の「日本人凡人伝」は、1980年代、当時の流行通信社の「スタジオボイス」(編集長・佐山一郎)に連載されていた。その雑誌のデザイナーが清水正己で、若者だと思っていたらその後、売れっ子になって活躍していまや古希になっている。  清水のデザイン展が集大成として表参道のスパイラルで開かれている。4月2日まで 無料  写真 『明日のジョー』の原作者・梶原一騎が暴行事件を起こし逮捕され、また重病にもなった。その梶原を石神井公園近くの自宅に訪ねたインタ

          インタビューが跳ねているStudio Voiceの時代があった。『日本凡人伝』『ノンフィクション宣言』のことなど。

           世界から勝ち取った大阪万博に期待せずして、ではいま何を期待したいのか⁉︎

           大阪万博について誤解が多いので説明しておきたい。勝負は2018年11月23日についた。ロシアのエカテリンブルクとアゼルバイジャンのバクーと大阪の3都市の投票は156カ国が無記名投票だった。1回目の投票は日本85票、ロシア48票、アゼルバイジャン23票。3分の2以上を集めた国がなかったため、上位2カ国による決選投票が行われ、日本92票(ロシア61票)で勝利した。票差は圧倒的に見えるが決戦投票でロシアへ流れた票はそれなりにあり当事者はハラハラしたものだ。東京五輪招致に関わった僕

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           国民は南海トラフ地震80%予測に騙されている!

           2024年3月8日金曜日の参院予算委員会質疑の要点を説明します。非常に重大な問題提起なのでどうか最後までお読みくださるようお願いします。 【地震動予測地図】写真・パネル①  南海トラフ地震の発生確率が科学的根拠なく水増しされている、その影響について。  石川県はウェブサイト上で地震のリスクが小さいことを企業誘致のアピールポイントとしていた。2016年に発生した熊本地震でも、熊本県は大規模地震と無縁の土地柄などと安全性をアピールしていた。 石川県や熊本県は何を根拠にして

           国民は南海トラフ地震80%予測に騙されている!

           万博は野放図がいい。落合陽一君たちが好き勝手に突き抜けちゃえばいいのだ。

          今日は日帰り出張で万博視察でした。いま帰りの新幹線車中でこれを書いています。  新大阪からタクシーで高速利用で30分、大阪府咲洲庁舎に集合、維新の国会議員参加40人のための企画です。そこから貸切バスで10分、海底トンネルを抜けて万博会場の夢洲へ。  バスは建設中の大屋根リングに着いて、ヘルメットを配られ、細い足場階段を登ります。12メートル、3階分です。リングは段差があり、外側は高さ20メートル、内側が12メートル。1周すると2kmになるからランニングできるな。いま6割が完

           万博は野放図がいい。落合陽一君たちが好き勝手に突き抜けちゃえばいいのだ。

          東浩紀著『訂正する力』を訂正する。

           東浩紀著『訂正する力』を読み,趣旨はよくわかり好著なのですが、僕についての記述に誤りがあり「訂正」していただきたいと思い、東さんのゲンロンカフェへ出向いたのです。しかしテーマが逸れて万博の話になってしまったのでちょっとここに本意を記録しておきたい。 「五輪では夏の暑さが問題になっていました。東京都知事として五輪を招致し,多くの批判に晒された作家の猪瀬直樹さんは、五輪開催前にぼくと対談したときに、『東京の夏は五輪に適している』と主張したことがあります」 東浩紀によると、

          東浩紀著『訂正する力』を訂正する。

          否定からは何も生まれない。大阪万博批判の思想こそ「失われた30年」の元凶なのだ。

           大阪万博に否定的な言説を振りまくのが知識人の資格だと勘違いしている、そういうムード的な意見がネットで散見される。少し調べればわかることなのに何も調べずに騒いでいるようだ。  曰く、大阪万博のおかげで能登復興が遅れてしまう。  ファクトベースで考えればそれは言いがかりに過ぎない。  日本全国の建築工事発注は年間70兆円である。能登の復興は2.6兆円と見積もられている。万博の会場建設費は2350億円、民間パビリオン等の建設は1024億円、合計3500億円に過ぎず、能登復興を遅ら

          否定からは何も生まれない。大阪万博批判の思想こそ「失われた30年」の元凶なのだ。

           珠洲市長の「倒壊家屋撤去まで12年」という不安に誠意をもって答える必要がある。

           2月2日付けの共同通信は「『倒壊家屋撤去に12年』珠洲市長、国に支援訴え」の見出しで、こういう記事を書いている。 「石川県珠洲市の泉谷満寿裕市長は2日、オンライン出席した能登半島地震の県災害対策本部の会合で『倒壊家屋の解体撤去を全て終えるのに12年ほどかかる』と述べた。人口流出を危惧しているとして『不可能を可能にするのが政治。できれば2年で終えられないか』と、国を挙げての財政援助や人的支援を求めた」  そこで僕は「記事を書いた共同通信は、記事を書きっぱなしでなく、珠洲市長

           珠洲市長の「倒壊家屋撤去まで12年」という不安に誠意をもって答える必要がある。

          フランス人監督「ONODA 一万夜を越えて」を3連休にお薦めします!

          皆さん、知っているだろうか?  フィリピンのルバング島のジャングルに30年間も潜伏していた小野田少尉のことを。終戦の1年前に、「玉砕してはならぬ。ゲリラ戦を展開せよ」との秘密指令を受け渡島した。現地部隊はほとんど死んだが、小野田少尉は残存部隊を指揮してジャングルの奥に潜んだ。数年後、仲間は4人に減り、そのうちの1人が投降した結果、終戦後に小野田たちの存在が知られたが、呼びかけに応じることはなかった。そのままその存在は日本では忘れられていたが、現地民は食糧や家畜を奪いに来る強

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           岸田総理・施政方針演説は美辞麗句のオンパレード? 「こども・子育て政策」はほんとうに大丈夫か⁉︎

           1月30日に行われた岸田総理の施政方針演説を国会で聴いていて、あれ、おかしいな、と思ったところを(いっぱいあるが)一つ指摘する。  以下の部分。 「前例のない規模でこども・子育て政策の抜本的な強化を図ることにより、我が国のこども一人当たりの家族関係支出は、GDP比で16%とOECDトップのスウェーデンに達する水準となり、画期的に前進します」  ちょっと待てよ⁈  日本の一人当たりの教育費はOECDで最下位クラスではなかったのか? にもかかわらず「家族関係支出」という耳慣れな

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          マチスがタヒチで向き合った青という色の宇宙。77歳で閃いたあの作品。

          「果てしなき絶景ーマチスの旅」を深夜のBS1でやってました。マチスは50代半ば、気持ちが疲れていてタヒチへ向かいます。青い海のあまりにも鮮やかな青さに癒されます。タヒチで向き合った青という色に宇宙そのものを感じます。 しかしタヒチから南仏へ戻ってもタヒチの青から次の創作のモチベーションは浮かばないまま15年が過ぎます。70歳で病院のベッドから起き上がれません。ベッドで鳥の形などの切り絵をつくったりしていた。長いベッド生活。77歳(喜寿!)になってふとベッドから見える壁のシミが

          マチスがタヒチで向き合った青という色の宇宙。77歳で閃いたあの作品。