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悪い夢はネカ魔女がMODりますの(夢に出るロックダウン編)

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夢は万人にとっての癒しであるはずだった。あのロックダウンが夢に出てくるまでは…!【各記事100円ですが、期限未定で全文を無償公開中】【DQWのスクショは全て差替予定】ヘッダー画像…
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第1夜 ユッフィーとミカ

第1夜 ユッフィーとミカ

「お〜っほっほっほっ!!」

 深夜の街に、どこの悪役令嬢かと思うような高飛車笑いが響き渡る。

 笑いには邪気を払う力がある。でも女の子が、どこぞの御老公様みたいな「カ〜ッカッカッカッ」では変だから。うちの子のキャラではない高笑いをしてみた。ちゃんと手の甲をあごの下に添えて、アイーン。

「憎むな、殺すな、赦しましょう!」

 窓に「令和」と貼り出された、書道教室の屋根の上。額に三日月の飾りをつ

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第2夜 バーサーカー

第2夜 バーサーカー

 頭の中がぐちゃぐちゃにかき乱されて、割れそうに痛む。視界が歪む。
 ここは、どこだ。見知らぬ街並み。

 公園らしき場所で、男は多数の敵に囲まれていた。みなそれぞれに異なる仮面をつけており、素顔はうかがい知れない。

 火球や銃弾が飛び交い、剣戟が響くも。それは現実の風景を破壊することなく、幻の如くすり抜け消えていく。夜の街に騒音で目覚める者もいない。

 高みの見物をして、嘲る者がいる。怒りが

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第3夜 ユッフィーと銑十郎

第3夜 ユッフィーと銑十郎

 ミカとバーサーカーが「寝落ち」した後。狙撃手の銑十郎と合流したユッフィーが、宮前公園で雑談している。

「オープンチャットで『緑の魔女討伐戦』の呼びかけがありましたの」
「松戸に、東京都の管理する霊園があったんだね」

 そこなら、緑の魔女のテリトリー。きっとレイドバトルと同じ、近接攻撃禁止の戦いになる。そう読んで、ユッフィーはバーサーカーを誘い込んだ。銑十郎の中で、目の前の少女が立てた作戦への

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第4夜 ブラックマーケット

第4夜 ブラックマーケット

 夜が来る。人々の不安をかき立て、悪夢へ誘う夜が。

 悪夢のゲームがもたらすのは、ホラー映画染みた鬼ごっこだけではない。現実には何もない場所に、蜃気楼のごとき幻の楼閣をも出現させる。闇の中に浮かび上がるのは…欲望にまみれた、悪徳と退廃のブラックマーケット。

 全体としては石造りの、剣と魔法のファンタジー風でありながら。不釣り合いなネオンに彩られたその闇市は、夜の間だけ松戸南部市場脇の駐車場に出

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第5夜 ロックダウン

第5夜 ロックダウン

「あいつはもう襲ってこない…って!?」
「彼にとっての、楽しいアトラクションを用意しましたの」

 今夜も夢歩き。ミカがユッフィーと一緒に、稔台工業団地の案内図が描かれた看板前を通り過ぎる。24時間営業の牛丼店も近くにあり、このあたりは深夜でも明るい。

 現実の世界に、拡張現実のように重ね合わされた夢の世界。眠っている者だけがアクセスできる悪夢のゲームで、先日バーサーカーから逃げたときとは反対方

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第6夜 バックドア

第6夜 バックドア

「サウナ好きな人にはぁ、つらいですねぇ」

 ロビーの窓に張り出された、臨時休業のお知らせ。もちろん緊急事態宣言を受けてのものだ。
 湯っフィーの里。ユッフィーの中の人もたまに利用する近所のスーパー銭湯は、エルルたちの手で北欧のログハウス風に魔改造されていた。とはいえここにはリアルの建物があるので、外観を夢見の技でいじったくらいだが。

「たとえるなら、真夜中に展示品が動き出す博物館。それがもっと

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第7夜 猫の散歩

 いまの自分は、猫のようなものだ。起きたいときに起き、食べたいときに食べ、気の向くまま散歩して、寝たいときに寝る。昭和の頑固親父が何を言っても、どこ吹く風。通勤ラッシュとも、面倒な対人関係とも無縁。そんな生活がもう、一年以上続いている。

 だからこんな状況になっても、精神的な余裕はあった。仕事こそないが、小説の構想を練る時間はたっぷりあった。

 翌日。四十過ぎのおっさんが平日の昼間から、地味な

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第8夜 ドワーフの恋

第8夜 ドワーフの恋

「おお、ユッフィーよ!会いたかったのじゃ」

 むにゅっ。

「この3年間、おぬしの肌の温もりを忘れたことはなかった」

 もにゅもにゅ。

「みなさまが、見てますの」

 夜の子和清水で、突然始まったメロドラマ。胸の谷間に顔をうずめられ、やや赤面しつつも。ユッフィーは相手をふりほどこうとはしなかった。ただ少し困った様子を見せながらも、相手の望むままにさせている。

 野次馬たちの熱い視線が、青髪

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第9話 サルタヒコ

第9話 サルタヒコ

 血生臭い風のにおい。立ち込める暗雲に、轟く雷鳴。あちこちに散らばる白骨。闇に潜む者たちの気配。ここは魔界か、戦国の世か。

「かつて日本には、様々な妖怪や魑魅魍魎が跋扈した時代がありました」

 鬼が出るか蛇が出るか。ここでは今も日常茶飯事の光景。映画でもアニメでもない現実。

「この世界が、アリサさんの故郷?」
「おそらくは。日本の歴史上、消えていった敗者たちが移り住んだ異世界…トヨアシハラで

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第10夜 蟻の一穴

第10夜 蟻の一穴

「あだだだだっ!!」

 アリサに思いきり耳を引っ張られ、オグマが思わず悲鳴をあげる。ふたりとも精神体ではなく、生身のようだ。

「おぬし、ユッフィーたちに『門』を開いたな?」
「わしは、何もしておらぬよ」

 暖炉の薪がパチパチ燃えるログハウスの一室で、アリサがオグマを問い詰めている。少年のなりをしているオグマの様子は、まるで母親にお説教される子供のようだ。アリサも年寄り口調の割には年齢不明の若

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第11夜 戦乙女たち

「誰か、骨のあるやつはいないのか!」

 深夜の松戸運動公園。夢の中で野球場のグラウンドに出現したコロッセオから、ドスの利いた声が空気を震わす。もちろん、お休み中の周辺住民には聞こえていない。
 執拗に追ってくるバーサーカーに「対戦相手」をあてがうべく、イーノが闇市の主・山椒太夫に話を持ちかけて建設させた闘技場では。いま予想外な出来事が起こっていた。

「道化人形をひねり潰したバーサーカーとやらの

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第12夜 羅城門と勧進帳

第12夜 羅城門と勧進帳

 芥川竜之介の小説で有名な、京都の羅城門。実は高さと幅に対して奥行きが短いせいで暴風雨に弱かったらしく、何度も倒壊。現実では西暦980年を最後に再建されていない。跡地にあるのは、小さな公園と記念碑だけ。

 その改良版と呼べそうな門が、トヨアシハラのかつての都に立っていた。もう何代目の羅城門だろうか。赤い丹塗りは完全に剥げて色あせながらも、風雪に耐えて立ち続けている。基礎部分は堅固な石造りで、門と

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第13夜 願いと呪い

第13夜 願いと呪い

 コツコツと足音だけが、静かな玄室の通路に響き渡る。

 途中でマリスとマリカのふたりと合流したユッフィーたちは、猿田彦の導くままに石壁の通路を歩き続けていた。もう何時間経つだろうか。途中で戦闘なども起きていない。

「ボクたちもちょうど帰るところだったんで、助かるよ」

 お互い、自己紹介と最低限の情報共有は済ませている。ユッフィーたちがガーデナー陣営でお尋ね者になっており、同じ地球人冒険者たち

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第14夜 おせっかい

第14夜 おせっかい

「地球の勇者様がた、遠路はるばるよくぞおいでくださいました」

 あの後、エルルの本体が眠る大広間にやってきたシャルロッテと名乗る幼女の案内で。ユッフィーたちは、雪の街の町長ニコラスの隠れ家へ招かれていた。

「シャルロッテちゃんは、ニコラスおじ〜ちゃんのよ〜じょで『じきちょ〜ちょ〜』でち。ふりんぐほるにのちかなんか、おにわもど〜ぜんでちゅよ」

 隠れ家までの道中、来る途中でよく迷子にならなかっ

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