マガジンのカバー画像

映画鑑賞

222
映画感想など
運営しているクリエイター

2021年11月の記事一覧

吉本興業が仕掛ける「ツッコミ不在」の前衛的実験映画~映画『たまの映像詩集「渚のバイセコー」』~

「たま」の映像詩集、ではない。「たまの」映像詩集だ。

岡山県玉野市を舞台とした、映画『たまの映像詩集「渚のバイセコー」』(蔦哲一朗監督、2021年。以下、本作)は、「映像詩集」と銘打っているとおり、表題作を含む3つの短編から構成されている。

各短編約20分、合計60分の本作は、ある意味”超前衛的実験映画”だった。

お笑い芸能事務所最大手の吉本興業が、『玉野市とタッグを組んで』手がけた本作が”

もっとみる

映画『ドライブ・マイ・カー』+第13回 TAMA映画賞授賞式

2021年のカンヌ国際映画祭の脚本賞受賞のニュースで知って映画『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督、2021年。以下、本作)を観た人の中には、「何も起こらない」展開に戸惑った人も多いのではないだろうか。

いや、「何も起こらない」わけではない。
自分が不在の家に(愛し合っているはずの)妻が他の男を引き入れている現場を見てしまう、その妻が何かを告げようとしていた日に急死する、妻が引き入れていた男が

もっとみる

"L/R15" 映画『愛なのに』『猫は逃げた』 TAMA映画祭 特別先行上映

『これも愛 あれも愛 たぶん愛 きっと愛』

そう歌ったのは松坂慶子(『愛の水中花』(五木寛之作詞)、1979年)だが、『愛なのに』(2022年2月公開予定)を観ながら、つくづく、世の中には様々な「愛」があるものだと思ったのだ。

"L/R15"は、映画監督の城定秀夫氏と今泉力哉氏が、お互いの書いた脚本を監督し、R15指定の映画を作るという企画で、2022年2月に城定監督作品『愛なのに』(今泉力哉

もっとみる

思い出が"宿る"写真~映画『おもいで写真』

21世紀に入る前後から、カメラ付き携帯電話やスマートフォンの普及で写真を撮るのが日常的な行為になった。
特別な事がなくても、たとえば、日常でふと目にした風景、食べたもの、買ったもの、出会った人…などなど、気軽に撮影できるようになった。
また、撮影される側になっても「撮られるのも日常」とばかりに、意図的でない限り、畏(かしこ)まったポーズを取ることも少なくなった。
しかし、自分ではあまり撮ろうとは思

もっとみる

「SDGs」とかムズカシイことはわからくても…~映画『Shari』~ (追記)

「美術手帖」2022年1月21日配信記事によると、本作が『第51回ロッテルダム国際映画祭の短・中編部門に公式選出された』とのこと。
同記事によると、ロッテルダム国際映画祭は、『約30万人が来場する世界最大規模の映画祭で、ヨーロッパではカンヌ、ヴェネツィア、ベルリンと並び世界でもっとも重要な映画祭のひとつである』。

2021年11月6日。渋谷に向かう山手線の車内ディスプレイに「グレタ・トゥンベリさ

もっとみる

過去に鍵をかけて未来に踏み出す~映画『シノノメ色の週末』~

「明けない夜はない」
スクリーンいっぱいに映し出された「東雲色の空」を観ながら、この使い古された言葉が、全くの真理だということに改めて気づいた。

「日常」に埋没し、惰性で生きるのは全く悪くない。
誰にとっての人生もそういうものだ、と言われれば、確かにそうなのかもしれない。

夢が叶えられなかった者は、「日常」を生きているうちに、諦めた夢を思い出すこともなくなり、諦観とともに「この人生も悪くないじ

もっとみる