"L/R15" 映画『愛なのに』『猫は逃げた』 TAMA映画祭 特別先行上映

『これも愛 あれも愛 たぶん愛 きっと愛』

そう歌ったのは松坂慶子(『愛の水中花』(五木寛之作詞)、1979年)だが、『愛なのに』(2022年2月公開予定)を観ながら、つくづく、世の中には様々な「愛」があるものだと思ったのだ。

"L/R15"は、映画監督の城定秀夫氏と今泉力哉氏が、お互いの書いた脚本を監督し、R15指定の映画を作るという企画で、2022年2月に城定監督作品『愛なのに』(今泉力哉脚本)が、翌3月に今泉監督作品『猫は逃げた』(城定秀夫脚本)が公開される予定。
その2作が、2021年11月開催の「第31回 TAMA映画祭」にて、世界初上映され、各作品の後に両監督と映画評論家の森直人氏のトークショーが行われた。

まだ正式公開前であるため、本稿ではストーリー等について詳しく書かないが、2021年に公開された今泉監督作品『街の上で』に登場する中田青渚演じる「城定イハ」が、この"L/R15"の前フリではないかとの噂は両監督が否定したことだけは書いておく。

「R15」指定で、「エロ系Vシネマ」を数多く撮っている城定監督が関わっていることもあり、両作品ともそれなりのセックスシーンがあるが、決して「エロ系」の映画ではない。
冒頭に書いたとおり、「愛」がテーマになっている。
といっても、重苦しい「愛」ではなく、両作品とも、頻繁に会場が笑い声で溢れるシーンが盛り沢山の、軽いコメディータッチの緩やかな映画だった。

主演は『愛なのに』が瀬戸康史、『猫は逃げた』が山本奈衣瑠で、その夫役の毎熊克哉が『愛なのに』に、瀬戸が『猫は逃げた』にちょっとだけ出演している。

両作品の関連性については、両監督によれば、時系列的には『猫は逃げた』は『愛なのに』の少し後に起こった話であるらしい。
また、両作品に出てくる猫は、撮られているのは同じ猫だが、作品の設定的には「同じ猫でもいいし、子どもでもいい。解釈は自由」とのこと。

『愛なのに』は冒頭に書いたとおり、様々な「愛」の形を描いている。
確かに「愛」には厳格な定義がない。
16歳の女子高生が30歳の男を一途に想うのも「愛」、女子高生との結婚なんか考えられないがそれを邪険に扱わないのも「愛」、振られても想い続けるのも「愛」、その想い続けていることを利用して求めてきた人を拒むのも「愛」…
各々、自身が思う「愛」を差し出す。しかし、差し出された相手はそれを「愛」とは認識しない。「愛なのに」、愛として受け取ってもらえない。
受け取る側は受け取る側で「欲しいのは『愛なのに』」と思っている(逆に、「必要なのは『愛じゃないのに』」と思う時もあるが…)。

幸運にもそれがお互いに届いたとして、では、その「愛」の行きつくところは「結婚」なのだろうか?
30男を好きになった女子高生は結婚を夢見る。他方、婚約中の男のセックスフレンドである女は「結婚は両家の親のためにするのだ」と諦観している。

いずれにせよ「愛」の先に結婚があったとしよう。
だが、それが最終的な幸せとして永遠に続くなどということは幻想である、と、『猫は逃げた』が主張する。

特に打ち合わせらしきものはしていない、もしくは「したかもしれない」程度らしいが、両作品は、期せずして「結婚」と「離婚」の話になっている(それ以前に両作品とも「不倫」の話なのだが)。

映画好きにとっては、「今泉脚本を城定監督が撮る」「城定脚本を今泉監督が撮る」ことで、両監督の脚本・演出の特徴がお互いにより相対化され、両監督の魅力が別の視点から理解できる貴重な体験になるのではないかと思う。
たとえば、城定監督は今泉監督から渡された脚本が「今泉節のセリフ劇でシーンや動きが少なくて困った」と証言しているし、今泉監督は「セックスシーンの勉強になった」といった発言をしている。


で、ここからは映画を観ていて個人的に思った「どーでもいい」こと。

『愛なのに』で興味を引いたのが、中島歩。
背が高く、顔も良く、声も良い彼が、恰好良ければ良いほど滑稽に見える様を、トークショーでも舞台上の3人が絶賛したほど。
彼は、婚約中にも関わらず他の女性と関係を持ってしまうが、このシーンを観て、私は「今回は、ちゃんとできたんだ(という言い方は下品だが)」と思った。
その理由は、映画『グッド・ストライプス』(岨手由貴子監督、2015年)で、同じようなことがあったからだ。
確か、「授かり婚」で萬谷緑(菊池亜希子)と結婚することになった中島演じる南澤真生が、大学時代の友人の結婚パーティーで再会した女性とホテルに行き、いざ行為に及んだものの、すぐに「動物みたいだ」と冷めてしまい、途中で帰ってしまうというシーンがあった。
だから、今回は「動物みたいだ」と思わず、継続して関係を持てた(という言い方もまた下品だが)のかぁ、と思ったのだった。
しかしながら、『愛なのに』における、最終的に中島が追い詰められる様には、観客の男性のほとんどが共感というより、ものすごく身につまされて、トラウマになってしまうかもしれない。

で、『愛なのに』の中島歩は、婚約者が、結婚式に招待する昔のバイト仲間の男性たち(その中に『猫は逃げた』に出る毎熊がいる)の中で、「昔告ってきたから」という理由で、瀬戸演じる主人公だけを外したのを知って、
「招待すればいいじゃん。一人だけ呼ばないのはおかしいよ」
と気軽に言うが、では招待状を受け取った男はどうなるのか?

今回の男(瀬戸)には恋人がいないが、いたら、今泉監督が脚本・監督を務めたWOWOWドラマ『有村架純の撮休』の6話目「好きだから不安」での『有村架純』状態となって、男がメンドクサイ状況(嫉妬から理不尽な口論を吹っ掛けられ、「出席」「欠席」どっちを選んでも納得してもらえず、揚げ句『重いよね…ゴメンね。私があなたのこともっと好きじゃなかったら良かったんだけど…好きだから、困らせて…』と拗ねられてしまう…。ドラマは最終的に男が『有村架純』を元カノのところに連れて行く展開になる…あゝメンドクサイ…)に陥るのである。
『愛なのに』を観て、招待した側は、逆に男側(や『有村架純』)が思うほどの深い意図はないのかもしれないんじゃないか(結婚式の準備は本当に大変そうで、そんなことをイチイチ気に掛けてる余裕なんてなさそうだった)と、そんなことを思った。

で、今泉監督が撮った『猫は逃げた』の方で言えば、以前「かそけきサンカヨウ」についての拙稿でも書いた、「登場人物全員がカメラに正対して横並び」のシーンでまた笑ってしまった。
それは、そのシーン自体がとても素敵(とは言え「W不倫の果ての修羅場」と言えばそうでもあるのだが…)なことに加え、「猫ドロボウでドロボウ猫」など秀逸過ぎる台詞が連発されたからでもある(会場も爆笑)。

一方の城定監督については申し訳ないことに不勉強で、本稿で何かを書けるほどの知識や経験がないのだが、2021年10月1日付朝日新聞夕刊に城定監督作品『扉を閉めた女教師』(2021年)について、映画評論家の柳下穀一郎氏の評が掲載されていた。
柳下氏による『城定秀夫作品にあっては、抑圧としてはじまるセックスも、かならずヒロインを解放へ導く』という評を基に考えるなら、城定監督が脚本を書いた『猫は逃げた』は確かに、ヒロインが(色々な解釈は可能だが、ある意味において)「解放された」とは言える。
対して、今泉脚本の城定作品は全く逆で、さとうほなみ演じる女は、瀬戸演じる男によって、(ある意味においての)「抑圧」から解放され、またそれを望んでいるようにも振る舞うが、結局は「抑圧」へと戻っていく。
以上、私の数少ない知識を頼りに、無理矢理こじつけてみた。


来年の大きな話題になりそうな2作を先行して観られたのは、本当にうれしかった。
正式公開されたら絶対に観に行こうと、今から楽しみしている。


TAMA映画祭

TAMA映画祭」は東京都多摩市主催の映画祭。今年(2021年)で31回目。

期間中に開催される「TAMA映画賞」はその年度の映画賞のトップを飾るメジャーな賞で、今年で13回目。
毎年受賞者のほとんどが登壇し、今年も俳優でいえば、役所広司、菅田将暉、尾野真千子、有村架純、藤原季節、金子大地、伊藤万理華は登壇が、三浦透子はビデオメッセージ出演が決定している(敬称略)。

さらに、「TAMA NEW WAVE」という新進気鋭の監督による映画のコンペも行われ、過去の受賞者の中には中野量太監督(『湯を沸かすほどの熱い愛』『浅田家!』など)といった、現在商業映画で活躍中の人も多い。

今泉監督は『最低』で「第10回 TAMA NEW WAVEグランプリ」、『パンとバスと2度目のハツコイ』で「第10回 TAMA映画賞 最優秀新進監督賞」を、城定監督は『アルプススタンドのはしの方』で「第12回 TAMA映画賞 特別賞」(作品賞)を、受賞している。


メモ

TAMA映画祭
プレヴュー:"L/R15"『愛なのに』×『猫は逃げた』/城定秀夫監督×今泉力哉監督

2021年11月14日。@聖蹟桜ヶ丘・ヴィータホール
両監督によるトークショーあり(聞き手:映画評論家・森直人氏)
ライブ:みらん(『愛なのに』主題歌)、LIGHTERS(『猫は逃げた』主題歌)

当日は朝11時から別の会場(ベルブホール)で『サマーフィルムにのって』を観て、松本壮史監督(『ガジラの青春』で第12回 TAMA NEW WAVE「ある視点」選出)とブルーハワイ役の祷キララさん(『Dressing UP』で第14回 TAMA NEW WAVE「女優賞」受賞)のトークを30分観て途中退席→バス移動、14時から立て続けに『愛なのに』→トーク+ライブ→『猫は逃げた』→トーク+ライブを観るというハードスケジュールだった…(誰に頼まれた訳でもないのに…)


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